87 それぞれのスタイルがありますから。
青空の下で食べるピザは格別に美味しかった。
正直なところビールがあれば言うことないんだけどね。
そんな事を考えていたら、
「よろしければ、こちらをお召し上がりください」
従者の一人が、城から持参したらしいワインを数本差し出してきた。
「え!いいんですか!ありがとうございます!じゃあ皆さんで早速いただきましょう!」
ワインボトルには、見たことがないラベルが貼ってあったが、赤ワインらしいことはわかった。
ジャガイモとチキンピザに赤ワイン。いいね。贅沢だ。
業務中だからと断られるかなと思いきやそんな事は無かった。
やっぱり日本人は真面目に働きすぎなんだよ!
近くにいた人が私のグラスにも注いでくれた。
「師匠、それはジュースじゃないですよ」
慌てた様子でケンちゃんが言ってきた。
「わかってるって。さすがにぶどうジュースじゃないことくらい!」
前科者は信頼がないなと思いつつ、グラスを傾ける。
うん、めっちゃ美味しい。
まさしく"太陽の恵みを存分に感じるひと口"だと思い、上手い表現ができたと自己満足に浸る。
実際、たいしてうまいことは言っていない。
そして、またひと口。
注いで貰って、またひと口。
からのまたひと口。
はたから見ればゴクゴクゴク。
そんな飲みっぷりだった。
「師匠!!」
「なーに?」
「そんなに飲んで大丈夫ですか!?」
「ん〜?大丈夫か大丈夫じゃないかって聞かれたら大丈夫!でも、酔ってますか〜酔ってませんか〜っ聞かれたら美味しくいただいでまふ!」
「師匠、それ答えになってませんよ」
「ふふふ。なんか、楽しい気持ちになってきた」
なんかいい感じにふわふわしている。
「師匠......」
「あ、そういえば!皆さんにまだケンちゃんがカッコよく飛ぶところ見せてなかったよね!?せっかくだから見せてあげたらどうかな!」
「それは、是非!」
ふたりのやりとりを聞いていた局長が身を乗り出して食いついた。
ケンちゃんが何か言いたそうな顔をしてこちらを見ているが、さっぱりわからなかった。
「ほらほら早くぅ」
私に急かされるとケンちゃんはしぶしぶ立ち上がって、はぁ、とひと呼吸(ため息?)すると、
「"ルズガルン・カナドゥ・ウチ"」
次の瞬間、風をまとったケンちゃんの体がふわりと浮き上がり、すうっと上空へと舞い上がっていった。
木々の梢を越えて、茜色に色づき始めた空と一体になる。
従者たちが一斉に空を見上げた。
「おお……!!」
「これが……!!」
「信じられない……!!」
「本当に飛んでいる……!!」
局長が、感嘆の息を漏らしながらメモを取り続けている。
ケンちゃんはくるりと一回転してから、静かにウッドデッキに降り立った。
「......こちらでよろしいでしょうか」
「かっこいい!!!さすが私の弟子!!」
私は真っ先に叫んだ。
従者たちも、口々に感嘆の声を上げていた。
局長が、興奮冷めやらぬ様子で褒め称えたあと、こちらを向いた。
「シュラディオル様、素晴らしいことでございます!......ところで、アサミ様も飛ぶことはおできになるのでしょうか」
「ええ、まあ、それなりに?」
「ぜひ!!ぜひ、お願いいたします!!」
局長が、珍しく食い気味に言ってお願いしてきた。
私はグラスをテーブルに置いて、ゆっくりと立ち上がった。
ケンちゃんが何か言いたそうな顔をしているが、ぽーっとしていて全然わからなかった。
「コホン。では、お披露目しちゃいますか!!じゃあ、あっちの木までサクッと飛んで帰ってきますね!」
「おぉ!!」
期待に満ちた歓声が上がる。
私は庭の外れの木を指差した後、両手を広げて、空に向かって叫んだ。
「スーパーフライト!!」
スーッ......!!
「お!なんだかいつもよりも飛んでる気がする!」
そんなひとり言が出るほど爽快な気分だった。
ご機嫌で庭外れの木まで行くと、くるっと木を一周回って戻って来た。
実際は飛び上がること地上30センチ。
相変わらずの高度だった。
草をかきわけ、と表現するのが相応しい、低空飛行。
やたらと姿勢の良い(横向きだけど)飛行スタイルだ。
戻ってくると、シン、と静寂が落ちていた。
「どうでした!?それなりでしょ!?」
そう言って、局長を見ると「え、ええ」と言って手元のメモに視線を落としてしまった。
他の人に目を向けるとなぜか誰とも目が合わなかった。
皆が皆、誰とも視線を合わすことなく、今見たものを理解しようと必死になっていた。
空を見上げる人、手のひらに何かを書いてる人、こめかみを押さえている人もいた。
あおさととろ豆がゲラゲラ笑い転げているのが目の端に映る。
諸々察したケンちゃんが私の隣にくると静かに言った。
「......師匠、飲酒しての飛行は危険ですのでおやめくださいね」
「あ、はい」
そして何事もなかったかのように、また皆食事を再開し、束の間のガーデンパーティーを楽しみ、夕日が沈む前に馬車は町へと向かって行った。
帰り道の馬車の中。
ふと局長が、手の中でぐしゃりと折れてしまったメモを見返した。
そこには今日一日のメモが、びっしりと書き込まれていた。
そしてメモの最終行には、
”飛行とは?”
そうひと言書かれていた。
まさかのノーコメント!
せっかくお披露目したのにね!




