初クエスト受注
冒険者登録を終えて、宿に戻った幸太郎はベッドに倒れこむ。
「つ、疲れた…」
なんかこの世界に来てから疲れるようなことばかり起きていて、旅の途中は落ち着いたかと思ったらまた疲れるようなことが起きた。
「…なんでみんなこんなに騒ぐの?おかげでどんどん気軽にカード使えなくなっていくじゃないか…」
カードの具現化、召喚魔法が使えるとしても、魔法の存在があるこの世界なら、他にも使える者がいて気軽に使えるかもしれないと考えていた。
まさか、お話にしか載ってないような超レアな能力とは思いもしなかった。
「街に着けば、召喚魔法の使い手にあって話を聞けるかもしれないと思っていたのに、これでご破算だ」
その代わり召喚魔法の使い手、召喚士達がここから南方の隠れ里に住んでいるという情報を手に入れた。
それを元に、召喚士を探すのが中長期的な方針になるだろう。
誰かがドアをノックした。
「誰?」
「ご主人様、私です」
ドアの向こうから聞こえたのは、カシラの声だった。
しかし、カシラは幸太郎のことを大将と呼ぶはず。
「どうぞ」
幸太郎はカシラを招き入れる。
ドアを開けだカシラは、虚ろな目をしたまま部屋の中には入り、幸太郎の前にひざまずく。
そして背中からカシラに取り付いている悪魔が姿を現した。
「どうしたマイニー?」
「はいご主人様。本日の定時報告です。先日よりこの男の中に取り付いて精神の監視を行ってました。当初は燻っていた小さな反抗心は現在は完全になくなっております」
「へえ、それは何でなの?やっぱり慈悲深く扱ったから?」
幸太郎は旅の間、食料も与えたし休息も与えて、決して奴隷と聞いて想像するような非道は行わなかった。
それは幸太郎がそういうのを好まないという面もあったが、大きな理由はカシラの反抗の防止だ。
「いえ、愚かなこの男はご主人様の慈悲を理解せずに、どうやって脱走するかを日々考えてました。この男の反抗心が消えたのは、ご主人様の召喚魔法を見たためです。どうもご主人様は魔物を召喚するだけでなく人も召喚できると気づいたようで、逃げることは絶対不可能と諦めたようです」
「え?でも自分が召喚できるのはあくまでカードの具現化がそう見えるだけで…ああ、なるほどそんなことは知るわけがないのか」
「ええ、この男は逃げた結果、魔法で呼び戻されて、罰を食らうことを想像して、反抗することを諦めたようです。逆に襲ったとしても、即座に魔物を呼ばれて返り討ちだとも。まあそんなことになれば、われわれはこの男に地獄も生ぬるい所業を与えるつもりですし、そもそも私が取りつく限りそんな機会は永遠に訪れませんが」
マイニーはそういってカシラの頭をたたく。
マイニーが言ったように、遠隔地の人間を呼び出すとか、そんな能力は幸太郎にはない。
あるのは、カードを具現化してビーイングを召喚する能力だけだ。
だが、カシラは魔法に対する正確な知識はなく、また普段のエルとの会話から、幸太郎がエルを召喚魔法で召喚したと誤解したのだろう。
そして冒険者組合で召喚魔法の話を聞き、幸太郎は遠隔地から魔物や人を呼び出せると勘違いした。
それなら確かに逃げることは彼にとって絶望的だ。
「しかしまあ何で逃げようと思ったんだ?別に虐待なんてしていないのに」
「エルの視線が怖いそうですよ。時々刺し殺すような目を向けますので」
「あー…それは、まあ仕方ないのかもしれないな」
カシラとその仲間がやっていた悪行を知れば女性であるエルがいい顔しないのは当然だ。
「やっぱり罰を与えるべきだよなあ。そうすればエルも溜飲が下がるかも知れないし」
幸太郎ですら憤慨したのだから、エルはなおさらだろう。
「...それはどうでしょうか…どちらかというと邪魔者として扱っているような…」
小声でマイニーはエルの心情を呟く。
「ん?何か言った?」
「いえ、何でもありません」
心に取り付く悪魔ゆえにマイニーは心の機微には聡い。
