84 For example?
「しかも師匠は町の人々から"バナナ様"と呼ばれていますから」
ケンちゃんが謎のドヤ顔をしたところで、局長が片手をスッと上げて、少し咳払いをしてから続けた。
「アサミ様のお話は一旦これくらいにして、シュラディオル様の魔法についても、お聞かせいただけますか」
ケンちゃんは、まだ話し足りない様子だったが、
「はい、わかりました」
と、返事をして少し居住まいを正した。
さっきまでの前のめりなオタクモードとは、明らかに違う顔だった。
「私の魔法は、五属性の理論に基づいた古来からの正統派な魔法でございます」
うん、まるで私が違うみたいに聞こえるね。
被害妄想だろうけど。
「五属性......では、どの属性を」
「火、水、風、土、雷。全属性を扱います」
メモを取る局長の手が、止まった。
「......全属性、でございますか」
「はい」
「......それは、つまり全属性の魔法が使えると?」
「はい、多少の得手不得手はありますが」
局長がまた、隣の男と視線を交わした。
その目は、驚愕と猜疑心が入り混じったように見えた。
私は思わず口を挟んだ。
「ケンちゃんの魔法、本当にかっこいいんですよ!凛としていて、臨機応変で、種類も豊富で良く勉強してるなぁって感心するレベルで。それに呪文?からしてかっこいいんですよね!」
「師匠」
「ちょっと難しくて直ぐには思い出せないんですけど、いかにも強そうな呪文って感じで」
「師匠」
「私の呪文と並べると、なんか申し訳なくなるくらいかっこいいんですよ!いや、私の場合は呪文っていうよりも願掛けに近いのか?そもそも呪文とかなくてもどうにかなる時もあるような」
「......師匠、話が逸れています」
「あ、ごめんなさい」
局長が、静かに咳払いをした。
「......つまり、シュラディオル様は本当に全属性を扱える、ということでよろしいでしょうか」
「はい。ただ」
ケンちゃんが少し間を置いた。
「僕の魔法は、師匠の教えがあったからこそ、ここまで使えるようになりました。聖獣にも相当鍛えられましたが」
「......と、おっしゃいますと」
「師匠に言っていただいた言葉があります。"イメージこそが命"という教えです。理論だけでは辿り着けなかった領域に、その言葉が導いてくれました」
私は思わず"ホントかよ"とツッコミを入れた。
心の中で。たぶん。
それを察したのか、こちらを見て、
「大げさではありません」
ケンちゃんが、静かに、でもキッパリと言った。
「師匠がいなければ、僕の魔法はここまで成長していません。師匠の魔法が持つ、既存の理論を超えた影響力は、計り知れないものがあります。それが事実です」
正直なところ局長は少し焦っていた。
前回部下が持ち帰った情報で作られた報告書を見た時の、あの脱力感を思い出す。
"シュラディオル様の生存確認""聖獣と女性あり"
以上。
それだけの報告書を、局長は今でも忘れられない。
あの二人と同じ轍を踏むのだけは、絶対に避けなければならない。
しかし。
目の前で繰り広げられているこの状況を、一体どう言葉にすればいいのか。
殺虫剤。ラップ。バナナ。
局長は密かに深呼吸した。
これを城に持ち帰った時、陛下や宰相はどんな顔をするだろうか。
魔法院の長老はなんと言うだろうか。
手元にあるメモを見返す。
"常識外れ?"
"かっこいい呪文?"
"既存を超越した魔法?"
"イメージ命?"
......見れば見るほど、頭が痛くなってきたのだった。
ケンちゃんの魔法の実例をひとつも言えない麻美。




