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85 家具化する魔法

局長の心中を全く察していない私は、場に慣れてきて少し気が緩み始めていた。

そんな矢先。


あ、これはダメだ......

やばい、抑えきれる気がしない!!

全集中で身体の中央部分に集まるエネルギーを抑え込もうとしたが......


『ぐぅ〜〜〜きゅるるるる』


誤魔化しようのない、いかにもな音が私のお腹から響いた。


しかし、さすが上流階級の人たちは違う。

絶対に聞こえたであろうに、眉ひとつ動かさないでいた。

ケンちゃんも表情を変えずにいる。

まてよ、視界の端っこであおさが揺れている。


私はケンちゃんのせいにしちゃおうかと一瞬思ったけど、前科があるからやめた。

また論破される事、間違いない。

そう思い至り、私は開き直る事にした。


「ま、真面目なお話をしていたらなんだかお腹空いてきましたね!この辺で休憩にして、皆さんで軽食でもいかがですか!」


今日は天気も良いので、"外のウッドデッキで"と提案してみた。

"ご迷惑で無ければ......"と、ありがたいことに快諾してくれた。

もしかしたら、そんな流れになるかもと、あらかじめ簡単な料理を用意していたのだった。

実は私、根っからのおもてなし好きだ。


少し前にガイアスさんにお手伝いしてもらいながら作ったピザ窯を使う時が来たと、気分はルンルンだった。

試運転時こそトラブルはあった(その時の話はまたいつか)が、調整はバッチリだ。たぶんね。


外で待機されていた従者の方々にも声を掛けて、ウッドデッキに集まって貰ったものの、全員が座るイスがない。

ガーデンパーティーに相応しいテーブルセットが欲しいところだ。

ふーむ、と腕を組んで目をつぶる。

頭の中に、理想のガーデンテーブルセットを思い浮かべる。

ナチュラル色で木目のきれいなテーブル。

華奢なのに安定感のあるバランスの良い脚。

大人数でもゆったり座れる長めのベンチ。

よし、イメージは完璧だ。

目を開けると同時に、

「ガーデンテーブルセット 1(ワン)、2(ツー)、3(スリー)!」

と、地面を指差して叫んだ。


次の瞬間。

メキッ。メキメキメキメキ......ッ!!

庭の奥の木が三本、まるで意思を持ったかのように幹からバキリと割れた。

えっ?!そっち?!

地面に指を向けたのに明後日の方向から反応があることに驚いて二度見する。

我ながらリアクション昭和だな、そう思いながらも目が離せなかった。


割れた木が、みるみる薄い板へと変わっていく。

そしてその板たちが、ふわりと宙に浮き上がりこちらに向かってきた。

くるくると回りながら空中で位置を確認するように漂い、やがてひとつ、またひとつと、カシンカシンと音を立てながら組み合わさっていく。

脚が四本、天板がひとつ、するするとはまって長方形のテーブルが完成した。

続いて出来上がったベンチが左右にすうっと滑り込み、ぴたりと収まった。

それが三セット、庭に綺麗に並んだ。

最後に、どこからともなく現れた布が、テーブルの真ん中にさりげなく一筋、ふわりと降り立った。

そして空気がストンと落ち着いた。

どうやら完成したらしい。


よし、サイズ感はバッチリだ。

別に三つ欲しいって意味のワンツースリーじゃなかったのにな、と思いつつも、イメージ通りのガーデンセットに私は満足気に頷いた。

テーブルの真ん中にさりげなく一筋クロスが垂れているあたり、相変わらず空気の読み方が素晴らしい。


「あの、テーブルもご用意できましたし、どうぞおかけ......ください......?」


声を掛けようと振り返ったら、使者たちがすごい顔をしていた。

ポカンと口を開けたまま、瞬きすら忘れている人。

顎に手を当てたまま石像のように固まっている人。

足に力が入らなくなったのか、その場にへたりと座り込んでいる人。

目を見開いたまま、メモを取ろうとしてペンが落ちている人。

隣の人の袖をぎゅっと掴んで、何かを言おうとして言葉が出ていない人。


「あ、あれ......皆さん?」

私はどうしたのだろうと見渡した。


「どうかされましたか?なんだか様子が......おーい」

しばらく待っても誰も答えないので、私はケンちゃんに振り返った。

「ケンちゃん、みんなどうしたんだろう?まさか、私の魔法の影響でみんなも家具になったつもりとかじゃないよね!?」

ケンちゃんが、黙って首を振った。

「そうじゃないと思いますよ。師匠が、魔法でテーブルセットを作ったからだと思います」


「あ、なんだそっちか!良かったぁ」

「......逆に家具になったつもりになるってどういう状況ですか」

「え、だって、みんなの動きが止まってるから、魔法で気持ちだけ家具化したのかなって思って」

「......なるほど」


ケンちゃんが、深く息を吐いた。

みとが、遠い目をして空を見上げた。


ナニナニ?何か見えるの?

つられて私も空を見上げたのだった。









ボケ倒してる麻美が見えるね

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