77 調査官というからには調査しないと
馬車に揺られながら、二人の使者は無言だった。
気楽な任務だったはずだ。
聖獣などいるはずがないと、半信半疑で来たはずだった。
それなのに、聖獣は本当に存在した。
二人ともチラ見しかしていないが。
そして、死んだはずの第三王子まで、生きていた。
......これは、自分たちが報告して良い話なのか。
王位継承に関わる。死亡公表の責任問題に関わる。
もしかしたら、こんな重大な真実を見つけてしまった自分たちこそが、真っ先に厄介な立場に立たされるのではないか。
ただの調査役だったはずなのに――
やがて二人は、ほぼ同時に口を開いた。
「......これ、ヤバくないか?」
「ヤバいですよね」
「聞かなかったことにできると思うか?」
「無理でしょうね」
二人は同時に深いため息をついた。
「......そういえば、規格外の魔法使いって、あの女性でいいんだよな」
「......ええ、たぶん。でも、それ確認してませんよね」
「魔物を倒したことについても、何も聞いてないな」
「聞いてないですね」
「俺たち、何しに行ったんだ」
「......自己紹介だけした記憶がありますね」
馬車の中に、再び沈黙が落ちた。
「......帰りたくない」
「私もです」
「これ、局長にどう報告するんだ」
「どう報告しましょうか......」
「お前が言えよ」
「いえいえ、あなたが」
「俺は今日、急に腹が痛くなった気がする」
「私も今、ん"ん"、急に声が出なくなりました」
幼稚な押し付け合いの末、二人は揃って頭を抱えた。
「......どうしたらいいんだ」
「......本当に、どうしましょう」
馬車の車輪の音だけが、やけに耳に大きく響いていた。
時を同じくして――
城の謁見の間には、緊張感が漂っていた。
王と宰相、そして数名の重臣たちが集まる中、調査省内偵局局長が深々と頭を下げた。
「報告致します。国境の町にて、聖獣及び規格外の魔法を使う人物の存在が確認されたとの情報があり、現在調査のため使者を派遣しております」
王がすうっと目を細めた。
「なんと、聖獣とは、また大層な話だな」
宰相が静かに口を開いた。
「陛下、この件につきまして、事前に専門家へ意見を求めておりました。本日、その者をこの場に同席させております」
王が頷くと、列の端から、老齢の人物がゆっくりと進み出た。
長く国の魔法院で魔法研究に携わってきた、"魔法院の長老"と呼ばれる人物だった。
「陛下に申し上げます。聖獣の出現は、この国の歴史の奥深くに眠る、数百年以上前の古文書に綴られた"器"の出現を意味するものと考えられます」
「器、だと」
「はい。膨大な魔力を持ち、五属性の力を受け入れ、聖獣と共にあって、世界の均衡を保つ存在とされております。そして古来より、王家にはその素質を持つ者が生まれやすいと記されております」
「......」
王はわずかに顔を顰めただけで何も言わなかった。
宰相が険しい顔で口を挟む。
「......それで、私がこの者から事前に話を聞いた際、聞き流せぬことを申しておりました」
長老が静かに頭を下げた。
「申し上げにくいことではございますが......かつて"呪われている"とされ、王家より隔離・追放されたという第三王子様。あの方は......呪いではなく、未完成の器であった可能性があるかと」
謁見の間が、しんと静まり返った。
王の表情が、不快感を隠さずに動いた。
「なぜ今、それを申すのか」
「申し訳ございません。第三王子様の件は、当時より緘口令が敷かれていたようで、私のような立場では知る由もございませんでした。今回、聖獣の件でお声がかかり、王家の過去の経緯を調査させていただくことになり、初めて思い至った次第にございます」
「しかし、シュラディオル......第三王子は既に、亡くなっている」
あの状態で森に放置されて生きている可能性はまずないはずだ、王も宰相も当時を知る者は皆それが共通の認識だった。
王の言葉に、誰も、何も言えなかった。
その重い沈黙を破るように、局長が再び口を開いた。
「陛下、現在私の部下二名を、聖獣が出現したという現地に派遣しております。
まもなく、しっかりとした詳細な報告が届くはずでございます」
胸を張って、自信たっぷりに言い切った。
謁見の間に、わずかな安堵が広がった。
王が小さく頷いた。
「......よかろう。期待しておるぞ」
「はい!必ずご期待に応えられるかと存じます」
局長は、深々と頭を下げた。
その表情には、一片の不安もなかった。
あっちこっちでハードル上がりまくり!




