64 オホホホの町長
ガイアスさんがお店を出て行ってる間、おじさんとケンちゃんは何やらまた宇宙語で会話をしていた。
相変わらず私は手持ち無沙汰で、そこにあった椅子に座って足をぶらぶらさせながら、"ガイアスさん早くぅ"などと思っていた。
しばらくすると「お待たせしました。参りましょう」とガイアスさんが迎えに来てくれた。
町長さんのお屋敷では前に来た時と同じ部屋に案内された。そこには、以前と変わらない町長さんが待っていた。
柔らかな笑顔の奥に、隙のない気配は健在だ。
ガイアスさんが私たちを紹介してくれる。
「町長、古文書について相談したいという方々をおつれしました。こちらがケン様、こちらはその妹さんです」
ケンちゃんが静かに頭を下げた。
「シュラディオル=......ケンと申します」
町長さんの眉が一瞬ピクッと動いたように見えた。
が、直ぐに穏やかに微笑んで、自分の名前を名乗り始めた。
「私は町長のファルホガード=ホサインホルド=ホロメオホホホルトです」
「オホホホさん!!」
しまった!思わずまた口から出てしまった。
部屋が一瞬静まり返った。
ケンちゃんは目で何かを訴えてくるし、町長さんは何かを思い出したのか目を見開いた。
見てないけどポシェットも揺れている気がする。
犬モンたち笑ってるな?
でも次の瞬間、町長さんは静かに表情を戻して、穏やかに言った。
「......こんにちは、お嬢さん。ようこそいらっしゃいました」
何も無かったことにしてくれた!
やっぱりこの人、できる人だ。
ガイアスさんが小さく、でも確かに肩を震わせているのが見えた。
もしや笑いをこらえてる?
これも初めて見た。
町長さんは穏やかに微笑んだまま、ゆっくりと口を開いた。
「実は私どもも、最近の魔物の増加について頭を悩ませておりまして。
原因を探ろうにも、なかなか手がかりが見つからない状況でしてね。そんな中、こちらのガイアスに、ケンさんとお呼びして良いのかな、が、古の存在と魔物の関係性について書かれた古文書を探していると伺いましてな。古代語が読める者も、この町ではもうそこにいる本屋しかおりません。もしよろしければ、うちの書庫をご覧下さい。古い記録の中に、何かお役に立てるものがあるかもしれません」
なるほど、ここに来る前に本屋のおじさんが町長とは旧知の仲だと言っていたけど、気心が知れている感じが伝わってきた。
ケンちゃんが静かに頭を下げた。
「ありがとうございます。ぜひ、お願いしたいです」
案内されたのは、屋敷の奥にある重厚な扉の向こうだった。
扉が開いた瞬間、「わあ......」と思わず声が出た。
天井まで届く棚に、本や巻物がびっしりと並んでいる。
ケンちゃんの目がキラキラし始めた。
完全にスイッチが入っているのがわかる。
町長さんが書庫の中を歩きながら説明してくれる。
「この書庫には、代々この町に伝わる記録が保管されています。古いものは数百年以上前のものもございまして」
奥の方へ進むにつれ古い紙特有の黴臭さが強くなってくる。
「すごい。こんなにたくさん......」
私は無意識に声に出していたらしい。
「ええ。私も全てに目を通すことは諦めましたよ」
そう相槌を打ってくれた。
それから町長さんは少し間を置いてから、何気ない様子で続けた。
「以前、この町に聖獣をお連れになった方がいらっしゃいましてね、私はその方のことが、ずっと気になっておりました。お元気だということは聞いておりましたがね。聖獣を五体も従えるような非常......に変わった方でしたが。いやいや、どうやら私の想像を遥かに超える方のようだ」
私は返事に困り、本棚を眺めているふりをした。
町長さんはそれ以上は何も言わなかった。
ただ、穏やかに微笑んで、書庫の奥へと歩いていく。
その背中を見ながら、私は思った。
ああ、やっぱりこの人は全部わかってた。
でも何も聞かないで、協力してくれたことに感謝だ。
「では、こちらの棚が全て古文書となっております。
後はごゆっくりご覧ください。
何かご入用のことがあれば、遠慮なくおっしゃってください」
そう言って、町長さんはそっと書庫を後にした。
残された私たちの中で、ケンちゃんがすでに棚からいくつかの古文書を手に取って、部屋の隅に置かれた机の上に広げていた。
おじさんも目を輝かせながら棚を見渡している。
ガイアスさんが静かに私の隣に立った。
「何か見つかると良いですね」
「うん」
私は小さく頷いた。
そしてポツリと呟いた。
「ついてきたけど私ヒマだな」
町長、また非常識って言うとこだったでしょ




