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69 器とはなんぞや

その日も町長さんに捕まってオセロに興じていた。

町長さんも腕は上がってきたが、まだまだだ。

序盤から私がリードしていて、町長さんが「あっそこは!」とか「しまったそこか!」などと言って唸っている。

町長さんを見てるだけでちょっと面白い。

「アサミ師匠、これはどうでしょう!」

「ぬふふふ、そこは罠ですよ町長さん。次の手でこうなるから」

「なんですと......では、こちらでどうでしょう!」

「かかりましたね、それも罠です」

「なんと!?」

町長さんが頭を抱えた。


そこへ、静かな足音が近づいてきた。

「......置くならそこではなくて、こちらの方がよろしいと思います」


ひょいと顔を出したケンちゃんが、盤面を一瞥して一箇所を指差した。


「ケンちゃん!?解読終わったの!?」

「はい。ただ今終わりました。......ちなみにここに置くと」

ケンちゃんは説明を続ける。

「次の手でここが取れて、さらにここと、ここが繋がりまして。最終的に師匠の石がこのライン上から全て消えることになります」

町長さんが目を輝かせた。

「ほほう!こりゃすごい手だ」

「コラ!ケンちゃん!!裏切り者!!」

しかし時すでに遅し。

町長さんがケンちゃんのアドバイス通りに石を置いた瞬間から、盤面が見る見る逆転していった。


「えっ、ケンちゃんオセロ知ってたの?初見でなんでそんなに的確なのよ」

「石の動きに規則性がありますので。把握するのにさほど時間はかかりませんでしたよ」


恐ろしい子......。


「おお!やりましたよ!遂に一勝しました!」

町長さんが満面の笑みで言った。

くうっ!なんかめちゃくちゃ悔しいのはなんで!?


「それより、ケンちゃん」

私は"どりゃー!"って盤をひっくり返したい気持ちをぐっと抑えて、ケンちゃんを見た。


「古文書、何かわかったの?」


ケンちゃんは静かに頷いた。

「......はい。全てではありませんが、おおよその全体像が見えてきました」

町長さんも居住まいを正した。

隣でずっと一緒に作業をしていたおじさんも静かにその場に加わった。

いつの間にか、ガイアスさんもいる。


ケンちゃんはゆっくりと、でもはっきりと話し始めた。

「まず、この世界には"器"と呼ばれる存在が周期的に現れるということがわかりました。

器とは五属性の力を受け入れ、その存在は世界のバランスを保つ役割を担っているようです。

器が不在の時期が長くなると、世界の均衡が乱れ、魔物が増えるとされていました」

「......やっぱり、魔物の増加と関係があるんだね」

「はい。そして器は、王家に生まれやすいとも書かれていました。しかし、何代も生まれなかった。いえ、実際には生まれても自身のその魔力の多さで亡くなっていたんだと思われます」


部屋が静まり返った。

ケンちゃんは視線を落として続けた。


「......つまり、以前聖獣に言われたとおり僕がそうだった、ということだと思います。

町長さん、みなさん、すみません。僕は自分の正体を明かしておりませんでしたが、実は......」


「シュラディオル=エンヴァル=オルステイン=ラグナリア=アルマディオルフェンケン王子ですな。代々この国の記録を管理する者として、王族のお名前は全て把握しております。ご病気でご逝去されたと聞いておりましたが」


町長さんが静かに言った。

えー!町長さんすごくない?

なんでフルネーム覚えてるの!?


「お気づきだったのですね。さすがのご慧眼です。

はい、まさしく僕はこの国の第三王子として生を受けました。でも、僕は器としては......欠けていると聖獣たちに言われたとおり未完成だったんです。欠けた器は魔力を制御できず、周囲に影響を及ぼす。それが、呪いだと思われていた理由だったんだと思います。そして城から密かに追放された」

「やっぱり呪いじゃなかったんだ」

「はい。膨大な量の魔力漏れだったのでしょう。師匠がラップして塞いでくれましたが」


......ラップ??


数人の顔からハテナマークが出ているがスルーした。


「そして......」

ケンちゃんが顔を上げて、私を見た。

「ここからは、僕とおじさんの推測も含まれるのですが、師匠が、この世界に呼ばれたのではないかと。

完全な器である師匠が現れたことで、その影響を受け、欠けていた僕の器が本来の形へと少しずつ整い始めた。

それは僕にとって非常に幸運なことでした。でも......」

「でも?」

「器が整い始めると、その影響力から気配が強くなります。魔物は本能的に器に引き寄せられる習性があるようで......。つまり、僕が器として育ち始めたことで、魔物が集まってくるようになったということではないかと」


部屋の中にはシンと沈黙が落ちた。

私はしばらく黙っていたが、思い切って口を開いた。


「じゃあ、魔物が増えたのは私とケンちゃんが出会ったことが原因だったってことね。私が気軽にウチにくる?って声掛けたから......。つまりそれって......私のせい?」

ケンちゃんはすぐに首を横に振った。

「違います!師匠がいなければ、僕の器は永遠に欠けたままでした。そして、自分自身の魔力に飲み込まれて生きていなかったかもしれません!

師匠のおかげで今でもこうして生きて、そして魔力の制御もできるようになりました。

魔物が増えたのは、僕の器としての素質が整った証拠でもあるのです。

それは、師匠が僕を優しく受け入れてくれたからこそ、初めて起きたことです」


町長さんが静かに言った。

「なるほど。器が存在しなければ、いずれは魔物が蔓延る世界になったと。つまり全ては、必然で不可欠なことだったということですな」

ケンちゃんが頷く。

「おそらく、僕の器が完成すれば、世界の均衡が戻り魔物も、落ち着くのではないかと思うのですが。

ただ、器の完成とは何をもっていうのかが、僕にはまだわかりません。

すみません、今の段階ではここまでしか言えないのですが」


ケンちゃんの器が完成したら、私はどうなるのだろう?

役目が終わったら......。


......今は、考えるのはやめとこう。

代わりに私は窓の外を見た。

青い空が見たかったのに、ここからは見えなかった。


フルネーム言えるなんてすごい!

って感動するところ、そこ?

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