79 復興祭〜幸せの黄色いバナナ〜
今日は町の復興祭が行われるらしい。
復興祭開催にあたり、事前に町長さんから町を救った救世主としてパレードを行いたいという打診があった。
もちろん丁重にお断りさせていただいたけど。
救世主の一人がこんなおばちゃんとか、ガッカリさせてしまうし、ケンちゃんの身分からしても目立つことは控えた方が良いと思ったからだ。
でもお祭は大好き!昔からお祭と聞くだけでワクワクする。
なので変身して参加させてもらうことにしたのだった。
そして軍資金を町長さんからたんまりと貰う、というちゃっかりぶりを発揮した。
ガイアスさんがお迎えに来てくれるというので、待ち合わせ場所まで向かう道すがら、私のテンションはすでにマックスだった。
「お兄ちゃん!お祭りだよ!お祭り!!」
「はい、そうだね」
「屋台とか出るのかな!?この国のお祭りってどんな感じなんだろう!?楽しみすぎるね!!」
「あーちゃん、少し落ち着いて」
ケンちゃんは相変わらず平常運転だった。
大人として、できれば逆でありたかったが、性分なので仕方がない。
でも変身後の見た目と会話の内容は正しいから問題はない。
町に入った瞬間、華やかな飾り付けと人の熱気に、思わず声が出た。
「わあ!!すごい!!」
色とりどりの布が建物の間に張り巡らされ、あちこちに屋台が並んでいる。
焼いた肉の香りと、甘いお菓子の匂いが混ざり合って漂ってくる。
「お兄ちゃん!あっちにお菓子屋さんがいる!!」
走り出しそうになる私の手をケンちゃんがグイッと引っ張ってぐるりと体を回転させられ、両肩に手を置かれる。
これはもしかしてお説教タイムが始まる予感。
「あーちゃん、少しいいですか?
こういった人が多く集まる場所というのは、思いがけない方向から人が来ることも多くて、特にあーちゃんくらいの背丈だと、人混みに紛れてしまうと僕からは見えにくくなってしまうんだよ?
それに、はぐれてしまった場合、可愛いあーちゃんが一人でいるところを見知らぬ人に声をかけられる可能性もゼロではないと思うと、僕は心配で落ち着かないんだ。
だから、できれば、あーちゃん、手をつないでほしいんだけど、どうかな?」
もちろんお願いします。
すぐさま、手を差し出した。
気を取り直して、つないだ手をブンブン振り回しながら、歩き出す。
「やっぱりお祭りは屋台があってなんぼだよね!!こうじゃなきゃね!!」
犬モンたちはマスコットキーホルダーサイズで、ポシェットの中からそれぞれ外を覗いていた。
とろ豆が「わーっ!すごい!」と興奮して、ポシェットから落っこちそうになっていたけど。
真っ先に見つけたお菓子屋さんの奥さんの元に行くと、「良かった!無事だったのね!」と抱きしめてくれ、焼き菓子を一袋ずつくれた。
本屋のおじさんは、私たちの姿を見るなり最敬礼しかけたが、私が指でバツを作ると、慌てて「お、おや、お祭り見物かい?いいねぇ」と手を振ってきた。
おじさんのなんともぎこちない態度がちょっと笑えた。
広場では子どもたちが走り回り、音楽隊が楽しい曲を演奏していた。
ケンちゃんが珍しそうに辺りを見渡している。
「お兄ちゃん、お祭り好き?」
「そうだね、初めてだけど活気があってとても良いね」
「そっか。じゃあ今日はめいいっぱい楽しんでいこう!!」
完全に自分が楽しみたいだけなのが明白だった。
屋台を食べ歩き、音楽に合わせて体を揺らし、子どもたちに混ざって輪投げをして。
今夜は町長さんの屋敷に泊めてもらえる事になっているから帰る時間を気にせずに、祭を満喫していた。
すっかり日が傾いた頃、広場の中央に特設のテーブルが並び始めた。
「お兄ちゃん、あれは何してるんだろ?」
「町の皆さんが料理を持ち寄って、みんなで食べるそうだよ」
「なにそれ最高に楽しそう!!!」
私たちも人々に誘われるままにテーブルに着いた。
見たことない家庭料理が次々と並んでいく。
たくさんのお皿やコップに色とりどりの物がよそられている。
「わあ!ぶどうジュースだ!いただきます!!」
ごくごくごく。
