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十二宮の調律師  作者:
二章 課題と事件
11/13

2.魔術学院の課題

夜空を表すかのような深い濃紺地に、星々の瞬きを思わせるような色合いで縁取られた外套。その裾には魔術学院(アルス・マグナ)の紋章が刻まれている。更に外套の下から覗くのは、外套と同色地の見慣れた魔術学院における制服。腰に下げる長剣を見る限り守護者養成所ガーディアン・アカデミーに在籍している者と見るべきか。


「ついに、ついに見つけたぞっ!!ここで貴様を打ち倒し、俺こそが学院一の守護者(ガーディアン)であることを知らしめるっ!!」


意気込みついでに拳を力強く握りしめるその美青年の様子を仰ぎ見る。

月明かりに照らされる金髪は見事に輝くばかり。その瞳は深い海の色を思わせるかのような青。すらりとした長身に、整った顔立ちは誰もが振り返るような美貌を持っていると言って過言ではない。隣にいるアルマも「わぁイケメン」と棒読みで呟き、リオンに至ってもほぅ、と感激しているのが良い証拠か。


しかし、俺の知り合いにこんな奴いたか?


「ソル、名前呼ばれてるけど。知り合い?」

「いや、覚えがない」

「何だと貴様っ!! 俺を覚えていないだとぉおおっ?!」


アルマに知り合いか否かどうかを尋ねられれば返すのは否定。地団太を踏むが如くムキになりだすその人物には申し訳ないが、魔術学院(アルス・マグナ)並びに守護者養成所ガーディアン・アカデミーに在籍する学生はごまんと居る。入学時により学年に分けられ、更に個々の有する力量によりクラスが分別され、それを端から端まで覚えているというのは中々酷なことだ。同じクラスになり接点が生じていればそれなりに接触することで記憶にも残るものではあるが。


「っソルヴェントス!ならば思い出させてやろう! この俺を!我が名はっ」

「ソル、長くなりそうだから私アジトにお宝探しに行ってくるわ」

「いや、面倒そうだから俺も行くわ。リオン、ウラガン相手してやってくれ」

「えぇ?!やだよ、僕等も行くよ!」


アルマを呼び止め、共にくるりと踵を返し元々の進行方向へと足を踏み入れると、リオンも慌てて後を追ってこようとする。当然ウラガンもアルマの頭部へと位置を決め置いていくなと抗議じみた唸り声をあげた。中々お目にかけることも無さそうな美青年の相手をしてあげないとは酷い奴らだ。目の保養にはなるだろうに。


「酷いのは貴様だろうがっ!話を聞けっ!!」


美青年は美青年でも、憤慨気味に怒鳴り散らす相手は少々残念な人物であり相手するのは面倒そうなことに違いは無いのだが。


「いいか、俺はレトラート=ドラダ=マティス=タウルス=デフェンサ!金牛宮(タウルス)領が王家、」

「マジで長いんですけど」

「いいから最後まで聞いて!!」


聞く耳持たないつもりでいるにも関わらず、アルマの評価の正しい長ったらしい名前を口上した挙句、更にまだ口上を述べようとしている。最後は泣き落としに入り出した。王家だか何だか知らないが、知らない人に着いて行っちゃいけません。面倒そうな所には行ってもいけません。君子危うきに近寄らず。これ即ち放置が正しい選択。


「・・・って王家?」

「左様でございます。こちらにおわすお方は金牛宮(タウルス)のデフェンサ王家の第3王子、レトラート=ドラダ=マティス=タウルス=デフェンサ様にあらせられます。長いのでどうぞ親しみを込めて“ラート”とハート付きでお呼び差し上げて下さいませ」

「遠慮しとくわ」

「同じく」

「同感であります」

「シルエー!お前どちらの味方だっ?!」


シルエ、と呼ばれた小柄な女性が突如レトラートうんたらの紹介を引き継ぎ割って入ってきた。説明ついでに彼を擁護するようで実際には貶している感が否めないその態度に、丁寧な敬語から従者かと思ったが、その実違うのかもしれない。更にその容姿は美青年と同じように見目麗しい。肩口まで切りそろえられた流れるような金髪に、美青年よりは薄い青色の瞳がこちらを見据えている。血縁関係者かと想像させる容姿。彼女も美青年と同じように魔術学院(アルス・マグナ)の外套を羽織っているということは、当該組織に在籍する者だろう。帯剣するレトラートに付いているとすれば、彼女は二人一組(ペア)の相手、魔術師(メイジ)、あるいは魔導師(セージ)か。


