78 報告内容がうんち過ぎてめまい
数日後、二人の使者が戻ってきた。
内偵局局長は、両手を広げ笑顔で二人を出迎えた。
「ご苦労だった!詳細な報告、聞かせてもらおうか」
そう言って、ソファに腰掛け、二人にも座るように促す。
二人は、ぎこちない笑顔を返しながら顔を見合わせた。
そして、ほぼ同時に、おずおずと話し出した。
「局長、信じていただけないかもしれないのですが。
我々も俄には信じられなかったのですが......、亡くなられたはずの第三王子、シュラディオル様が生きておられたんです」
「な、なんだと!?」
局長は思わずソファから立ち上がって興奮気味に二人に近づいた。
「本当か!?それは確かか!?もっと詳しい状況を報告してくれ。これは、直ぐにでも報告を上げなければ!
まさか、生きていらっしゃったとは......
そうか、よくやった!!」
局長の反応が読めず怯えていた二人だったが、思いがけず褒められたことにホッと胸を撫で下ろした。
だが、次の局長の言葉で再び窮地に陥る。
「それで、今回の目的の方はどうだったのだ。聖獣と規格外の魔法使いとやらの件についても詳細に報告してくれ」
二人は高揚した気分が一気に消えていき、発する言葉の歯切れが途端に悪くなる。
「......それにつきましてはですね」
「それについては、こちらからご報告があるそうで」
「えっ!いえ、それはこちらの担当だったかと」
「いや、確認するのはお前の役目だったのでは?」
「そんな!そもそもあの女性のお名前を聞いただけで満足したのは、あなたですよね」
「馬鹿な、女性の名前を聞いただけで、私が満足したと?」
「ええ、だって、聖獣がいるのをチラッと見ただけで、満足してたじゃないですか」
「それは!その後第三王子が......だいたいお前も一緒に驚いてたじゃないか!」
局長の眉が、ピクピクと動いた。
「お前たち」
「は、はい」
「シュラディオル様の生存以外、まさか何も確認していないということか?」
二人は、揃って縮こまり小さく頷く。
「......はい」
「仰る通りでございます」
局長の顔が、見る見る青ざめて固まっていく。
「お前たち......一カ月以上もの間何をしていたんだ?聖獣と魔法使いについて調査確認に行ったのではないのか?」
「......はい。もちろんです!
ですが第三王子のご存命に大変な衝撃を受けまして、その......結果的に、生存確認だけとなりました......。
いえ、聖獣も実在しておりましたし、それからヤマネアサミと名乗る女性も一人いましたがそれ以外のことは......」
二人が再び、互いに目を合わせて睨み合う。
局長は、深く深く息を吐き、額に手を当てた。
「これは......私の人選ミスが原因か」
「申し訳ございません」
「申し訳ございません」
二人は揃って頭を下げたが、その目はまだ微妙にお互いを見ていた。
局長は、しばらく黙って二人を見つめ、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「......わかった。もういい」
「は、はい」
二人が、ほっとした顔を見せた瞬間。
「お前達には、次の任務を与える。国勢調査を行ってもらう」
「......え?」
「国全体の、人口、世帯数、産業構造、すべてを調査してこい」
「......それは、どのように」
「方法は自分達で考えろ。期限は決めない。徹底的に調べて報告しろ」
二人は、ぽかんと口を開けたまま、固まっていた。
「あの......それは、つまり」
「全て終わるまでは私に顔を見せるなよ」
局長は、それだけ言うと、二人に向かって出て行けと言わんばかりに手の平をヒラヒラさせた。
城からの馬車の中で二人は、深く腰掛けて膝に手をつきため息をつく。
「これ、どっちのせいだと思うか?」
「今さら、それを言いますか」
「だよなぁ。国勢調査って、なにから始めるんだ」
「私に聞かれてもわかりませんよ」
「まあ、命があっただけ儲けものだよな」
調査官二人がよろよろと退室していった後ーー
静かに閉まった扉をぼんやり眺めながら、局長はしばらく呆然としていた。
やがて自席に戻ると浅く椅子に腰掛け、天を仰ぎ見る。
「シュラディオル様、生存。聖獣実在。そばにヤマネアサミと名乗る女性あり。だが聖獣の能力、不明。魔法使いの詳細、不明。魔物討伐の経緯、不明か......」
ぶつぶつと、報告書に書く内容を口に出してみる。
王に、宰相に、これをなんと伝えればいいのか。
「こんなの一体、どうやって報告したらいいんだ......」
誰もいない部屋に、局長の独り言だけが響いた。
期待して!って言っちゃったもんなぁ




