67 初めてのお泊り
結局その日は、目当ての古文書には辿り着けなかった。
ただ、時代の特定はほぼできたようで。
次なる作業は、その中から「器」「魔物」「聖獣」というキーワードが含まれるものを片っ端から探す。
でも古文書にそのまま書いてあるわけじゃないらしく、古代語特有の比喩や概念で書かれてるから読み解くのが非常に難しいのだそうだ。
"音"だの"影"だの"余韻"だのがてんこ盛りとか、考えただけで気が遠くなる。
私たちは結局、その日はみんなで町長さんのお屋敷に泊まらせてもらい、翌朝から続きの作業をする事になった。
私たちはっていうか、作業するのはケンちゃんなんだけどね。
「こちらをお使いください」と通されたお部屋は、わが家のリビングの倍以上の広さがあった。
「ひ、広っ!!」
思わず声が出た。
部屋にはキングサイズほどあるベッドが二つ置かれてあり、中央にはベルベットのソファセットがあった。
テーブルには、茶器とお菓子が用意されている。
「お菓子まである!!」
「師匠、少し落ち着いてください」
ケンちゃんに窘められた。
でも広いお部屋って、なんかテンション上がるよね。
夕食の時間までの間、ここでゆっくりする事になったのだが、ケンちゃんは書庫から持ち込んだ本を無心になって読んでいた。
私は焼き菓子をポリポリと齧りながら、おかめの背中に寄りかかって、時々匂いを嗅いで時間を潰した。
「おかめ、私って何の役に立ってるのかな」
「麻美はいるだけで十分よ」
「それって、何も役に立ってないってことじゃない?」
「そういう意味じゃないわ。
麻美がいるから、ケンちゃんは安心して本を読めるの」
おかめは相変わらず優しくて好きだ。
「そっか......ならいっか」
実に暇だ。
そしてなんの役にも立ってない感じが、
ちょっと焦る。
「ねえみと、私って足手まといかな」
「うるさい。寝てろ」
「それ、答えになってないんだけど!」
みとは相変わらず辛辣だった。
夕食の席には、町長さんも同席してもてなしてくれた。
もう変身はしていない。
思ったとおり紹介の場で気づいていたんだそうだ。
テーブルには見たことのない料理が並んでいて、思わず目移りしてしまう。
外食なんて久しぶりすぎてテンションが上がる。
話題はもちろんアレ、"バルサンダーデラックス"についてだった。
「実は、あの時のことをずっとお伺いしたかったのですが」
町長さんが穏やかに切り出した。
「あの光煙は、やはり、アサミ様が?」
「ええ、はい。あの、たまたま居合わせまして。咄嗟の事でしたので、調整が難しくて。後処理とか、色々ご迷惑をおかけしたのではないですか?」
「いえいえ!おかげで町の被害が最小限で済みました。
ところで、あの"バルサンダーデラックス"とは、どのような魔法なのでしょうか」
町長さんが真剣な顔で聞いてくる。
「えっと、あれは......その、あの魔物がサイズ感はちょっとあれでしたが、蛾に見えまして。要するに害虫でしたので、イメージ的には、殺虫剤をデラックスにした感じで......」
「殺虫剤......デラックス......」
町長さんが静かに復唱した。
「......なるほど」
全然なるほどじゃないと思うけど、なるほどって言ってくれた。
さすができる人は許容範囲が広大だ。
ケンちゃんが静かに補足した。
「師匠の魔法は、イメージしたものをそのまま現実にする魔法でして。
属性の理論には縛られていないため、ご本人でも威力の見当がつきにくいのです」
「なるほど......では、バルサンダーデラックスというのは」
「師匠のイメージが、そうだったのだと思います」
町長さんが私を見た。
「本当に殺虫剤を、デラックスにしようと?」
「......はい」
しばらくの沈黙の後、町長さんは穏やかに微笑んだ。
「これは頼もしい限りですな」
なんかもう、この人の懐の深さが好きすぎる。
絶対、納得していないと思うけどね!
人としての厚みの差だね!




