3.シェラタンの裏街道
「アルマ、ちょっともう少しあっち行って」
「いや無理。ここそんな広くない」
「ってアルマ?!どこ触ってんの!くすぐったい!」
「ん?耳かしら?」
「お前ら暴れるな。アルマ、お前胸当たってる」
「うわ、ソルのエッチ」
「ちょ、ソル何やってんの!」
「俺の所為か?!お前らが暴れるからだろ!ウラガン噛むな!!リオン押すな!!」
狭い路地裏の凹みにこそこそと隠れて騒ぎ立てる三人と一匹。
追跡の目から逃れるために程よい隠れ場所と思い紛れ込んだはいいものの、人型三人が入り込むのにはかなり狭い場所だった。
隠れるはずが、ぎゃあぎゃあ喚きだす始末なものだから、これでは魔力探知を防止させ、姿が見えないように身を潜めても、人間としての聴覚でもってあっという間に居所がばれてしまう。
「ちょ、いいから黙れ伏せろ」
がっ、と問答無用でリオンの耳とアルマの頭を両手で押さえつけて頭を下げさせ黙らせる。文句を言いながらも大人しく頭を下げたアルマは俺と同じ方へ視線を向ける。リオンもフードを目深に被るも、耳が布越しに動くのを見る限り気付いているだろう。
視線の端には魔術学院の制服を纏った学生達数名がきょろきょろと周囲を見渡しながら散策をしている。目的対象は竜を連れた俺達。
目的は先日の第一の追跡者金牛宮の王子様達と同じ、学院の課題をこなすことに違いない。
ここ何日も同じような来客が後を絶たなかった。路銀集めに勤しんだ際に遭遇したレトラートとシルエによって、現在地を魔術学院に知らされたところで、他の学生達にもその情報は平等に流されているようだった。これはシルエから聞いた、オブリガス学院長からの課題を聞いた時点で分かっていた事ではある。送られた情報は、全学生へと発信される。学生から寄越された情報が虚偽であった場合には、発覚次第それなりの罰を与えることになっているらしい為、魔術学院から伝達される情報は明確な物であるとし、全学生はその情報を頼りに課題達成を遂行する事になっているらしい。らしいばかりで確証は無いが、単位獲得に躍起なシルエからの情報であるから真実と思っていいのだろう。それなりの罰とは何ぞや、と思うと同時に嘘かどうかを発覚させるのは中々難しい気もすると感じたが、あの魔術学院であるからこそ真実か偽りかを把握する魔術でも行使する手腕を持っているのだろうと納得する。あの狸おっさんのやる事だ、何でもありな気がしてならない。
更にシルエから聞いた情報では、二人一組だけでなく、集団を組んで課題をこなしても良し、とされているようだった。金牛宮主従コンビを退けた翌日、街道では後輩に当たるだろう、入学仕立てを絵に描いたような若者たちが大勢立ち塞がっていた。会ったことも無い学生達に人相書きのような物を手にしながら「先輩見つけたっ!!」「うわ、本物!!」とか言ってるのを見るのはあまり気持ちの良いものでも無かった。更にまだあどけなさを残した少年少女達が一斉に「かかれー!」と言いながら向かってくるのは構わないのだが、無闇やたらに魔術を行使し、自分の守護者も巻添えにしてみたり、魔力の暴発を促したりと自滅もいい事をし出す始末。魔力数値が高い少年少女が居たら、放っておくと本当に命を落とす事になりかねないとも思える行為をしだしかねなかった。暴走する前にさっさと蹴りを付けることにしたのはいいが、やはりちょっと少年少女に手を上げるのは些か良心が痛む。相手は盗賊でも無いのに。
あのおっさん、マジで最悪なことしてくれるな。
再び思い出すだけで、現在米神に血管が浮かんでいるに違いない。弱い者虐めをするのは趣味ではない。しかし手加減をするのも中々疲れる。
街道外れや、街道沿いを歩いていても時折学生達に出くわすことが多く、人が居ないのをいいとして周囲を気にせず攻撃をしかけてくる学生も多く、ここ最近はしんどい日々の連続だ。
そこで俺達が導き出したのは街中であれば堂々と攻撃を仕掛けてくることも無いのでは、という結論。そして街で荷馬車でも見つけて学生達に見つからずに当初の目的通り加護の外へと移動する手段を取る事にした。
で、現在は結局首都ハマルから出発すると言われる物資配送の荷馬車に便乗させてもらおうと画策中の結果、首都ハマルに隣接している街シェラタンの路地裏にて冒頭に至る。案の定連日学生達に出くわしていた所為で、白羊宮領には魔術学院の学生達が集結している状況であり、最終目撃地とされている周辺には学生が集結しているようだった。ちらほらと街中でさえもこうやって見かける為に表だって行動ができない。俺達別に指名手配犯でも何でもないのだが、この処遇は一体何だと言うのだと文句しか出てこない訳だが、その文句を叩きつけたい相手に面と向かって言いに行ったが最後、まぁ確実に面倒臭い用事を告げられ、魔術学院に待機を言い渡されるのが目に見えている。