「お初にお目にかかります。私レトラート様のお守り・・・ではなく従者のシルエ=エンバハドールと申します。代々デフェンサ王家にお仕えする一族の端くれでございます。以後お見知りおきください、ソルヴェントス先輩、アルマラファル先輩」

「お前、お守りってなんだお守りって」


うっかり真実というか本心を曝け出す彼女に対し、見るからにその端正な顔を顰めて従者を睨みつける王子サマが居るのだが、睨まれる当の本人は深々と頭を下げるだけで取り合わず。従者シルエはこの第3王子の扱いに長けていることがそのやりとりで十分すぎる程分かった。そして俺達兄妹の事を“先輩”と評するということは、現在彼女が魔術学院(アルス・マグナ)にて学んでいるという事。学生が、俺達に何の用だと言うのだろうか。加えて耳にしたことのある金牛宮(タウルス)領の王族に絡まれる覚えも毛頭無い。

金牛宮(タウルス)領は王政によって統治されている12宮の領域の一つだ。それを統べる王族こそがデフェンサ王家。当家は金髪碧眼の一族と聞いているが、目の前にいる相手がその通りの容姿をしていることから彼らの言う事は真実だろう。脈絡と受け継がれる魔力保有量は一般と比べれば凌駕し、代々生まれる御子達は例外無く魔術学院(アルス・マグナ)に通い魔力行使の(すべ)を学んだと聞く。しかしレトラートの様子を見るに、彼は守護者養成所ガーディアン・アカデミーを選択し、腕を磨いた様子が見られる。デフェンサ王家にしては珍しい部類の人材だ。


「そう、貴様を倒すために磨いてきた俺の力量、今日こそ貴様に知らしめる!!」

「レトラート様、熱が入るのも分かりますが、本日の目的はそれではございません。貴方様の戯言に付き合わされるシルエの気持ちも推し量り下さい」

「戯言とはなんだ!あのいけ好かない顔を歪めさせ、屈服させ、学院長にも、同期にも俺の方が上ということを知らしめるのだ!卒業試験なんぞ興味も無い!(ドラゴン)を捕まえて届ける課題など私の知った事ではないのだっ!」

(ドラゴン)を捕まえて届ける課題?」


レトラートが零した言葉を復唱するアルマの語尾が鋭くなる。(ドラゴン)、と称される存在を今現在考えるとしたならば、それはつまりアルマの頭部に座すウラガンの事か。アルマが拾い、可愛がり、大事にしている彼女にとって最早家族ともいえる白い幼竜。意識が自身の方に向いたのが分かるのか、ウラガンは首をすくめて事の成り行きを見守っているが、アルマの剣呑な雰囲気に少々困惑気味でもあった。かくいう俺もあまり聞き捨てならない話ではある。課題、と称される時点で、魔術学院(アルス・マグナ)がどこからか受けた依頼を任された任務とは違う。大体学生には基本的に任務遂行を命じられることは無い。ギルドに依頼を伝達し、ギルドから受ける者、あるいは既卒し、既に職に就いている者に対し時と場合により直接任務遂行者を指名して依頼するのが通常だ。そして“課題”と言われるのであれば、それは学院内での学業の一端として学生に課されたもの、という事になる。


王子様の隣にいる従者は側頭部に指を当て「この馬鹿王子、目的ばらしてどうするんですか」と嘆息するが、主人の暴走は慣れているのか直ぐに平静を装いこちらに向き直った。


「先日、オブリガス学院長から、魔術学院(アルス・マグナ)の全生徒に特別課題が言い渡されました」

「特別課題?」


リオンが事の成り行きに戸惑いながらも疑問の声を上げる。学院長の名が出た時点で嫌な予感がする。


「はい。内容はソルヴェントス先輩、アルマラファル先輩が連れている(ドラゴン)を捕獲し魔術学院(アルス・マグナ)に届ける事。期限は約3カ月弱。長期休暇に移る前まで。これができれば、例え学年的に卒業前でも、特別に卒業可能にするというものです。他にも様々な条件に合わせて単位取得や救済処置等の特典も付けられており、現在魔術学院(アルス・マグナ)ではお祭り騒ぎのようなものです」