それゆえにエルの内心を正確に推し量っていたが、同僚の機嫌を損ねるのも、主人を困惑させるのも本意ではないので、彼はそれを明かさないことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、冒険者組合へビーイング達を引き連れて幸太郎が向かうと、中にいた冒険者達の視線が幸太郎とその周囲に集まった。
「あれがうわさの召喚士か」
「伝説の存在じゃなかったとはな」
「しかも異国人とはな」
「冒険者志望にしては体つきが細いな」
「術士でもあるらしいしあんなものでは?それに召喚獣を使役するから直接戦闘や力仕事は任せられるのだろう」
「いいな。仲間に欲しい」
そう言って各々が幸太郎を値踏みして、どう仲間に誘うか相談し始める。
(あああ、やっぱり注目されてる…)
不幸中の幸いと言うべきか、そのおかげでフードを被ったエルはあまり注目されていない。
フードを被っていても、エルは美人さは全く損なわれないから、ああ言うナンパが湧くのは予想できた。
そうでなくてもまた王族付きのエルフと勘違いされるのは非常に良くないので、普段はフードを被って顔を隠すように指示していた。
無数の視線を受けて萎縮しながらも幸太郎は、受付へと向かう。
「いらっしゃいませ、幸太郎様」
そこにいたのは昨日とは違う女性の職員だった。
昨日も見た覚えがないのだが、どうやら幸太郎のことは他の職員にも話が通っているようだった。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
冒険者の用件は基本的に一つしかない。
それは日銭を稼ぐための依頼の受注だ。
今来ている依頼などは掲示板に張り出されているが、それを受けられるのは実績のある冒険者だけだ。
新米は基本的に依頼は職員に聞いて斡旋してもらう形で受けることになっている。
「街に連れている魔物の登録と、依頼の確認に来ました」
「承知いたしました。ではこちらの書類に記入をお願いします」
「はい」
幸太郎は基本的な注意事項、魔物をしっかり管理できてない場合は資格剥奪の可能性があるとかそう言う基本的なこと、を確認して署名を行う。
「ありがとうございます。では魔物をここに召喚していただけますか?」
そういって職員はキラキラした目で幸太郎を見てくる。
(あ、これ召喚魔法を見たい人だ)
「す、すみません。もう召喚済みで今は外に待機させているのです」
「そうですか…ッチ、では登録のため魔物のところまでご案内いただけますか?」
「はい」
(この人舌打ちしたよ!?)
幸太郎は職員をビーイングのいるところまで案内する。
ちなみにビーイングは今回はつなぐ場所がないため、カシラに紐をつけてもたせている。
「スケリトルドラゴンと、ホーンラビットと、ミニドラゴン、これは虎でしょうか?」
フレイムタイガーは炎を出させていない。
炎は自由に温度調節が可能とはいってもどう見ても燃えている生き物を連れ歩くのは村の時のように余計なトラブルを招くだけだろう。
「あ、これも魔物です。名前はフレイムタイガーといいまして炎を出す虎です」
幸太郎の説明に呼応して、フレイムタイガーも全身から炎を出す。
「こ、これは!?」
職員は目を輝かせてフレイムタイガーに近づくが、さすがに燃えているように見える虎に近づくのは難しいようで、近すぎず遠すぎずのところからフレイムタイガーを眺めていた。
「触りたいのであれば触れますよ?おとなしい子ですし、炎も見た目だけです。その証拠に縄が燃えてないでしょう?」
「え?いいんですか!?では失礼して」
そういって職員はフレイムタイガーに恐る恐る近づいてその背中に手を伸ばす。
「ああ〜もふもふだ〜」
そしてフレイムタイガーがおとなしく炎も害がないのを知るとその獣毛を存分にもふもふしていった。
ついでにホーンラビットももふもふされていた。
(この人もふらーだった!)
