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83 規格外ってなんだっけ?

しばらくして、私はおかめと一緒に部屋へと戻った。

長いこと蓋をしていた気持ちだけに、込み上げてくる勢いが強くて、落ち着かせるのに少し時間がかかってしまった。


「お話しの途中で退席してすみませんでした。お待たせしました」

深々と頭を下げた。


すると局長たちもつられたのか、深く頭を下げた。

「いえ……こちらこそ、大変失礼いたしました」


「いえ、私こそ取り乱してしまって......」

そう言いながら、私はケンちゃんをチラッと見た。

視線に気がついたケンちゃんが、小さく頷いた。

話はついた、ということだろうか。


「あの、もう少しお時間を頂戴してよろしいですか」

局長が、改まった表情で私を見た。

「アサミ様に、ひとつ確認させていただきたいことがございまして」

そしてひと呼吸置いて、続けた。

「先日の魔物の大規模襲撃の際に、聖獣を従えた規格外の魔法使いが、魔物を一掃されたという報告を受けておりまして。貴方様が、その方でいらっしゃいますか」


「あー、なるほど。え〜と、間違ってはいませんが、でも、私だけの力ではないですね......聖獣もいましたし、それにどちらかと言うとケンちゃんのおかげというか」

どこまで答えたら良いのか迷ってちょっと詰まった。


局長の目が、わずかに見開いた。

「シュラディオル様も魔法を......?あの、その時のことをもう少し具体的にお聞きしたいのですが」


なんて答えようかと、逡巡していると、みとが局長を一瞥して、ひと言放った。

「ここに聖獣がいるということが全てだ」


局長たちが、聖獣の重い圧にピシッと固まり、みるみる顔面蒼白になっていった。

「か、かしこまりました……」


「大丈夫ですか?お茶のおかわりいかがですか?」

「……ええ、すみませんがいただきます」

局長が、力なく答えた。

お茶を淹れ直して、落ち着いたところで局長が続けた。


「……すみません。やはり、アサミ様の魔法について、もう少しお聞かせいただきたいのです。城としても、これほどの力をお持ちの方の存在は、非常に重要な事でございまして」

「私にそれほどの力は無いと思うのですが、答えられることは何でもお答えしますよ」

「ありがとうございます。では、まず具体的にどのような属性の魔法を使われるのですか」

「属性、ですか。うーん」

私は少し考えた。


「正直なところ、私もよくわかってないんですよね、属性とか理論とか。なんかこう、イメージしたものがそのままドカンといく感じなので」

「……イメージ、ですか」

「はい。こういう感じのやつ!ってイメージしたら、だいたいなんとかなる感じというか」

「……だいたいなんとかなる」

「ええ」

局長が、オウムの様に私の言葉を繰り返してから、隣の男と視線を交わした。

その目が明らかに困惑していた。


「……あの、一例を挙げていただくことは」

「えーと、そうですね、例えば魔物が、害虫っぽいなら殺虫剤をイメージしますし、巨大なものならバナナで転ばしてドーンとか......ですかね」


「……バナナでドーン」

局長の復唱がちょっとおかしくて思わず笑いそうになる。


見かねたケンちゃんが、ズイズイっと間に入ってきた。

「すみません、私から師匠の魔法についてご説明してもよろしいでしょうか」


見るとケンちゃんの目が、いつの間にかスイッチ入っていた。これは......ヤバい。

しかし、制止する間もなく、ケンちゃんはひと呼吸するとーー


「師匠の魔法は、既存の魔法理論では到底説明のつかない、完全に独自の体系を持っておられます。属性という概念そのものを超えた、言うなれば"想像の純粋な具現化"とでも申しましょうか。師匠がイメージしたものが、そのまま現実として顕現するという、これまでの魔法の常識を根底から覆す、そんな力でございます」


局長たちが、慌ててメモを取り始めた。


「具体的には、まず殺虫剤をイメージすることで、甲殻系魔物や鱗翅系魔物を一掃されました。なぜ、殺虫剤だったか伺ったところ、"害虫だと思ったから"だそうです。次に、透明な薄い膜、通称"ラップ"をイメージすることで、僕の中から溢れ出す魔力を封じ込められました。その他にも、家をイメージすることで、何もない森にログハウスを建てられたり、雨を降らせたり、巨大なハンマーでストーンゴーレムの脚を叩いて岩を抜き、バランスを崩したところに、バナナを大量に生み出してストーンゴーレムを転倒させたのです!どうしてバナナだったのか、それは誰にも理解出来ないことです!まだあります——」


「ケンちゃん、ちょっ、ちょっと待って」

私は思わず遮った。


「いかがされましたか師匠」

ケンちゃんが前のめりになっていた体を元に戻して、こちらを見た。


「なんか、並べると、すごくダサくない?」

「まさか。どれも局面を打開した、紛れもない英雄的な魔法です」

「英雄的……バナナが……?」


ケンちゃんが心なしか胸を張ったように見えた。

「はい。バナナの発想に至れる人間が、この世界に何人いると思いますか。師匠以外にはおそらく一人もいないでしょう。それが師匠の魔法の本質です」


局長たちが、静かにメモを取り続けていた。

その手が、少し震えていた。

いや、笑ってるのか?


「……バナナの発想に至れる人間が……」

「はい、唯一無二でございます」

「ケンちゃん、それ褒めてるの?」

「最大級の賛辞をお伝えしています」

ケンちゃんが真顔で答える。



なんだか眩暈がしてきた。

ふと視線を向けた先の、局長のメモの一行目に、"常識外れ......?"って書いてあるのが見えた。




ケンちゃん流の賛辞が微妙でウケる

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