「おい、授業は」

「開催されてはおりますが、ほぼ皆外に出ておりますので休講かと」


表情一つ変えることなく淡々と俺の質問に返すシルエ。

嫌な予感が大的中である。つまり、魔術学院(アルス・マグナ)の学生全員が俺達兄妹を探し、かつウラガンを狙っている追跡者であり、詰まる所俺達の前に立ちはだかる相手になるということ。

冗談じゃない。悪党ならばまだしも、学生を問答無用でぼこる事も出来ないではないか。


「あんのクソおっさん・・・・・!」


事の面倒臭さに気付いたアルマが悪態をつく。

今すぐにでも殴りに行きたいものではあるが、そうすると折角抜け出してきた努力が水泡に帰す。

と、一つ思い至る。もしかすると、奴は魔術学院(アルス・マグナ)に俺達が戻ってくること、それが本来の目的かもしれない。

学生達にやる気を出させ、ある意味貴重な経験をさせることもでき、俺達も帰還する可能性が高い課題。学院長にとってそれはどちらに転んでも良い思いをする課題となる。だとすれば、その思惑に乗ってやるのは当然癪だ。ウラガンを餌に、煩わしい事をしてくれる。


「先程学院長にここの現在地を転送したので、私達の単位獲得は確実です。先輩方の第一発見者は我々なのですから、ここは引きましょう。レトラート様、(ドラゴン)の捕獲だけならまだしも、あの数の盗賊どもを蹴散らした先輩方とやり合うのは無謀です」


ちらりとぐるぐると締め上げられた盗賊達を視界に入れシルエが告げる。

しかしこれ又聞き捨てならない。現在地を知らせたとは何事だ。しかも単位獲得というのが又、すっとぼけた学院長らしいやり方だ。中にはきっと一戦交えたらレポート無し、とかな勢いではないのか。


「いいえ、先輩方と戦闘をしたら全科目の2回分の試験免除です」


学生の本分忘れちゃ駄目だろ。戦闘じゃなくて勉強しろ。そんな特典付きということは、確かに全学生が魔術学院(アルス・マグナ)を出立しているという情報も真実味がある。試験という名の付くものが好きな奴は早々居やしないものだ。


「シルエ、俺は卒業も試験も知った事じゃない。ソルヴェントス、貴様に受けた屈辱をここで晴らし、貴様に俺を認めさせてやる」

「レトラート様、人の話聞いてませんね・・・仕方がないですね。なら試験免除も頂く事にしましょう」


先程から屈辱を受けただのと突っかかってくる王子サマだが、俺は学生時代にそんな事をした覚えがない。しかし俺の思いとは裏腹にばさりと外套を脱ぎ捨てすらりと長剣を抜き放つレトラート。それに倣うようにシルエも懐から魔導書を取り出し辺りの気配が変わる。

完全なる臨戦態勢。盗賊達とは違い、いくら学生といえどもれっきとした魔術師とその守護者。魔術学院(アルス・マグナ)で学んだ者として認識できる。うっかり背中を見せるのは危険行為であるのが明らかだ。


「行くぞっ!」

「リオン下がれっ、 共鳴せよ 全能なる泉 呼び出したるは青碧(せいへき)の旋風 導きたるは我が意志 吹き荒れろ 風塵(ラーファガ)


視界にレトラートが大地を蹴る様を捉え、リオンを下がらせて言霊を乗せ風を手繰り寄せる。打ち放った魔術は殺傷能力こそ無いが、強烈な突風となり大地の砂も巻き上げレトラートとシルエの前進を後退させるが如く吹き荒れる。動きを止め態勢を立て直す際などには有効な風魔法。


「っ… 共鳴せよ 全能なる泉 呼び出したるは雄黄(ゆうおう)たる大地 導きたるは我が意志 」


風に煽られながらシルエが紡ぎだし、その手にある魔導書に光が宿る。彼女の魔術行使における媒介だろう。魔力を行使する際には媒介を用いることにより生命の流ウェルテックス・ヴィーテから大気中に溢れる魔力と自身の魔力の共鳴を助け、より少ない自身の魔力でもって魔術発動を円滑にしているのが基本だ。媒介は人によって様々だが、魔導書に直接魔力との共鳴を促す陣が書き込まれていることで魔術行使が最もしやすいとも言われている。自身で作成する場合には膨大な知識を有し時間もかかるが、購入する際は高値がつくものだ。シルエの有する魔導書がどちらのタイプかは分からないが、彼女の呪文に合わせ周囲の地の元素が明るい黄色の光となって視界に現出する。


