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遥かなる居場所 その値段  作者: 茶川屏
第二章 1998年 夜の向こうに
55/59

第二十四節

 10月9日。

 十月の空は薄く曇っていた。

 秋は深まり、夏の重さはもうない。

 路地を抜ける風には、少しずつ冬の匂いが混じり始めている。

 そんな中、西尾家の台所には、カレーの匂いが満ちていた。

 鍋の蓋が、湯気に押されて小さく鳴る。

 母は玉杓子を手に、鍋の中をゆっくりとかき混ぜていた。

 遼太郎は、その横で冷蔵庫を開けた。

 白い冷気が足元へ流れる。

 牛乳。

 麦茶。

 漬物。

 昨日の煮物。

 奥の方に、プリンが二つ並んでいた。

 遼太郎は二つとも取った。

 一つは自分の分。

 もう一つは――。

 考えるまでもない。

 傍らにあった小さな手提げ袋へ入れた。

 はて、向こうにスプーンはあったやろか。

 心配になって台所を見回したところで、母が声を掛けた。

「遼ちゃん」

 振り返る。

 母の手には、小さな銀色のスプーンが二本あった。

「あ、ありがとう!」

 遼太郎は受け取って手提げ袋に入れた。

「あと、それ、富田に持っていって」

 母が顎でシンクの方を示した。

 トートバッグが置かれている。

 遼太郎は中を覗き込んだ。

 四角いタッパーが入っていた。

 半透明の蓋の内側が、湯気で曇っている。

「カレー?」

「うん。昨日の晩から夜勤のバイトや言うてたやろ。まだ寝てるかもしれへんから、起こさんでええよ」

 遼太郎はトートバッグを持ち上げた。

 底から、ほのかな熱が伝わった。

「晩飯、うち来たらええんちゃう?」

「起きる時間分からんやろ。部屋でゆっくり食ってくれたらええ」

「そっか」

「起きてたら、食べに来てもええって言うといて。そのタッパーの分は、明日に回したらええから」

「了解~」

 母がカレーを保存用のタッパーに取り分ける。

「ユーリちゃんも食べるん?」

「たぶん」

「たぶんって何やの」

「今日はスタシアさん、遅いらしいから」

「分かった。とりあえず、ご飯足しとくわ」

「うん」

 台所を出る。

 背後で、鍋の蓋が閉じられた。

 香辛料の匂いが、廊下まで追ってきた。


 西尾興業の事務所は目と鼻の先だった。

 玄関を出ると、角の向こうに事務所の二階だけが見えた。

 窓ガラスには、でかでかと「西尾興業」の文字。

 町工場から、機械の回る音が聞こえた。

 金属を削る高い音。

 トラックのエンジン。

 どこかの家から流れる夕方のニュース。

 曲がり角を一つ越える。

 古い二階建ての建物が現れた。

 一階の大きなシャッターは開いていた。

 シャッターの前には、車三台分の駐車スペースがある。

 今日も車はなかった。

 その隅に、移動式の物干し台が出されている。

 紺色の道着。

 白い手拭い。

 タオル。

 肌着。

 袴だけは、襞が崩れないよう丁寧に竿へ掛けられていた。

 秋風が吹いた。

 道着の袖が、ゆっくりと揺れた。

 ちゃんと洗濯してて偉いわ。

 三十四歳の自室は、いつも部屋干し臭かった。


 シャッターをくぐり、一階へ入った。

 外より少し暗い。

 コンクリートの床。

 壁際の棚。

 積まれた段ボール。

 工具箱。

 清掃道具。

 タイヤ。

 折り畳まれた椅子。

 箱には、中身を書いた紙が貼られている。

 工具は棚に収まり、箒やモップも壁際に揃えて立て掛けられていた。

 あの状態から、よくここまで整えたものだ。

 父と富田が、黙々と荷物を運ぶ姿が目に浮かんだ。

 奥へ進む。

 間仕切りの扉は開いていた。

 豆球の明かりしかない。

 遼太郎は足音を抑えた。

 十畳ほどの居室。

 簡素な台所。

 ユニットバスへ続くドア。

 小さな洗濯機。

 折り畳み式のちゃぶ台。

 小上がりの畳に敷かれた布団。

 富田は眠っていた。

 横向きになり、布団を肩まで被っている。

 細い目は閉じられ、いつもの掴みどころのない笑みもない。

 静かな寝顔だった。

 遼太郎は、しばらくその場に立っていた。

 それから、部屋の中を見回す。

 こちらも、よく片付いていた。