当然そんな結果は俺もアルマも望んではいない。ここは俺達の良心の呵責に苛まれないように見つからずに無事3か月弱の期間限定課題終了とやらが終わるまで過ごすだけである。
「ねぇ、魔術学院っていつもこんな課題を出してるの?魔術学院の学生って、長期休暇や卒業するまでは魔術学院の外に出るのは難しいって聞いたことがあるんだけど・・・?それに何でウラガンを捕獲することが課題なのか、僕さっぱり理解ができないなんだけど。やっぱり竜が珍しいから?ていうか、むしろ二人がこの竜、魔術学院から盗んできたとかじゃないだろうね・・・?」
学生達が見えなくなるとリオンがほ、と一息ついてから疑惑の目を向けてくる。盗んでくるとは心外な。
「うっわ、リオン酷い。こんな私に懐いている竜、誘拐してきたわけないじゃない。むしろウラガンがいつの間にか私のとこに居たんだから。どこから来たのか知らないけど、魔術学院が興味津々で研究対象にしたがって居たのを、んな事させないように態々あそこから抜け出したっていうのに」
「きゅー」
アルマが心底不愉快そうに眉を顰めるのと裏腹に、ウラガンの細い首を撫でる指はとても優しげだ。気持ちの良さそうにウラガンはその指へとすり寄る様は心の底から懐いているのが傍から見ても納得できるもので、リオンはだよねぇ、と曖昧に返すだけ。
「抜け出した、って・・・ちょっと待って、じゃあアルマまだ学生だったの?」
「いんや。もう卒業試験はこなしてるし、合格もらってる。卒業証書だけ貰って無いけどね〜」
学生がいなくなったことを確認すると、ひらりとマントを翻してアルマが通りへと出る。それに倣うように俺達も狭い通りから伸びをしながら通りへと足を踏み出した。
「え、それってどうなの・・・? 大丈夫なの?」
「別に俺達魔術学院から職業斡旋をしてもらうつもりも無かったし、卒業証書を使ってどこかの高給取りに就職するつもりも無いから問題ない。要は魔術行使を学べばそれで充分だったから」
「え、でも魔術学院の卒業者であれば、すごく優遇されるよね・・・?勿体無いじゃないか」
確かに魔術学院の卒業者、というだけでこの世界ではありとあらゆる事に特権が付く。
その理由は卒業することそれ事態が難しいから、だ。
この世界は12宮の加護を受けている時点で生命の泉から巡る生命の流より溢れる魔力が地上に溢れている。其の為生まれながらに人も生物も魔力を少なからず身に宿していると言われているが、その有する魔力は各自個人差があり、魔力を行使することができる者も限られている。魔力の保有量然り、世界に溢れる魔力と共鳴することができるかどうか、相性にもよるといった先天性の所が強い。その時点で魔術学院に入学できるかどうか振るいにかけられ、その後も学年が上がる毎に行われる試験を通過しなければ上には進めない。つまり、魔術学院内には落第者も当然多く、途中で卒業を諦め退学する者も多いのだ。しかし、その卒業したという証明があれば、12宮領のどこの領においてもその身分は証明され、魔術行使のエキスパートとして各領で重宝され、一生の保証が得られるのも事実。其の為に魔術学院の入学希望者は後を絶たない。
「抜け出したってこと、ご両親は知ってるの?」
リオンの言葉が通りに響く。思わずその言葉に俺達兄妹は彼の顔をまじまじと見つめてしまった。
「って、何その反応・・・?駄目だよ、ご両親にはちゃんと知らせないと後悔するよ?」
何も言わない俺達に対して慌てて続けるリオンはまるで自分は後悔をしているかのような言い方だ。一人で白羊宮に住んでいたことと何か関係でもあるのだろうかと思考も過るが、とりあえず心配そうなリオンを先に安心させるのが先だろう。
「問題ないよリオン。私達両親いないから」
肩を竦めて返すアルマに俺も「そうそう」と相槌を打つ。反対にリオンは驚いた後にバツの悪そうな顔をしてしまう。
「巫女様が言ってた失われた一族ってそういう・・・ご、ごめん、僕、余計な事・・・」
「俺達が小さい頃だしなー。それに魔術学院に通ってれば親元から離れてる学生ばかりだし似たようなもんだ」
「だよね〜。だから謝る必要性が無い訳だよリオン。ていうか、リオンは親御様が大事なのね〜」
耳を項垂れてしょぼくれるリオンの首にアルマは腕を回して耳をわしゃわしゃとしだす。それにはリオンも慌ててアルマを引きはがそうといつもの調子に戻った。この手の話題で暗くなるのはもう疾うの昔に終わっている。親がいない子供は世界には数多くいれば、いつまでもそこで立ち止まっている程人間は弱くできているものでもない。生命あるものはいつかは終わりが来る。それを知ってさえいれば、やる事はその生き様をどのように過ごすかという事に意義が存在していると俺達は教わった。