「貫き通せ 地氷柱エザフォス・クルスタロ!」


大地に手を付き放った言葉に呼応するように、地面からこちらに向かって無数の突起物がランダムに生えてくる。その範囲は予想以上に広い。しかし退治し終わった盗賊達には当たらないように配慮されている所を見ると、シルエの魔術の腕が高いことが分かる。


「うわわわっ?!」

「はっ、退屈しないで済みそうだなっ」

「その余裕、いつまでも持つと思うなソルヴェントス!」


シルエの魔術による突起物が突風に対する衝立にもなり、風の威力が収まる。そしてリオンが困惑する程その突起物が迫る中、ここぞとばかりにレトラートが飛び込んできた。しかしそのレトラートの一突き並びに、向かい来る突起物は全て目前で弾き飛ばされる。


「レトラート様っ!」

「っなんだとっ?!」

「地の元素を司る金牛宮(タウルス)領の出、ってのは伊達じゃないってかね。辺りがぼっこぼこだわ」


俺では無く、妹によって押し返されたレトラートが大地から伸びた柱にぶつかることで、それが崩れた。シルエは従者らしく主人を心配する声をあげるが、その本人はアルマが対峙したことに驚いたのか目を見張るだけで大したダメージを食らっているようでは無い。精神的に図太いと同時に、体も頑丈にできているようで安心だ。


「ソル、どうする?」

「・・・・・戦意喪失を願おうか。リオンはちょっと下がってろ。ウラガンも大人しくな」

「戦意喪失だと?笑止!これ位で引き下がるとは思ってはいまい!シルエ行くぞ!」


やる気満々の状態の王子サマを黙らせるのは少々骨が折れそうだが、日々の鍛練もかねて相対するのも悪くは無い。同じ相手とだけ手合せしているとお互いがお互いの動きを読めるようになったりと不便さがあるのも事実。ここは一つ楽しませてもらうのもいいだろう。

一つ目配せをすれば、アルマはレトラートに向かって走り出す。それに驚いた様子を見せたレトラートだが、直ぐに態勢を整えると移し鏡のようにアルマに向かっていく。


「ソルヴェントスでなくとも手加減はせんっ!」

「手加減してくれるなら是非お願いしたいけどね?」


貴族的精神か、あるいは守護者(ガーディアン)としての、騎士道精神じみたものがあるのかレトラートはアマルに対して一言断りを入れている。しかしそんな甘い事を言っていられるような生半可な妹では無い。レトラートの振り下ろした長剣を左手で受け流し懐に踏み込めば右手で下から切り上げる。レトラートはそれに気づき後方に跳ぶが、切り上げと同時にアルマは追う。木々の間に金属音が響き合う音が幾重にも広がった。


「っく、やる、なっ」

「そりゃどーも」


何度となく打ち合うレトラートの表情に少しばかりの焦りが生じる。

反対にアルマにおいて見えるのは軽口を紡ぐ余裕。

長剣の動きはリーチの長さが利点だが、手数はアルマの扱う双剣にはやはり劣る物だ。手練れになればその剣捌きはありえない手数を生み出すものになるだろうが、現在のレトラートとアルマにしてみれば、彼女が懐に入り込んだら体力の続く限り攻撃数はアルマに軍配が上がる。となると現在のレトラートの防戦一方の様子からすると、アルマの呼吸が切れる所を待っている、と言えるだろう。

俺はと言えば二人の様子ばかり見ている訳ではない。シルエの呪文詠唱を聞き取り、妨害すべくこちらも行動を開始する。シルエは従者らしく主人に対する防御膜を展開する地魔法を繰り出し、レトラートに浴びせられる剣戟の威力を落とし、アルマの呼吸が切れるのを早く促そうとしている。ならばその思惑を邪魔させてもらおうと同じく魔術展開を開始しつつ前進する。


周囲の気温が幾分か下がる。背後にいるリオンが僅かに身震いをし縮こまった。そして呼び出したのは水の元素に訴える細めの無数の氷柱。ぱきぱきと軽い音が響く中、俺の周囲に次から次へと生み出されていく。魔力量により調整可能なそれらは二人に向かう分量、にしては少々多い程度か。


「射抜け 氷柱矢(クルスタロ・ヴェロス)


出現した矢の狙いは詠唱中のシルエとアルマと交戦中のレトラートへ。但しそれはアルマの背にを狙っているのと同義であり、彼女の背後にある氷の矢はレトラートに見えていない。アルマは俺の魔術発動を既に予想して敢えてレトラートに見せないように動いている。彼女は俺の魔術の発動をぎりぎりまで引き付けてからレトラートの剣を弾いて横へと飛び別方向へと走る。


