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臨命終時~散りゆく花たち~  作者: 真知コまち


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2/2

1.呆れた夏

2020年~夏の記録~


 烈日れつじつに照らされた、透き通った風炎ふうえんの流れる青空。


 小さな山の中腹に建つ、大きな日本屋敷の一室には、

 縁側に吹いた青嵐あおあらしに、和装姿の少女が、整えた髪先をなびかせる。

「暑くなったのう・・・」


 「ただいま~」


 少し離れた玄関から、心待ちにしていた言葉が聴こえて来た。


 目の色を変えたイザナが、ドタバタと、廊下を走る。

「…カラ!遅いのじゃ」


  目の前に現れたイザナに驚き、慌てて左手に持った何かを、背中に隠す。

 「あ、暑いんだから、仕方ないでしょ?」


「何を持っておるのじゃ?」


 「え…お、お使いを頼んだのは、イザナ様でしょ!」

  隠した物からイザナの注意を逸らすように、

  右手に持った袋を左右に振り、視線を誘導する。


「早う渡すのじゃ!」

 袋に向かい、飛びつく、イザナ。

 しかし、身長差のあるカラに弄ばれ、全く手が届かない。


 「こ、これは…私が責任を持って、折敷おしきに乗せて運びますから、イザナ様は、部屋を綺麗にしていて下さい」


 ねがいの込められたカラの真剣な眼差しに、思わず、一歩引いてしまう。

「わ、分かったのじゃ?」


─────────────────────────────────────


 大人しく自室に戻ったイザナは、

 たぬきの置物を左右に動かし、微調整を繰り返していた。

「よし。完璧な角度じゃ!」


 「イザナ様、お持ちしましたよ」

  黒いうるしに、朱色の蝶が描かれた折敷を持ち現れる、カラ。


  折敷には、

  赤い容器に、黄色いМのイニシャルが入れられたポテトと、

  大きな箱に入れられたハンバーガーが置かれていた。

「・・・カラ、飲み物はどこじゃ?」


 「あ、本当だ!袋に入れ忘れたんですよ、きっと。残念ですね・・・」

  どこか、白々しい話し方で、折敷を畳に置く。


「・・・カラ!外出許可じゃ!文句を言いに行くのじゃ!」

 ご立腹なイザナは、衣装箪笥たんすを開けて、現代の衣服を探し始める。


 「待って!やめて!そんなことしたら、今の時代カスハラになるから!」

  帯を解こうとするイザナに、後ろから抱きつき、落ち着きを促す、カラ。


「これは、カスハラでは無い…」

 握った拳を胸に当てて、演説者の様に遠くを見る。

「童のシェイクが、入っていなかったのだぞ…これは、正当な文句いいぶんなのじゃ!」

 小さな胸を張り、堂々と宣戦した、イザナ。 


 「イザナ様…初めはみんなそう言うんですよ…」


  後ろで手を組み、イザナから視線を逸らす、カラ。

 「あの~・・・今更、言いにくいんですけど・・・実は、私なんです」


「なん・・・じゃと・・・」


 「この暑さだと、家に辿り着くまでに溶けちゃうと思って、帰りに飲んじゃいました。ごめんなさい」


「な、なんじゃ!そうじゃったのか」

 丁寧に服装を正し、折敷の前に正座する、イザナ。


「ま、まぁ、この暑さの中、買って来たのじゃから、送料たいかを支払うのは当然なのじゃ…うむ!」


 明らかに、怒りを押し隠しているイザナを見て、

 次回は、保冷剤を持って行こうと、心に刻んだ。


  廊下に忍ばせていた物を、イザナに気づかれないように取りに行く、カラ。

 「お詫びに、冷たいカルピスを持って来たけど…」


「なんじゃと!!」

 怒りを忘れ、氷が浮かぶグラスを両手で受け取る、イザナ。


「うむ、役者が揃ったのだ。早う座れ、カラ!」

 物凄い速さで正座に戻り、畳を叩きカラを急かす。


 「はい、はい」

  イザナを見守る様に、畳の上に正座する、カラ。


 手を合わせ…

「いただきます」


 「どうぞめしあがれ」


 まずは、箱を開き、中の具が零れない様、慎重にハンバーガーを持ち上げる。

 そして一口、口いっぱいにかぶりつく。

「もぐもぐ…これじゃ(もぐ)口いっぱいに広がる(もぐ)肉汁を(もぐ)パンと野菜が(もぐ)吸い込み(もぐ)最強しんらい(もぐ)オーロラソースが(もぐ)味を調える(もぐ)