 脱いだ服は籠へ入っている。

 布団の横には、読みかけの雑誌が一冊。

 剣道具は壁際へ揃えて置かれ、竹刀も倒れないよう紐でまとめられていた。

 棚の上に、見慣れない物があった。

 使い古された黒いカメラ。

 中古のニコン。

 横には、小さな鞄。

 現像店の名前が入った紙袋。

 壁際には、畳まれた三脚が立て掛けてある。

 道場で、カメラを始めたと話していた。

 自分で見つけた、初めての趣味だと。

 壁際のサイドボードには、写真が並んでいた。

 事務所前で皆で花火をした時の写真。

 運動会の時の写真。

 二人三脚をする母とスタシア。

 吊るされたあんパンに食いつく栞。

 借り物競争に連れ出される父。

 お題は髭の人だったらしい。

 リレーでユーリにバトンを渡す遼太郎。

 アンカーのユーリはビリから一位に逆転した。

 抑えろと言ったのに。

 負けず嫌いなんは相変わらずやな。

 くすりと笑った。

 最後の一枚は父が撮ったものだった。

 写真の中の富田は昼食のおにぎりを頬張っていた。

 遼太郎はサイドボードから目を離した。

 眠る富田に目を向けた。

 良かった。

 ただ、そう思った。


 富田が小さく身じろぎした。

 遼太郎は息を止める。

 だが、起きなかった。

 そろそろと台所へ向かう。

 小さな流し台。

 一口のガス台。

 冷蔵庫。

 冷蔵庫の扉を開けた。

 中には、作り置きらしい容器がいくつか入っている。

 遼太郎は、母から預かったタッパーを空いた場所へ押し込んだ。

 扉を閉める。

 音を立てないよう、最後まで手を添えた。

 振り返る。

 富田はまだ眠っている。

「おやすみ」

 小さく言った。

 返事はなかった。

 遼太郎は、そのまま部屋を出た。

 作業場を抜け、外に戻る。

 大きなシャッターの脇。

 防犯用の小さなシャッターは上がっていた。

 その奥に、コンクリートの階段が伸びている。

 狭い。

 段の端が欠けている。

 手すりには、茶色い錆が浮いていた。

 外階段を上り切ると、小さな踊り場へ出た。

 事務所の扉。

 遼太郎は拳を作り、二度叩いた。

 コン、コン。

 中で音がした。

 何かを机へ置く音。

 足音。

 鍵の回る音。

 扉が開いた。

 銀色の髪が覗く。

「おかえり」

 ユーリが笑った。

「ただいま」

 自然に言葉が出た。

 ユーリが扉を大きく開ける。

 そのまま遼太郎の背中へ腕を回した。

 細い身体。

 柔らかい髪。

 温かな頬。

 遼太郎も、背中へ腕を回す。

 手提げ袋が、小さく音を立てた。

 頬が触れる。

 唇が一度、重なった。

 ユーリはすぐに身体を離した。

「遅かったね」

「下に寄ってた」

「富田さん?」

「うん。夜勤明けで、まだ寝てたわ」

「さっき足が出てたから掛け直したんだけど、また飛び出してなかった?」

「ちゃんと布団被ってたで」

 事務所に入る。

 後ろではユーリが扉を閉め、再び鍵を掛けていた。

 二階は一階より明るかった。

 道路側の窓から、秋の薄い光が差し込んでいる。

 窓際の中央には、父の大きな机。

 部屋の奥、壁際には栞の机。

 左の壁には、まだ使う者のいない机が二つ並んでいた。

 書類棚。

 電話。

 ファクス。

 流し台。

 小さな冷蔵庫。

 部屋の中央には、応接スペース。

 申し訳程度のソファと低い机。

 その正面に、テレビが置かれている。

 滅多に客など来ない。

 応接用の駐車スペースといい、単なる遊び場に変わり果てていた。

 遼太郎は流し台の方に向かった。

 ユーリが近づいてきた。

「何持ってきたの?」

「プリン」

「ウチの分もある?」

「なかったら怒るやろ」

「怒る」

 ユーリが笑う。

 冷蔵庫を開け、プリンを二つ並べた。


 ソファへ向かう。

 低い机の上には、金色のニンテンドー64が置かれていた。

 一目惚れだった。

 家には、すでに黒い本体が一台ある。

 それでも事務所用だと理由をつけて買ってしまった。

 ゲームソフトの箱。

 コントローラー。

 説明書。

 どれも出しっぱなしになっている。

 出しっぱなしにしたんは誰や。

 あれ?

