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58 空を自由に飛びたいな

それから幾つもの月日が流れた。

おそらく私は自称49歳になったと思う。

正しく表現するなら、約50歳。

キャッチコピーも永遠の46歳にアップデートだ。


そんな私は、真面目にお勉強をしたので、だいたいの文字は読めるようになった。

ただ、書くことは全然できないんだけど。

ケンちゃんは最初こそ、本当にこんなに簡単な文字でいいのかと、謎の葛藤を抱えていたけど、分からない事は丁寧に教えてくれた。

私にしてみたら、文字が文字である事に感謝しかないよね。


そしてケンちゃんは、犬モンたちとの修行で能力的にも精神的にもすっかり頼もしくなった。

もう、自分の魔力に振り回されることはないと、みとからの太鼓判まで貰っていた。

私がかけたラップ魔法はいつの間に消えていたらしい。

そういえば、ケンちゃんは身長もずいぶん伸びた。

私が縮んだわけではないはず。

たぶん。


相変わらず、自分がここに来た意味はわからない。

でもそれでいいのかもと思い始めていた。

自分なりの意味を見つけることができたなら、それが私がここにいる意味なのかもしれない。







「よし!今日はいよいよ空を飛ぶ訓練をしてみたいと思います!!」

庭に出るなり、私は高らかに宣言した。

犬モンたちが「またなんか始まったぞ」という顔で集まってくる。

「師匠は、空を飛ぶイメージはありますか?」

「もちろんあるよ!!完璧にある!!

実はね、子どもの頃からずっと空を飛ぶのが夢だったんだよね。来世は鳥でもいいなぁと思ってるくらいに。

そのせいか、定期的に夢にも出てくるくらいだよ!」


ケンちゃんが少し安心したように頷く。

それを見て私は一度深呼吸して、全身にイメージをまとわせた。

空を飛ぶと言ったらアレしかない。

そう、スーパーマンだ。


「では私からいくよ!!

スーパーフライト!!」


スーッ......。


「飛べたーーー!!!

やった!!飛べた!!飛んでる!!飛んでるよ私!!」


ひと呼吸置いて、近くでケンちゃんが、

「"ルズガルン・カナドゥ・ウチ(風の翼とともに飛べ)"」

と、呪文を唱えたのが聞こえてきた。


うわ〜!!

顔に当たる風が気持ちいい!!

身体が軽い!!

これが空を飛ぶ感覚か!!

子どもの頃から夢に見てたやつだ!!


ひとしきり喜んでいたところで、ふと気がついた。

ケンちゃんが見えない。

あれ?どこ?

ぐいっと顔を見上げると、ケンちゃんは木のてっぺんあたりの空をゆうゆうと飛んでいた。

風をまとって、颯爽と。

呪文もカッコいい上に、飛び方までカッコいい。

ケンちゃんもすごい!さすが私の弟子!!


自分はどれだけ飛べたかなと、見下ろすと——草が顔に触れそうなほど近かった。


「......え?」


みとが下から、いや、ほぼ同じ目線から冷静に言う。


「麻美。お前、全然上に行ってないぞ」


「えええええええええ!!なんで!?」


必死に上に行こうとするが、びくともしない。

身体は頑として床上30センチを維持している。


「なんで!?なんで上に行かないの!?

飛んでるのに!?ちゃんと飛んでるのに!?

てかこれ、飛んでるって言える!?」


あおさが笑いをこらえながら言う。

「飛んでるは飛んでるけどな!」


上空からケンちゃんが、心配そうに降りてきた。


「師匠、大丈夫ですか?もしかして、あの、その......」

言いかけて、口をつぐむ。


「なに!?はっきり言って!!」

「その......夢の中でも、師匠はその高さで飛んでいませんでしたか?」


私はハッと固まった。

そういえば。

夢の中ではいつも、ギリギリ地面につくかつかないかくらいの高さを、水平に、すい〜っと飛んでたような。


「......うん」

「......なるほど」


ケンちゃんは全てを理解したような顔をして、静かに頷いた。

犬モンたちも全員、静かに頷いた。


「ちょっと!!そのリアクションやめて!!

次は上に行けるかもしれないじゃん!!

もう一回やらせて!!......スーパーフライト!!」


スーッ......

地上30センチ。


「スーパーフライト!!!」


スーッ......

地上30センチ。


「ウルトラスーパーーーフライトーーーー!!!!」


スーッ......

地上30センチ。


何度やっても高度は変わらなかった。


みとが静かに言った。

「麻美。それがお前の飛び方ということだ」


悔しい。

悔しいけど、なんか、そんな気がしてきた。

だってまず見た目が違う。

ケンちゃんは姿勢が"縦"なのに私は"横"だ。


今だって、地上30センチの私に合わせて、高度を落として浮いている。


「師匠。でも、飛べてますよ」

「うん。そうかな」

「それに、師匠の飛び方にしか、できないことがあると思います」

「ほんと?例えば?」


ケンちゃんは少し考えてから、真剣な顔で言った。


「......僕には、まだわかりませんが」


「わかってから言ってくれるかな!!!」



犬モンたちが一斉に吹き出した。



期待を裏切らない女、麻美。

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