86 まあまあ、お庭でピザでもいかが!
もちろん人が家具化なんてするはずもなく。
最初に我に返ったのは局長だった。
「アサミ様、今のはどういう魔法を使われたのでしょうか。まるで木が自らの意思で割れてテーブルになったような、そんな錯覚さえ起こすような、不思議な魔法でしたが」
その言葉に、従者の方たちも正気に戻って、思い思いに口を開き始めた。
「本当にあれはなんだったのだ……」
「魔法の構築式がまるでわからなかった」
「お前、属性がなんだったかわかったか?」
「いや、そもそも属性という概念で説明できるのかどうか……」
先ほどまで局長と同席していた人たちも一緒になり、それぞれ難しい顔で話し合っていた。
「えっと、テーブルセットが欲しかったので、頭の中にテーブルセットをイメージしてみました。なかなかいい感じですよね、これ」
しどろもどろになりつつも、そう私が答えると、また全員が黙ってしまった。
「イメージしたら出来たと」
「はい、そうですけど......」
見かねたのかケンちゃんが横から補足してくれた。
「師匠の魔法は、理論で説明しようとすると非常に難しいのですが、結果だけ見ればご覧の通りです」
「……なるほど」
イマイチ補足になっていなかったけど。
局長が、メモに何かを書いた。
今のやり取りの何をメモったんだろう。
気になる。
「さあ! 細かいことは置いておいて! せっかくなので皆さんでピザでもいかがですか!!」
ピザ窯に火を入れようとした時、"あっそうだ!"と思い立ち、私はケンちゃんを振り返った。
「ケンちゃん、薪に火をつけるのお願いできる?」
「はい、もちろん」
ケンちゃんが静かに窯の前に立って、片手をかざした。
「アテシュ・チュプラ」
小さな炎が小枝を焼き、やがてそれが薪に移るとパチパチと音を立てながら、じわじわと広がっていく。
あっという間に窯全体が温まってきた。
局長たちが、おお!っとどよめく。
「……今のが」
「そうです!ケンちゃんの火属性の魔法です。火力調整もお手のものなので本当にすごいんですよ!」
ケンちゃんがいたずらっぽくちょっと笑いながら、
「師匠の"コンロ強火"には負けますけどね」
そう言うと、犬モン達が無言で頷いていた。
私は「ちょっと!あおさたちまで〜」と笑いながら睨むと、従者さんたちの方を向いて、
「ちょうどピザ窯を作ったばかりで、実は使いたくてウズウズしていたのです!よろしかったらご一緒にいかがでしょうか!直ぐに焼けるのでお掛けになってお待ちくださいね!」
そう言うと、用意してあった生地を伸ばして、庭で採れたばかりの色とりどりの野菜をたっぷり乗せた採れたて野菜のピザを作ることにした。
トマトソースの上に、黄色パプリカ、緑のズッキーニ、紫の玉ねぎなどを乗せていく。
見ているだけでお腹が空いてきた。
思わず"ぐ〜"とお腹が鳴ってしまった。
誤魔化すように、
「こ、これ、全部庭の畑で採れた野菜なので新鮮です!」
そう言いながら窯に入れた。
焼いている間に、次のピザを用意していく。
以前ケンちゃんと川で釣った魚を、塩とオイルで漬けておいたものを薄く切ってのせたアンチョビ風ピザだ。
「あ、これは以前ケンちゃんと釣りをしまして。その時に釣った魚を漬けておいたんです」
「シュラディオル様が釣りをですか」
局長が、少し目を見開いた。
「ええ、ケンちゃんてば、魔法で魚を釣るものだから"ちがーう!釣りってもんはそうじゃなーい"って言ったりして、ふふふ、あれは楽しかったです!」
あの時の事を思い出しながら笑ってると、
ケンちゃんが、またいたずらっ子の顔をして、
「師匠も最後は釣れていたじゃないですか」
と言うので、思わずキーってなって、
「その節はお気遣いありがとね!」
そう、私は全然釣れなかったのだった。
辺りをチーズの焦げる香ばしい匂いが漂いはじめた。
おしゃべりしながらも何種類ものピザがどんどん焼けていく。
窯で焼くとあっという間に焼けてしまうから、かなり忙しい。
最後に、ほくほくのじゃがいもとチキンをたっぷりのせた、食べ応えのあるじゃがいもとチキンのピザを焼き上げた。
たくさんのピザが、ウッドデッキのテーブルに並んだ。
「お待たせしました!どうぞ召し上がれ!!」
従者たちが、恐る恐るといった感じでピザに手を伸ばした。
あら?ピザってこの世界にないの?
当たり前のように作ってたけど、そういえば考えた事なかったな。
一口食べた瞬間、全員の表情が変わった。
「これは......美味い」
誰かが、思わず呟いた。
「良かったです!お口にあったみたいで。たくさんあるので遠慮なさらずにどうぞ!」
既に二切れ目を食べ終えた局長が、何かをメモに書きながら言った。
「フム......アサミ様は、魔法だけではなく、料理も並々ならぬ腕をお持ちなのですね」
だから、何をメモってるの!?
ピザのレシピでも書いたのかしら




