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閑話 オタク同士でご自由にどうぞ

私は変身して町へ行くのが楽しみになった。

でもすごく時々にするようにしている。

ケンちゃん目立つし、変にまた騒ぎになってもよくないからね。

それにこの変身魔法は、かなり集中力が必要だった。

どんな時も、頭の片隅で変身イメージを保っていないといけないのだ。


滅多に行かない町だが、行くと必ず立ち寄るのが本屋。

入門書を教えてくれたおじさんのいるあのお店だ。

今回も扉を開けた瞬間、ケンちゃんの目がキラキラし始める。よほど好きだなと思う。

「お兄ちゃん、わたしこのへん見てるからひとりで大丈夫。すきなの見てきてね!」

「本当に大丈夫?ひとりで勝手にお店の外に出ないでね。あーちゃんは好奇心旺盛だからすぐにあっちこっちに行ってしまうから。こないだ来た時だって気がついたらお隣のお店に.......」

「でないでない!こ、ここにいる」

ケンちゃんの心配症が爆発している。前科持ちだから仕方ないけど。

あの時は、ちょっとした騒ぎになったもんね。

返事が上ずってしまったのは、まさに今のうちに近くのお店の〜とか考えていたから。


仕方なく店内をのんびり見ていると、奥の本棚の前でおじさんがケンちゃんに気づいて声をかけていた。

「おや、来てたのか。いらっしゃい!」

「はい。先日はありがとうございました。実は、あの後どうしても気になったことがあって......」

「ああ!あの本のことか!俺もずっと気になってたんだよ!」

おじさんとケンちゃんが、本棚の前でなにやら話し始めた。ここんところ急速に距離を縮めたようだった。

ケンちゃんにお友達ができたみたいで嬉しくなる。


と、ほっこりしていたのも束の間。


「やはりここの解釈は、"風の意志が形を成す前の状態"を表していると読むべきではないかと思うのですが」

「そうそう!俺もそう思ってたんだよ!

でもこっちの文献だと"意志"じゃなくて"記憶"になっててな」

「なるほど。......ですがここを"記憶"とするならば、この前段の"時の層"との整合性が合わなくなってしまいます」

「そうなんだよ!だからここがずっと謎でな!」


......ん?

"風の意志"?

"時の層"?


「お兄ちゃん、おじさんとなんのお話ししてるの?」

思わず私は二人の間に割って入ってしまった。

二人が同時にこちらを向いた。

ケンちゃんが少し申し訳なさそうに言う。


「あーちゃんには、きっと面白くないお話だと思うから。また今度教えてあげるね。

それよりも、この"時の層"についてですが......」


ちょ、ちょっとケンちゃんそれはひどくない?

その、また今度って絶対こないやつじゃん。

それに、それよりもって言った。

それよりもって言った!

根に持ってやるんだからね!

ムキーってなってる顔に気がついたのか、おじさんが声をかけてくれた。


「お嬢ちゃんのお兄ちゃんはすごいね〜。若い人で古代語が読めるなんて、滅多にいないんだよ。しかも読めるだけじゃなくて造詣も深いとくる。いや、こんな議論ができるのも久しぶりだから嬉しくてね。お兄ちゃんを独占してごめんよ」


「ううん。大丈夫です。でもお兄ちゃんね、わたしにさいしょは古代語の文字をおしえてきたんだよ。わたしぜんっぜんわかんなくて、ちんぷんかんぷんだったの」


意趣返しのようにチクッてしまった。

おじさんが"えっ!"とケンちゃんを見る。

「ケン君、それは......」

ケンちゃんがちょっとバツが悪そうに目を逸らした。

「いや、まさか、こんなに簡単に理解できる文字が存在するとは思いもよらなくてですね」


おーい。

微妙に失礼なことを言ってますよー?



その後も二人の古代語議論は続いた。

私は店の隅っこで、可愛い動物の形をしたブックスタンドを手持ち無沙汰にいじりながら、時々聞こえてくる「"存在の揺らぎ"が」「"根源の振動"として解釈すると」という言葉に遠い目をしていた。


語学の授業を思い出す。

今思えばツライ時間だったなぁ。

ケンちゃんに意味不明な二択を迫られてさ。


結局、二人の古代語議論は一時間近く続いた。

帰り道、ケンちゃんはずっと上機嫌だった。

本屋のおじさんが「また来い」と言ってくれたらしく、ニコニコしながら歩いている。


「ケンちゃん、楽しかった?」

「はい!あんなに古代語について話せる方がいるとは思わなかったので、とても、嬉しかったです」

「よかったね」


本当によかった。

私以外の人との関わり、ケンちゃんの世界が広がっていくのが嬉しい。


「ちなみにケンちゃん、何でそんなに白熱してたの?」

「ええと......主には古代語における"時間の概念"の変遷と、解釈の違いについてですが、......もっと聞きたいですか?」

「ううん、全然」


ケンちゃんがふっと笑った。

「師匠なら、そう言うと思いました」



どうせ聞いても分からないしね!

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