 自分だった気がしてきた。

 ユーリがソファに座る。

 遼太郎も隣に腰を下ろした。

 間は空けなかった。

 肩が触れる。

 ユーリはそのまま、こちらへ体重を預けてきた。

 テレビのリモコンを取り、電源を入れる。

 夕方の情報番組。

 通販。

 野球。

 再放送のドラマ。

 チャンネルが次々と変わる。

「今日、ママ遅くなるって言ったっけ?」

「聞いた。うちで食べるやろ?」

「いいの?」

「おかん、カレー作ってたで」

 ユーリの手が止まる。

「ウチ、恵さんのカレー好きだよ」

「普通のカレーやで」

「遼ちゃんは、いつでも食べられるから分からないんだよ」

「そういうもんか」

 ユーリが再びチャンネルを変える。

「富田兄ちゃんの分も持ってきた」

「カレー?」

「うん。おかんに持っていけって言われて、部屋の冷蔵庫に入れといた」

 ユーリが、ゆっくりこちらを見た。

「冷ましてから?」

「何を?」

「カレー」

 遼太郎は瞬きをした。

 トートバッグの底から伝わった熱を思い出す。

「……熱いままや」

「遼ちゃん」

「あかんかった?」

「ほかの物まで温まるでしょ」

 言われてみれば、そうだった。

 気にしたことがなかった。

「しまった……出してくる」

「もういいよ。今から出してもしょうがないでしょ」

「そうか」

「次からは冷ましてね」

「覚えとく」

 テレビでは、知らない芸能人が料理を食べていた。

 美味しい。

 柔らかい。

 甘い。

 同じ言葉を繰り返している。

 遼太郎は、ソファの背に身体を預けた。

 チャンネルがニュース番組へ変わった。

 画面に、青い車体が映る。

 低い車高。

 大きく張り出したフェンダー。

 丸いテールランプ。

 アナウンサーの声が流れた。

『日産自動車は本日、新型スカイラインGT-Rを発表しました。発売は来年一月を予定しており――』

「あ」

 遼太郎は身を起こした。

「待って」

 ユーリが持つリモコンに手を伸ばす。

「これ?」

「これや」

「欲しいの?」

「俺ちゃう。おとん」

 テレビでは、新型車の走行映像が流れている。

 遼太郎はソファを降りた。

 窓際にある父の机に向かう。

 ユーリも後についてきた。

 確か、この引き出しのはず。

 一番下の引き出しに手を掛けた。

「勝手に開けていいの?」

「おとん、車のカタログはここに隠してんねん」

「へぇ」

 引き出しを開ける。

 紙の匂いがした。

 車のカタログが、何冊も重ねられている。

 その一番上に、薄い冊子があった。

 表紙には、テレビに映っているものと同じ車。

 ユーリが横から覗き込む。

「え、今日発表された車の資料が、もうあるの?」

「せやで。今朝、おとんがこれ持って事務所に行くとこ見てん」

 今朝。

 父は勤め先に出る前、ポストから薄い封筒を取り出した。

 中の冊子を見て、ニヤついていた。

 そのまま、西尾興業に足早に向かった。

「隠す場所はここしかあらへんからな」

「隠す必要あるの?」

「欲しいって思われたくないんやろ」

「欲しいんでしょ?」

「めちゃくちゃ欲しいと思う」

 遼太郎は冊子を開いた。

 仕様。

 写真。

 装備。

 数字。

「発表前から、知り合いに頼んでたんやと思う」

「そこまでして?」

「せやから、欲しいんやろ」

 ユーリがもう一度、表紙を見る。

「買ってあげなよ」

「買ってやりたいけどなぁ」

「買えないの?」

