89 さあ、出発です!
「今までありがとう!!それじゃ~~~、行ってきます!!!」
私は思い出のいっぱい詰まったログハウスの玄関ドアに両手でタッチしながら心からお礼をいった。
今日から旅に出る。
まずは町に行って、町長さんたちに挨拶をし、用意してもらった馬車で二日かけて違う町に行く予定だ。色々な町をのんびりと順番に回りながら、最後はお城へと向かおうと話していた。
でも、その前に――
久しぶりに犬モンたちやケンちゃんと出会った森にきた。
何となく、この森に呼ばれた気がしたのだけど、あるのはいつもと変わらない光の差し込む森だった。
懐かしい、、あの日から色々な事があったな。
ケンちゃんは、自分がどうすべきか、どうしたいのか見つけた感じがする。
ケンちゃんの心はもう自由で、そして今は無力なひとりの子どもではない。
これからやりたい事を思う存分やって欲しいな。
世界を見て回ることでも国を守ることでも。
そしてそれが、いつか私と離れる事だとしても。
ふふ、なんかおかしいな......
こんなに感傷的になっている自分が、少し可笑しかった。
そういえば、初めて出会ったあの時、ケンちゃんに私はどう映っていたんだろう。
今まで聞いたことがなかったかも。
「ねえ、ケンちゃん、、」そう声をかけた時、私の周りを取り囲んで地面が光り出した。
「えっ!!!なに!?この光!!!??」
びっくりして大きな声が出た。
とっさに前を歩くみんなを見ると、光っているのは私の周りだけだった。
「師匠どうしました?」
そう振り返ったケンちゃんが光に包まれている私を見て、一瞬固まった。
次の瞬間、血相を変えて駆け寄ってきた。
「師匠!!!こちらに!!」
慌てて手を伸ばしてくれるけど、光の壁がそれを弾く。
バチッ、という音がして、ケンちゃんの手が跳ね返された。
「っ……!!」
犬モンたちも全員駆け寄ってきた。
みとが光の壁に体当たりする。
あおさが風魔法をぶつける。
でも全部、光の壁に吸い込まれていく。
私を囲む光の色が濃くなるのと反比例に、足下の地面が光に包まれて、少しずつ、少しずつ消えていく。
「や、やだ!!なに!?なんか吸い込まれそうで怖い!!どうしたらいいの!?」
ケンちゃんが叫んだ。
「師匠、スーパーフライトです!!上に飛んでください!!」
無理だよ……!!
スーパーフライトは横飛びで、縦には飛べない。
身長ピッタリくらいの光の壁が邪魔をして、横に飛ぶイメージが全然わかない。
足元の地面は縁ごと消えていって、掴まれるものが何もない。
「師匠!!」
ケンちゃんが光の壁を両手で叩き続けている。
その目に、涙が光っていた。
「嫌です!!師匠!!嫌です!!」
今まで一度も聞いたことのない、ケンちゃんの声だった。
いつもの回りくどい言い方も、丁寧な言葉も、全部消えて、ただまっすぐな気持ちだけの言葉。
みとが低く唸りながら光の壁に魔法をぶつけ続けている。
あおさが「麻美!!」と叫んで引っ掻いている。
おかめが、こつぶが、とろ豆が、必死に光の壁を押している。
みんなの声が、遠くなっていく。
足下の地面が、ほとんど消えかけていた。
私はケンちゃんの顔を、しっかりと見た。
涙でぐしゃぐしゃになって、でもまっすぐ私を見ているケンちゃんの顔を。
"あ……これ、お別れの時なんだ"
唐突に、私はそれを悟った。
急すぎて、全然心の準備ができていない。
これから旅に出るところだったのに。
まだまだ一緒にやりたい事、言いたい事が山ほどある。
でも、もうそれもできないのかな。
それなら。
ケンちゃんに、伝えたいことがある。
どうしても、今伝えておきたいことが。
「ケンちゃん!!!ねえ聞いて!!!
シュ、シュラ、
シュラディオル=エンヴァル=オルステイン=ラグナリア=アルマディオルフェンケン王子!!
あなたはもう大丈夫!!あとは自分を信じて進むだけ!!
あなたの選んだ道が未来に繋がる、あなたが進むべき道だから!!
そこに間違いはひとつだって無いから!!」
ケンちゃんは、大粒の涙をこぼしながら光の壁に手を当てて首を横に振っていた。
「......ありがとう、私の王子様」
精一杯の笑顔でケンちゃんを見つめた。
最後の言葉は音になっていたかわからないまま、私は光に吸い込まれる様に落ちていった。
お別れの時がきました