「うん、甘くて美味しい!!おかわりいただきます!!」
ごくごくごく。
歩き回って、はしゃぎまくったから喉が渇いていた。
冷たいぶどうジュースがやけに美味しく感じた。
「ふう、なんか、身体があったかくなってきた!ん〜やっぱお祭りは気分が良くなるねぇ!」
赤ら顔でニャハハハと笑う。
「麻美、それ」
ポシェットから鼻をヒクヒクさせながら、みとがぼそっと言った。
「ぶどう酒だ」
「……え?」
ぶどう酒ってつまりワインってこと?と思った時すでに遅し。
ぽわんと頭がほんわかしてきた。
「……あれえ?なんか、世界がふわふわしてる!」
「あーちゃん!ちょっ.......!?」
ケンちゃんが焦った顔でこちらを見た。
その瞬間。
ぼしゅん。
変身が、解けた。
その場に突如現れた聖獣五体と女性と少年。
テーブルの周りにいた人々が、一斉にこちらを見た。
しんと、静寂が落ちた。
そして。
「……あ」
誰かが声を上げた。
「バナナの人だ!!!」
「バナナの人がいる!!!」
「本当だ!聖獣様もいる!!」
「バナナの人!!!」
「みんな!バナナの人がいるよ!!!」
「この町の救世主様と聖獣様とバナナの人がいらっしゃるぞ!!」
広場が、一気にざわめいた。
「……バナナの人ってまさか私……?」
どうやら、町ではそう呼ばれていたらしい事実に驚愕だ。
ケンちゃんが、明らかに笑いを堪えている。
いや、堪えられていないな。
「ふふっ......師匠の、渾身の魔法でしたからね」
「バナナだけじゃないもん!!だるまハンマーもあったし!!」
「バナナの印象が相当強すぎたのだと思います」
「くっ……!!」
続々と人が集まってくる。
「おい、集まってきてるぞ、ヤバくないか?」
あおさが警戒した声を出す。
でもすっかり酔っ払っている私には聞こえなかった。
危機感なんてこれっぽっちも感じず、そればかりか、とんでもないアイデアが浮かびニヤッとする。
「ねえねえ、ケンちゃん」
「なんですか師匠、その笑顔は」
「お祭りといえば、花火じゃない?」
「花火?とはなんですか?」
「いいから見てて!!」
私はニヒヒと立ち上がり、夜空に向かって両手を広げた。
「フラワーファイヤー!たーまやー!!!!」
次の瞬間。
ヒュ〜〜......ドン!!ドドン!!ドーーーーーン!!!
夜空に、色とりどりの光の花が次々と咲き誇った。
赤、青、金、緑。
しゅるしゅると光が舞い上がっては、夜空に大輪の花を咲かせていく。
広場全体が、一瞬で静まり返った。
そして次の瞬間、割れんばかりの歓声が上がった。
「「「おおおおおおおおお!!!!」」」
「綺麗!!!」
「すごい!!!」
「奇跡の魔法だ!!」
「バナナの人、最高ーーー!!!!」
「うるさーい!私はバナナの人じゃなーい!バナナは、バナナはこれだー!」
そう言うと、次に夜空に打ち上げたのは、黄色いバナナの形をした花火だった。
私は酔っ払った勢いそのまま、バナナ花火を打ち上げ続けた。
「「うおー!!バナナだー!!バナナ万歳!!」」
「「バナナ様万歳!!」」
人々は夜空を見上げとんでもない盛り上がりを見せている。
その隙にいつの間にか現れたガイアスさんが、
「失礼いたします」
一言だけ言って、私を横抱きに抱え、人混みを静かに、しかし迷いなく抜けていく。
後ろで「バナナ様がいなくなったー!!」という声が聞こえた気がしたが、確認する間もなく、私たちは会場から退避したのだったーー
翌朝。
「……頭が痛い」
「大丈夫ですか」
ケンちゃんが、お水を持ってきてくれた。
「ところでケンちゃん、私って昨日何かやらかした?」
ケンちゃんが少し間を置いてから、含みのある笑顔で答えた。
「そうですね......バナナの人として、町の歴史に刻まれたと思います」
以降、この町には“バナナ感謝祭"という名の、バナナの仮装をした人々が町を練り歩き、"バナナ当て大会"、"バナナ早食い競争"、"バナナで滑る子だあれ"、などのイベントが開催され大いに盛り上がるようになったのだったーー
花火をフラワーファイヤーと思ってるあたりがさすが英検4級の実力