「今年、自由に使える金は、もうほとんどあらへん」

 ユーリの眉が動いた。

「お金ならあるでしょ」

「使える金がないねん」

 遼太郎は肩をすくめ、指を一本ずつ折った。

「事務所の維持費。富田兄ちゃんと栞姉ちゃんの給料。来年払う税金。それに、会社の運転資金」

「残りは?」

「投資で消えた」

「セイバーエージメントと、Gagoyle?」

「うん。発音ええなぁ」

「言語チート持ちに言われても複雑。それ、消えたって言わないよ」

「使えへんかったら同じや」

「同じじゃないよ」

 ユーリの声が少し硬くなった。

「運転資金と納税分を残して、残りを投資したんでしょ。そういう雑な説明、仕事で何度も見た」

「流石、お役所様。厳しいわ」

「遼ちゃんが雑なの」

「はいはい」

「はいは一回」

「栞姉ちゃんみたいなこと言うなや」

 ユーリが笑う。

 遼太郎は冊子を持ったまま、父の椅子へ目を向けた。

 自分の金で買いたい。

 父は、そう思っているのかもしれない。

「おとん、自分で稼いだ金で買いたいんかもしれん」

「どうして?」

「俺の金で買ってもらうんは、違うと思ってそう」

「家族のお金じゃないの?」

「おとんの中では、家族のためには使えても、自分の趣味には使えへんねん」

 ユーリは黙った。

 テレビでは、もう次の話題へ移っていた。

「難しいね」

「うん」

「でも、欲しいものを我慢し続けるのも違うよ」

「せやな」

 遼太郎は冊子の表紙へ目を落とした。

「来年Amazon株を売ったら、少しは余裕できるけどな」

「また投資するんでしょ」

「せやから、ブラックストームのお悩み相談室は続けなあかん」

 遼太郎は苦笑いした。

 お悩み相談室の報酬は、入ったそばから税金で半分近く持っていかれる。

 それが腹立たしかった。

「天下のGagoyleとセイバーエージメントに唾つけた人とは思えない、涙ぐましい努力だね」

「唾つけた言うな」

「違うの?」

「……だいたい合ってる」

 ユーリはカタログを一冊持ち上げた。

「でも、Gagoyleの二十パーセントでしょ」

「今は売れへん紙切れや」

「史実どおり育ったら、兆円単位だよ」

「史実どおりやったらな」

「またそれ?」

「歴史に手ぇ出してるからな。同じ未来になる保証なんてあらへん」

 史実にはなかった金が入った。

 開発が早まるかもしれない。

 失敗するかもしれない。

 未来知識は地図だった。

 だが、鵜呑みにはできない。

「知識チートが使えなくなったら、どうするの?」

「どうしよ。まじめに働くか、競馬で一発当てにいくか」

 冗談めかして答えた。

 ユーリは少し考えた。

 それから、当たり前のように言った。

「二人で稼ごうよ」

 遼太郎は顔を上げた。

「せやな。二人で小さいアパートでも借りてな」

「うん。二人でなら、やり直せる」

 ユーリは笑っていた。

 ええ女や。

 あの居酒屋で、笑って誤魔化した顔。

 花火の下で、泣きながら胸へ飛び込んできた顔。

 もっと早う、言うたればよかった。

「ほな、老後は温泉ついた家でも買って、二人でゆっくり暮らすか」

「毎日入るの?」

「飽きるまで」

「ふやけちゃうよ」

 二人で笑った。

 ユーリは父のカタログをめくり始めた。

 紙が擦れる。

 ポルシェ911のページで、指が止まった。

「ウチ、外車欲しいなぁ」

「ユーリ、車乗ってたもんな」

「うん」

「伊豆までドライブしたやろ」

 赤い車。

 海沿いの道。

