6 常春の国で、牙を研ぐ(?)幼女
翌朝、マリナが目を覚ますと、じっと自分を見つめる妖精王と目が合いました。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙の後、マリナはぽつりと言いました。
「お母さん、お腹に赤ちゃんがいるのね」
「……そうだな」
「生きてるって、知らせることができて良かった」
「……そうだな」
妖精王の短い返事に、マリナはひとつ頷くと、きゅるる、と小さくお腹を鳴らしました。
「……お腹すいた」
「……朝ごはんにしようか」
◇◇◇
それから、数ヶ月の月日が流れました。
時間の流れが人間界とは異なる妖精の郷は、どこか穏やかで、どこか奇妙にゆっくりとしていました。
そんな常春の国で、マリナは妖精王の宮殿にどっかと居座っています。
お菓子を食べ、妖精たちに遊ばれ(あるいは妖精たちを遊び倒し)、妖精王から世界の仕組みを教わる日々ーー
「おい、マリナ。それは我が秘蔵の魔力蜜だぞ。勝手にハーブと混ぜて怪しい薬にするな」
「だって、これでお薬作ったらすっごく効果が高いんだもん。ほら、王様も飲んでみて?」
ほらっ、と、マリナはスプーンでひと匙掬って妖精王に差し出しました。
「……ふん。……悪くない味だ」
最初は幼子の扱いをすっかり忘れていて戸惑っていた妖精王でしたが、今はしっかりマリナのペースに巻き込まれていました。
前世の知識を活かしたハーブティーや軟膏といった不思議な薬、そして彼女の突飛な行動に、今や興味津々です。
(お父さん、お母さん。すぐそっちに帰れなくてごめんなさい)
マリナは妖精王の美しい横顔を見つめながら、心の中で不敵にニィ、と笑いました。
(でも私、ただで拉致されてるわけじゃないよ。妖精の魔法も、秘伝の薬草知識も、ここで全部盗んでやるんだから! 限界まで強くなって、いつか絶対、自分の力で家に帰ってみせるんだからね!)
妖精王の庇護のもと、着実に規格外な幼女へと育ちつつあるマリナ。
彼女が再び人間界の土を踏み、成長した弟(あるいは妹)や両親と再会する日は、そう遠くない未来です。




