62 カミングアウトします
家に戻ってきた。
帰り道は口数が少なくそれぞれが何かを考えているようだった。
まあ、私に限っては単に疲れていたのだけど。
食事の後、自然とみんなソファに集まってきた。
頭の中がまとまらないまま、言葉がうまく出てこない。
みとが静かに切り出した。
「麻美、魔物が増えてる理由なんだが、心当たりはあるのか?」
「ううん、正直わからない。でも、なんとなく、私たちと関係がある気がして。......ちょっと、怖いんだよね」
その時、ケンちゃんがゆっくりと口を開いた。
「......あの、少し前から気になっていたことがあって」
「なに?」
「以前いた部屋にあった古文書の中に、この世界の"器"についての記述があったんです。
断片的な記述で、当時は意味がよくわからなかったのですが......最近、師匠と一緒に過ごす中で、色々な事が少しずつ繋がってきた気がしていて。まだハッキリとは言えないのですが」
「器って、私たちの話でも出てきた、あの"器"?」
「はい。ただ、僕が未熟だった事もあり、記憶も曖昧で。今なら、もう少し何かわかるかもしれないのですが」
みとが静かに頷いた。
「器と魔物の関係か......探す価値はあるな」
「でも、どこにそんな文献があるのか」
全員がしばらく考え込んだ。
「そうだ、ガイアスさんに相談してみようかな」
私は呟いた。
「ガイアスさんに?」
「うん。あの人は信頼できる人だし。それに、人脈もありそうだなって。何か知ってるかもしれないでしょ。本に詳しくなくても」
次の定期便の日、荷物の受け渡しを済ませた後、私は意を決して言った。
「ガイアスさん、少しだけ、お時間いただけますか」
ガイアスさんは「もちろんです」と静かに頷いた。
大きな木の下に並んで腰を下ろす。
ケンちゃんは少しだけ離れたところに座って見守っている。
「あの、こないだ魔物が町に現れたと聞いたんですが、大丈夫だったのでしょうか」
誰に聞いたのかは聞かないで!と願う。
「はい、ここのところ二度ほど現れまして。一度目は町の自衛団が撃退しましたが、二度目は、少し不思議な話でして。その場にいた者たちが言うには、どこからか光る煙が立ちのぼって魔物を倒したとか。
それから空に天使が現れたとか。でもそれも魔物の鱗粉が見せた幻とか、神の使いとか、正直本当のところは分かりません。ただ、魔物の大群が一斉に空から落ちてきました。あ、魔物は大型の蛾のようなものだったのですが」
「て、天使.......!?そ、そうなんですね.......」
さすがケンちゃん。確かにちょっと神々しいよね。
「あの、落ちてきた魔物に当たってケガをされた方とかはいませんでしたか?」
「そこまでは聞いていませんが、おそらくいなかったのではないかと。現れた時に皆建物に隠れたでしょうし、そこに居たとしても数名でしょう。それにしても.......」
「どうかしましたか?」
「いえ、広場に落ちた魔物の片付けを手伝ったのですが、あの数の魔物を一瞬で倒した方がいるとしたら、その方に心からの敬意と感謝をお伝えしたいなと思いまして」
「あ、いえ、そんな、たまたまうまくいっただけでお気になさらず!」
.............あ。
しまった!
チョロすぎる私。
「......やはり、サンコン様でしたか」
ガイアスさんは表情一つ変えずに言った。
「薄々.......と言いますか、かなり確信に近いものがございましたが、そうではないかと思っておりました」
「そ、そうですか.......なんだかすみません」
「いえいえ、謝らないでください。おかげさまで町の被害が最小限で済みました。感謝しかありません」
ガイアスさんが静かに続ける。
「私に聞きたいのはこの事ではないですよね?他にも、何かあるのではないですか?」
「はい。実は聖獣たちとケンちゃんと、魔物について話をしていたのですが、あの少し長くなりますが聞いていただけますか?」
ガイアスさんが何も言わずに、静かに力強く頷くのを見て安心して説明をはじめた。
聖獣たちやケンちゃんとの出会いのこと、聖獣の加護と私の魔法のこと。
そして最近魔物が増えてきていること、それが私たちと関係しているかもしれないということ。
それから、この世界には"器"と呼ばれる特別な存在がいるらしいということ。聖獣たちから加護を与えられる、そういう存在らしいということも話した。
ただ、私がこことは違う異世界から来たということだけは、なんとなく言わなかったけど。
ひとしきり説明し終えたタイミングで、ケンちゃんがそっと近づいてきた。
「師匠、ガイアスさんもですが。実はまだお伝えしていなかった事があります。この場でお伝えするのが正しいのかわかりませんが、師匠との出会いにも関係する事だと思いましたので。
僕は、以前は城にいました。......その、立場は第三王子でしたが」
王子ってあの王様の息子の王子?
キタオウジとかいう苗字じゃなくて、リアル王子様?
その言葉を聞いて直ぐさま、ガイアスさんが立ち上がり最敬礼をした。
「......やめてください。少し事情がありまして今は追放された身ですから、いつも通りにしていただければ」
ガイアスさんが静かに頷いて、もとの姿勢に戻った。
ケンちゃんは少し息を整えてから続けた。
「何が言いたいかと言いますと、以前城で読んだ古文書に"器"という存在について書かれたものがあったのです。古代語で書かれたものなのですが。今思うと、そこに魔物との関係性が記されていたように思うのです。
なかなか目に触れる事のできるものでは無いとは思うのですが。そういった古文書について何かご存知ないか、今日はガイアスさんにご相談したかったのです」
そうそう。そういうこと。
さすがケンちゃん!全部まとめてくれた。
「つまり、古い文献を探しているということですか」
ガイアスさんは少し考えてから、静かに言った。
「残念ながら私自身は存じ上げないのですが、一人、心当たりがある方がいまして」
「本当ですか!」と私は思わず前のめりになった。
「はい、この町で古代語に精通し、古文書も多く扱っていて、実は町の歴史的な記録の管理を任されており、町長と共に国の記録管理にも携わっている方がいるんです」
「そんな方が......!ぜひご紹介いただけますか?」
ガイアスさんが穏やかに微笑んだ。
「では、ご都合が良ければ明日一緒に行きましょう。
私がこれから行って話を通しておきますね」
あの人かなぁ、オタク仲間の。