・・・そもそも論、あの両親が本当にくたばったかどうか俺達自身が確証を得ていない。故に悲観する落とし所が俺達にはあまり無い、というのが本心だと思っている。
「でも魔術学院って確か結構な入学金だっているでしょ?あ、でも二人なら特待生的な免除利用・・・?」
「リオン本当に詳しいね。下世話な話まで知ってるんかい」
アルマが苦笑しながら腕を離すとリオンは「魔術学院に行きたかったって言ったでしょ」と得意げに胸を張った。
リオンの言う通り魔術学院は3歳児位から入学可能な幼等部から始まり、初等、中等、高等、最終的に極等部までがある。基本的に高等部まで進めば卒業したとみなされるが、その上の極等部では文字通り魔術を極める意志を持つ者が進む段階だ。勿論この部を卒業すれば破格の待遇が約束される。但しその内容は一般人では理解不能とも言える段階だ。その間における学費も当然生半可な額では無く、金銭面の問題で自主退学する者も当然存在する。其の為課題の中には金銭授与が認められる他領からの依頼が含まれていることもあれば、金銭の支払いを免れるように早期卒業を示唆するものも存在している。今回学院長が提示した課題も早期卒業を付与しているのがいい例だ。
「んー。特待生と言うかなんというか。まぁ、後見人が魔術学院の学院長だった、ってのもあるかもね」
「ふーん・・・・・え?!」
「けど学費はそれ相応に払ったさ。一応それなりの家だったし、親の遺産使ってな」
「あのおっさんに借り作るのもなんか後が怖い、っていう感じもしたからねぇ」
「え、ちょ、二人ともそれはつまり今回出されてる課題って・・・後見人の学院長さんが二人を探してる、ってことじゃないの?!」
返答の代わりに明後日の方向を見る俺とアルマ。流石にリオンも俺達兄妹と魔術学院のトップとの関連を知ればそう考えるのが普通か。
「だっておかしいでしょ、二人が連れてる竜を君等に許可なく捕獲してこい、なんて!きっと抜け出したの知った学院長さんが二人に戻ってきてほしいんじゃないかな。もしウラガンが捕獲されちゃったらアルマ取り返しに魔術学院に戻りそうだし、学生達一杯来て二人とも凄く面倒くさそうだから、その内学院長さんに課題の取りやめとか直談判しにも行きそうだし・・・そういった事見越しての学院長さんからの課題な気がするんだけど」
「ま、だからと言って帰る気も無いけどね」
「全くだ。そこまで分かってるなら上出来だリオン。さっさと加護の外の土地に行くぞー」
「ええええ?!二人ともそれでいいのー?!」
騒ぐリオンを尻目に俺達はシェラタンから首都ハマルへと通じる大通りへと向かい始める。今居るのは裏通りである為人通りは自分達だけではあるが、白羊宮領の主都に向かう為の街ともあって表通りは流石に人通りが多くなる。その人込みに紛れ込んでしまえば魔術学院の学生達もそう簡単に俺達を見つけることもできないだろう。もし見つかったとしても当初の思惑通り、一般人を巻き込んでまで攻防を始めようとするような輩はいない、筈だ。常識人であれば。
しかし、その思いとは裏腹に突如降りかかるのが災難というもので、一歩踏み出した途端耳に届いたのは悲鳴。それも先程見送った俺達を追って来ていた学生達が進んで行った方向からだった。
「っアルマ?!」
一瞬の躊躇いはあったものの、アルマは直ぐにその声の方向へと駆け出す。静止の声は端から聞く耳は持っていないだろう。こちらを振り向くこともせずに後ろ姿は小さくなっていく。
無鉄砲娘め、何かあったらどうする?!
リオンも慌ててアルマの後を追いかけだし、残された俺としても方向音痴の妹を放っておけるわけも無い。色々と面倒そうな予感しか感じなかったが、二人の後を追いかけ、悲鳴のした方向へと駆け出した。
魔術学院の仕組みの補足。
日本における教育機関みたいな感じの設定を盛り込んでおります。
初等部は、5~10歳までの入学。もっと幼少時でも、知識と力量が追い付けば入学可能。(幼等部がこれに当たる。)進学が普通に行けば入学時にもよるが最短6年で中等部へ。
中等部は11歳から15歳向け。進学が順調であれば最短5年間で高等部へ。
高等部は16歳からで最短学業期間は3年間。
最終的に極等部。高等部を卒業後に行くスペシャリスト養成。(大学や院みたいな感じを推奨。)卒業要件は功績をあげる的なものも含まれるので、卒業年数はまばら。
同じ年代の学生達が集まる傾向なものの、留年者や、入学が遅かった者とかもいるので幅広い年代が一学年に居たりする。追々学生時代の話も打ち込んでいきたいです。
読了ありがとうございます(深々




