81 これだけは絶対に言わせてもらう!
目の前の椅子に座ってるのは城の紋章を纏った、いかにも身分の高そうな男たちだ。
前回とは、明らかに位が違うのが一目でわかる。
何というか、高貴なオーラがある気がする。雰囲気だけど。
先ほど、門扉まで出迎えると、ここにいる三名以外の残りの人たちは外で待機するとのことだった。
決して狭くないわが家だけど、総勢十名に及ぶ成人男性を招くとなると、さすがにギュウギュウになるので正直ホッとした。
念のため、椅子とテーブルを用意しておいたのだが、正解だった。
なんか会談っぽい。いい感じだ。
「山根麻美と申します」
私は立ち上がり名乗るとお辞儀をした。
真ん中に座っていた男が立ち上がり、丁寧に、しかし威厳をもって頭を下げた。
「此度は突然お邪魔いたしまして申し訳ございません。
城の調査省内偵局局長を務めております者でございます。
先日の調査報告を受け、国王より命を受けまして改めて参りました。
まずは、シュラディオル様を今までご保護くださったヤマネアサミ様に御礼を申し上げたく存じます。
そして、シュラディオル様におかれましては、城へお戻りいただきたいとのお願いに参った次第でございます」
そう言ってケンちゃんに静かに視線を向けた。
いきなり本題を切り出してきたので、空気が一気にピリッと変わった。
ケンちゃんが、静かに背筋を伸ばした。
私は局長だという男を見て言った。
「町でお会いすることもできました。でも、ここまで来ていただいたのには理由があります」
そしてケンちゃんを見ながら続けた。
「それは彼が今どんな場所で、どんな風に生きているのかを見ていただきたかったからです」
局長はちょっと部屋を見渡してから、
「はい、シュラディオル様はこちらで過ごされていたのですね。
貴方様には感謝の意をお伝えするように国王より仰せつかって参りました。
国王に代わりまして心より御礼を申し上げます」
そう言って、三人揃って頭を下げた。
「ご承知の通りシュラディオル様は我が国の第三王子でいらっしゃいます。
国としては、第三王子をこのままこちらで、というわけには参りませんので、我々と城にお戻りいただきたいと存じます」
「なるほど。そうですか」
私はゆっくりと立ち上がった。
まるでそれが合図かのように、奥からみとが、音もなく現れた。
続いてあおさ、おかめ、とろ豆、こつぶが、静かに私の周りに集まってくる。
こつぶがそっと私の体に頭を擦り寄せた。
そして、五体の聖獣が、局長たちに向かって静かに、でも確かな威圧感をもって視線を向けた。
みとの低い唸り声が、部屋に響いた。
「......っ」
局長が、思わず後退りして、椅子がガタガタと音を立てた。
目を見開いて声が出なかった。
絶妙なタイミングで現れた犬モンたちにありがとうという気持ちを込めて、
私はこつぶをそっと撫でて言った。
「大丈夫よ、みんな」
聖獣たちの唸りが、すうっと収まった。
でも、局長への視線は外さなかった。
局長は、しばらく聖獣たちと私を交互に見ていた。
その目が、ゆっくりと変わっていくのがわかった。
「......そうですか、貴方様でしたか......」
局長の言葉は無視して。
「あのですね、私からも少しよろしいですか」
「は、はい」
「ありがとうございます。では。まず、御礼にはおよびません。私が彼と一緒にいたくてしたことですから。
......それから、お城に戻って欲しいということは、当然、お城がこの子にしてきたことも、全部把握した上でのお話なのですよね」
局長が、わずかに表情を動かした。
「はい、もちろんでございます。......ですが、当時はやむを得ない事情がありましたので......当時の判断としては——」
「やむを得ない、ですか」
私はもう一度、独り言のように繰り返した。
「......やむを得ない事情、ね」
声の温度が、下がっていくのが自分でもわかる。
「あなた方は、もし彼が、お城に行く事を拒んだら、
どうせ国がどうとか、王族としての責任がどうとか、そういう話をするつもりでしょうけど。
でも、すみません、そんなの、はっきり言ってどうでもいいことです」
「そんな無責任な......」
局長の隣にいた男性が初めて言葉を漏らした。
「子どもを森に置き去りにすることに、やむを得ない事情なんてないって言ってるんです」
そちらを向いてピシャリと言った声が、少し震えた。
「どんな事情があったって。どんな立場があったって。
それは子どもの命に比べたら、些細なことですよ。そもそも比べるに値しないと思いませんか?」
局長が息を呑んだ。
「だいたい、呪われてるって誰が判断したんですか?ちゃんと調べましたか?
ケンちゃん......彼は、自力で自分が呪われていないって事実に辿り着きましたよ。
まさかとは思いますが、理由は分からないけど危険そうだからお城から出そうとかって安直に考えたんじゃないですよね?
魔物に囲まれるかもって分かってて、それでも森に置き去りにした。
本っ当に意味がわからない!」
「......」
「自分たちで手放しておいて、今更都合よく迎えに来るなんて。
すごく許せないけど、城に戻って来てほしいなら、使者を寄越す前に、まず親が迎えに来てくださいよ。そして自分たちの判断が間違っていたと誠心誠意、彼に謝ってください。彼が謝罪を受け入れるかどうかは彼次第ですけれど。
それにたとえ、どんな状況であっても、子どもに会いたいと思うのが親でしょう?
あなた方にも、大切な人がいるなら、わかるはずでしょう?
......国王さまだから簡単に動けないんですよね、わかりますよ。
わかるけど、立場とか、事情とか、そういうものを全部ひっくり返してでも、やっぱりわが子に会いたいと思うのが親じゃないんですか。
同じ子どもを持つ親として、私は......本当に許せない!」
誰も何も言えなかった。
一気にまくし立てて、私は少し喉がかすれた。
部屋に沈黙が落ちた。
窓の外で、風が木々を揺らす音がした。
「......私だって」
それは、ほとんど独り言だった。
「茜と遥希に、会いたい......もうずっと......」
誰にも聞こえないくらいの音だった。
でも、ずっと、ずっと心の中で蓋をしてきた思いだった。
ひと粒、涙が落ちて、床で染みを作った。
よく言ったぞー麻美―!