「んなっ?!」

「っなんて数?!」


レトラートがアルマが下がったと同時に見えた氷の矢に驚きの表情を浮かべるが、直ぐに長剣に魔力を通し向かい来る矢を叩き落とすべく構える。シルエは別方向に動く矢にレトラートへの支援魔術を中断し、軌道上から外れるべく逃げに入りのが見えた。が、どちらも予想通りの動きに思わず笑みがこぼれる。


「これしきの魔術で我々を止められると思うなよっ!」


向かい来た矢を魔剣と化した自らの長剣でもって叩き斬るレトラートの勘は素晴らしい。その矢は普通に当たれば殺傷能力もさることながら、受けた場所から徐々に氷に覆われる付随効果付きだ。それらを魔力を帯びた剣で切る事で魔術効果をも相殺している。剣で見事に捌き切るのは早々できるものでは無い。だが、それも想定内。


「思ってないさ」

「レトラート様っ!!」


レトラートが全てを叩き斬った後、俺は背後から盛大に脳天に踵を落とす。一瞬こちらに気付き剣を繰り出そうとしたが、俺の一撃の方が早かった。どさり、とレトラートが大地に沈む。身体に身体強化の魔力を通したものだったが、攻撃を食らったレトラートの頭部から流血等していないから死んではいない筈だ。気絶で済んでいるだろう。


「はい終了」


アルマの明るい声が通った向こう側では、シルエが座り込みアルマを見上げている。その足元には彼女の魔力の媒介となる魔術書がアルマの剣によって串刺しになっていた。悪戯小僧のような笑みを浮かべるアルマに対し、シルエは驚いたような、困惑したような、あるいは怯えも含んだような表情で見上げている。何故アルマが後衛に居る自分の目の前にいるのか、という疑問の表情だ。

シルエにとっては俺達兄妹の立ち位置は学院内で公表されている妹が魔術師(メイジ)であり、兄が守護者(ガーディアン)というもの。その戦闘スタイルは守護者(ガーディアン)魔術師(メイジ)の魔術発動を助け、防衛すること。あるいは仇為す者を殲滅する守護者(ガーディアン)を支援する魔術師(メイジ)、というスタイルが魔術学院(アルス・マグナ)内でのセオリーだ。だが、俺達はそのセオリー通りには当てはまらない。どちらも後衛に回るつもりはないのだ。

実戦経験が少ない学生達は二人一組(ペア)の意味を正確に認識していないのだろう。接近戦に遠距離戦、それらを魔術師(メイジ)守護者(ガーディアン)は分断して行うと誰が決めたのか。


「っ参り、ました。先輩方」


一瞬の内に着いた決着。魔術媒介として役立たなくなった魔術書を前にシルエはその碧眼を悔しそうに細めて頭を垂れる。レトラートは問答無用で黙らせたが、彼女の方は大人しく諦めてくれるようだ。始めから単位獲得だけが目的だった模様だし、それも当然と言えば当然か。


「じゃあ、見逃してあげるからあの人連れて早く帰りな」

「いや、ちょっと待て」


戦闘が済めば、シルエは俺達にとっては魔術学院アルス・マグナの唯の後輩。ぽむぽむ、とシルエの頭を軽く叩くアルマは先輩風を吹かしていたが、そこに俺は声をかける。不思議そうにこちらを見る二人だったが、せっかくの情報源を見逃す訳にもいかない。


「シルエ、って言ったな。魔術学院(アルス・マグナ)、というか、あの学院長が出した課題とやらもうちょっと詳しく教えてくれ」

「あ、それもそうだ。あのおっさん何考えてるんだか訳分からないわ」

「え、あ・・・・はい。私で分かることでしたら」


戦意喪失してくれたところで、現在の魔術学院(アルス・マグナ)の様子を詳しく聞かせてもらうことにする。シルエは何を言われるのか一瞬身構えたが、課題の事となるとほ、としたように了承をくれた。今後の行先を考えるにしても情報は大事だ。魔術学院(アルス・マグナ)の全生徒が関係するとなると、その遭遇率は嫌でも上がっていることが分かる。

幸先悪そうだ、と思いながらも俺達は久しぶりに魔術学院(アルス・マグナ)の話を聞くことにした。


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