もふもふで上機嫌になった職員によって魔物登録はスムーズに進んだ。
「あ、あの私も触っていいですか?」
「私も!」
「もふもふ!」
そして、その様子を見た街の人によって、フレイムタイガーは見た目より怖くないことが広がって、触りたがる人が増えた。
「よかった!あの職員さんのおかげで、フレイムタイガー連れてても問題なくなったっぽい!感謝、圧倒的感謝!」
「ゴロゴロ」
そうやって上機嫌で1人と1匹は抱き合っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ごほん。では改めまして、今受けられる依頼はこちらです」
魔物登録を終えて、受付に戻り、受け取った依頼容姿の束を幸太郎は確認していく。
「思ったより多いですね」
「ええ、初心者向けの依頼は基本的には街の人がやりたがらない魔物出現地域の採取や害獣駆除が殆どです。これらは地域貢献の観点から割安で引き受けてますので依頼の数はいつも多いですよ」
「なるほど」
確かに内容を見ると、街の中のジャイアントラット駆除や、森の中の薬草採取など、危険が伴うが初心者が受けるには最適な依頼が多い。
(ジャイアントラットは聞いたことのないビーイングだな。もしかしたら100/100以下のビーイングなのだろうか?その可能性は高そうだ。ホーンラビットの討伐は依頼にないな)
「ホーンラビットの討伐は依頼にないんですか?」
「ホーンラビットは単独で討伐できて初心者脱出と言われます一つの壁ですので受注できるのはある程度実績を積んだ後です」
(ああ、まあそうだよな。ホーンラビットってソルジャーと同じくらい強いからな。冒険者なりたてには厳しいよな)
「そうですか。ではこの薬草採取の依頼を受けようかと思います」
「かしこまりました。あと最近この辺りでゴブリンの目撃情報が入っています。ゴブリンを見かけた場合はすぐに撤退してください」
ゴブリン
ビーイング
アタック100
ディフェンス100
マナコスト1
額面だけ見れば、ゴブリンはホーンラビット並みに強力なビーイングだ。
だがカードにはゴブリンが三体書かれているのが気になった。
「ゴブリンはそんなに強いのですか?」
「いえ、1匹1匹はそんなに強くありません。初心者でも倒せるくらい弱いです。ただ彼らは基本的に群れで行動します。群れに遭遇したら初心者は生きては帰れませんよ?ほら言うじゃないですか。ゴブリンを1匹見かけたら20匹いると思えって」
Gかよと思ったが、幸太郎は素直にうなずいておく。
「三体揃ったら初心者には強敵ですよ。まあ、ですがそれは本当の初心者の場合です。幸太郎様のような伝説と言われた召喚士、それも燃える虎のような高位の魔物を使役している方ならば、ゴブリンなど物の数ではないでしょう。もし可能であれば討伐をお願いします。実績として加算されますし」
「わかりました。その時は討伐を試みます」
職員からお墨付きをもらった。
メインクエは薬草採取、サブクエがゴブリン討伐と言ったところだろう。
幸太郎は薬草採取のクエストを受注した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はあ…はあ…」
ある冒険者が森の中を必死で走っていた。
「なんだあれは?なんなんだあの数は!」
数十匹、いや数百匹のゴブリンの群れが逃げる冒険者を追いかける。
「ゴブリンがあんなにいるなんて聞いてないぞ!とにかく組合に報告を…」
「グギャア」
前から三匹のゴブリンが飛びかかる。
「邪魔、だぁ!」
冒険者は抜き様に剣を振るう。
飛びかかった三匹のゴブリンは一刀両断される。
「はぁはぁ」
冒険者は金属によってランク付けされている。
下から銅、銀、金、白金、ミスリルとランク付けされており、彼は銀に所属していた。
「くそ、ゴブリンなんて普段なら物の数じゃないのに…」
急に走っていたところを足止めされて心臓が爆発しそうになる。そのせいで胸を押さえてしまい、すぐに動き出せなくなった冒険者に背後から追いかけてきたゴブリン数十匹が殺到する。
「畜生…マリ…」
それが冒険者の最後の言葉になった。