 「イザナ様、お喋りしながら食べていると、喉に詰まらせますよ」

  カルピスの入ったグラスを待ち上げ、イザナに飲むよう勧める。


「昔(もぐ)カラの連れて来た(もぐ)友人が(もぐ)言っておったぞ(もぐ)

「食事は(もぐ)お喋りしながら(もぐ)食べるもの(もぐ)だと(もぐ)


 「へーお喋りしながら…器用なご友人ですね」

  イザナ様…多分、捉え方を間違われたのだろうな~


 「それにしても、イザナ様は、沢山たべられますよね~」

  食事を取るイザナを見つめて、自らのお腹を擦る、カラ。


(ごく)なんじゃ?カラは、ダイエットでもしておるのか」


 「はい。このままだと、去年の水着が入ら…新しい水着を買うお金が無くて」


「何?カラは今(もぐ)成長期なのじゃから(もぐ)しっかり食べねば(もぐ)大きくなれんぞ(もぐ)

 食事と説教を、器用にこなす、イザナ。


  髪飾りを盛ったイザナの頭頂部を見つめる、カラ。

 「いいですよね~イザナ様は。大きくならなくて!」


 最後の一口を食べようとしていたイザナの手が止まる。

「・・・今、何と申した?」


  ゆっくりと立ち、イザナから離れる、カラ。

 「イザナ様は…”もう”成長しませんもんね」


 馬鹿にした態度のカラに腹を立て、立ち上がり腕を振り回す、イザナ。

「この小童が(ぶん)(ぶん)(ぶん)


  イザナの扱いに慣れているカラは、

  イザナの頭を手で押さえ、振り回す腕の間合いに入らせない様にする。

 「・・・イザナ様!あまり暴れると、折敷をひっくり返してしまいますよ」


 無駄な抵抗を止めたイザナは、正座もとの位置に戻り、ポテトを食べ始めた。

「まったく(もぐ)贅沢な悩みじゃ!昔は、食うに困った世の中じゃったというのに(もぐ)


  イザナが、ポテトを黙々と食べる姿を見て、少し反省する、カラ。

 「もう冷めちゃったんじゃない?少し温めて来ようか」


「ふふふ…知らんのか、カラ?ポテトは、冷えたほうが美味いのじゃ!」

「これだから、小童はの(もぐ)成長しているのじゃ(もぐ)わらわ(もぐ)知識量が(もぐ)


 「・・・」

  イザナの、あまりにも自信に満ちた顔に、

  何もつっこむ事が出来なくなる、カラ。


(もぐ)うん?」

 突然、ポテトを食べるイザナの手が止まる。


 「どうしたの?」


「カラは、ダイエットをしておるのに、童のシェイクを飲んだのか?」


 「・・・あ」


 見つめ合い、沈黙する二人・・・


 「わ、私!勉強しないと」

  沈黙に耐え切れず、颯爽と逃げ出す、カラ。


「あ、待て!逃げるでない、カラ!食べ物の恨みは、怖いんじゃぞ!」

 立ち上がり、逃げたカラを、追いかけようとした、イザナ。


「う…」 

 和装の裾を踏みつけ、足を取られ、バランスを崩す。

 折敷を蹴り倒しながらも、片足で飛び跳ね、何とか持ちこたえる。

「よぉっよぉっよぉっあ・・・」

 大きな地響きと、ガラスの割れる音が、屋敷に伝わる。

 

  音を聞きつけ、部屋に戻って来た、カラ。

 「イザナ様…大丈夫?」


 頭から流れた血が、立ち上がったイザナの全身を染め上げていた。

「・・・いつものことじゃ、他愛無たわいない」

 イザナの和装に付いた血が、蒸発し始める。

 それと同時に、畳に出来た血溜まりも、蒸発してゆく。

 イザナが流した血の痕跡は、跡形も無く消えさった。


 「あ~グラスが割れて…ほうきを持ってきますね~」


 ガラスを払い、乱れた服装を整える、イザナ。

「派手にやってしまった…後で、カラに怒られてしまうな」

 イザナが叩いた頭から、ガラスの破片が飛び出し、物が散乱した畳に落ちる。 


 戻って来たカラから箒を受け取り、惨劇を物語る現場に視線を向ける、イザナ。

「あぁ…童のポテトが…」


  箒で集めたポテトを、ゴミ袋に流し入れる、カラ。

 「食べれませんよ!割れたガラスが付いてますから」


「そんな…」

 ショックのあまり、膝から崩れ落ちる、イザナ。


  見かねたイザナが、声を掛ける。

 「はぁ~明日、学校の帰りにかってきましょうか?」

  

「・・・シェイクもか?」


 「・・・はい」


「やった~!」

 飛び跳ね喜ぶイザナは、純粋無垢な少女の様であった。

 こんなに長くなるとは・・・・

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