 助手席から見た、運転席の横顔。

 記憶はある。

 車の名前だけが出てこない。

「赤いやつ……何やったっけ」

「ロードスター」

「ああ。そうそう、それや」

「忘れてたの?車屋の息子なのに?」

 ユーリがくすくす笑う。

「車種まで覚えてへんわ」

「遼ちゃん、助手席でずっと寝てたもんね」

「旅行もええなぁ」

「誤魔化した」

 ユーリが呆れたように目を細める。

 カタログを閉じ、別の一冊を開いた。

 ページを捲る。

「ポルシェもいいけど…」

 アストンマーティンのページで、指が止まった。

「アストンマーティンもいいね」

「スパイ映画みたいやな」

「いいじゃない」

「運転席からミサイル出そう」

「出ないよ」

 ユーリは口元を緩めたまま、カタログを閉じた。

「遼ちゃんは欲しいものないの?」

「俺?」

「車でも、何でも」

 車。

 今の身体では乗れない。

 それに――ユーリの助手席の方が好きだ。

 玩具。

 もう十分ある。

 服。

 興味がない。

 欲しいもの。

「強いて言えば、パソコンかな」

「Windows 98?」

「うん」

 動画はまだ遠い。

 回線も遅い。

 画面も小さい。

 だが、ないよりはいい。

「買わないの?」

「今のスペックやと、絶対イライラすると思うねん」

「それなら、何もない方がいいの?」

「それも嫌や」

「わがままだね」

 ユーリはため息をついた。

「ユーリも分かるやろ?」

「分かるけど。じゃあ、カスタムしようよ」

「カスタム?」

「部品を選べば、少しはましになるでしょ」

 CPU。

 メモリ。

 ハードディスク。

 グラフィックボード。

 令和の基準では石器。

 だが、その時代の中では選びようがある。

「ええな」

「でしょ?」

「買っちゃう?」

「今度、日本橋行こうよ」

「二人で行くのは厳しいやろ」

「うん。だから、富田さんにもお願いして」

「なるほど、保護者か」

 バイト代は出そう。

「兼、荷物持ち」

「酷い」

 声を上げて笑った。

 ふと、栞の机が目に入る。

 整然とした書類の束。

 鉛筆。

 帳簿。

 よく分類された封筒。

「栞姉ちゃんも連れて行こ」

「どうして?」

「これから事務所の仕事も増えるやろ」

「うん」

「栞姉ちゃんのパソコンも買った方がええ」

「何台買うの?」

「俺のと、栞姉ちゃんので二台」

 ユーリがじっとこちらを見た。

「自由に使えるお金、ないんじゃなかった?」

「二台ぐらいなら、なんとかなるやろ」

 欲張った入学祝いがまだ残っている。

「また雑な予算を組んでる」

 残っているはずだ。

「流石、お役所様」

「それ、便利に使わないでよ」

 ユーリが笑いながら、遼太郎の肩を小突いた。

「日本橋デートやな」

「富田さんと栞姉ちゃんも一緒だけど?」

「細かいことはええねん」

「じゃあ、デートでいいよ」

「楽しみや」

「ウチも」

 窓の外では、秋の日が傾いていた。

 西尾興業の小さな事務所に、夕方の光がゆっくりと伸びていた。


基本的には「好きに書くので、好きに読んでいただければ」という気持ちでおります。

とはいえ、評価をいただくと普通に嬉しくなる俗物でもあります。

お手数でなければ、ページ下部のブックマークや評価で応援いただけますと、たいへん筆が乗ります。

よろしくお願いいたします。

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