66 やる気スイッチ入りました
頭をはたかれて、ガバッと起き上がった私は、おじさんが呆然と立ち尽くし、ガイアスさんが額に手を当てているのを見てキョトンとした。
「おじさん、どうしたの?」
あれ、思いの外低い声が出た。
えっ?と自分を見ると変身が解けていた。
犬モンたちも通常サイズに戻って呆れ顔でこちらを見ている。
あれ!?元に戻ってる!
ケンちゃんただ一人、事態に気が付かず黙々と本を読んでいる。
......さすがだ。
「あー、はい、そうですね......要するにお疲れのサンコン様が、少しお休みになられたので、おそらく、術が解けたのではないかと」
ガイアスさんが最大限に気を遣って説明してくれた。
優しい。さすがガイアスさん。
これはもう誤魔化しきれないと悟った私は、胸に手を当ててお辞儀しながら、
「騙すような真似をしまして申し訳ございません。
私は山根麻美と申します。少々事情がありまして、姿を偽っておりました。お察しの通りこちらは聖獣です。そして、そこの......まだ状況に気がついていない少年は、私の弟子というご説明で今のところはお許しくださいませんか」
そう挨拶をした。
おじさんは、こちらを見たまま立ち尽くしていたので、「あの、おじさん?」と、顔の前に手の平をひらひらさせてみる。
ハッと正気に戻ったおじさんはガバッと膝をついて座り頭を下げた。
「これは大変失礼をいたしました!まさか、そんな、こんなことが。し、信じられない」
急に膝をつくもんだからビックリした。
慌てて私もしゃがみ込んで、「あの、どうされましたか?大丈夫ですか?」とおじさんに声をかける。
おじさんは更に慌てて顔を上げて、
「これは、すみません。取り乱してしまいまして。
その......聖獣様を、こんなに間近でお目にかかれるとは思っておらず。
しかも五体も......!
いつぞやだったか、この町に聖獣様が現れたと聞いてはいましたが、俄には信じられずにおりました。
まさか古い文献の中でしか知らなかった尊い存在が、目の前に......!」
おじさんの目が赤く潤んでいた。
本当に、心の底から感動しているのがわかる。
「それだけではなく......あなた様が聖獣を従えておられるということは......もしや、あなた様こそが......」
おじさんはそこで言葉を切った。
私はしばらく黙ってから、静かに頷いた。
「すみません。私自身もまだわからない事が多いのです。引き続きご協力お願いできますか?」
おじさんは大きく息を吸い込んで、もう一度深く頭を下げた。
「......長年、古代語を学んできた理由が、今この瞬間のためだったのかもしれません。もちろん、力の限りお役に立てるよう尽くします」
そう言って顔を上げたおじさんの目は、もう潤んでいなかった。
さっきまでの本屋のおじさんとは、どこか違う顔をしていた。
そして、おじさんはスッと立ち上がり、棚を見渡した。
「ケン君!!」
ようやくケンちゃんが顔を上げた。
「え、あ......師匠!?変身が......!?あれ、僕も!?いつの間に!?」
「今はそこは問題じゃない!!
今一度、君が読んだとされる古文書の時代の特定からやり直そう。まずは文体と表現の変遷からその時代を絞り込むしかなさそうだ。君の見たという本の特徴を詳しく教えてくれるかい!」
「は、はい!!」
ケンちゃんは、おじさんの変わり様に一瞬戸惑いながらも、直ぐにキリッと顔を引き締めておじさんに説明を始めた。
ガイアスさんが静かに私の隣に立って、小さく呟いた。
「これは当分時間がかかりそうですね」
「はい」
私は小さく頷いた。
そしてこっそり付け加えた。
「......私、またヒマになったな」
ケンちゃんの集中力たるや




