53 シックスセンス的なあれ
『懐かしい顔も見れたし、今日はこれまでだな』
そう言って、フレアホークはサクッと行ってしまった。
去り際に、
『雷撃だけは、二度と我に向けるなよ。あれは冗談にならん』
そう小さく吐き捨てるように言い残し、首をわずかに震わせてから飛び立った。
あの豪快なフレアホークのまさかの捨て台詞。
なんか本当にごめんなさいだ。
結果的に私のせいで訓練がお開きになってしまった。
ケンちゃんに"ほんとにごめんね"って何度も手を合わせながら謝ったけど、ケンちゃんは柔らかく微笑むだけだった。
そしてみんなで家へと帰って来た。
どえりゃ〜疲れた〜〜
私は立ってるのもしんどくてとりあえずソファに倒れ込んだ。
もう今日はスーパーのお惣菜で済ませたい。
そんな気分だった。
すると、ケンちゃんがお茶を淹れて持ってきてくれた。
二つのカップをサイドテーブルにそっと置く。
そして、ちょっと改まって。
「師匠、お疲れさまでした。お茶でもいかがですか。
それから先ほどのことについて、どうしてもお聞きしたいことがあります」
なに?改まってなにを言われるんでしょうか。
先ほどのって、どれ?おとな気なくソファにダイブしたこと?
外から帰ったのに手洗いうがいをまだしてないこと?
実は夕飯作るめんどくさいって思ってること?
ちょっとドキドキしながら次の言葉を待つ。
「先ほどあの森でフレアホークに向けた魔法ですが、あれは雷属性ですよね?
どうやって構築したんですか?いつ習得されたんですか?
すごく威力が強くて......そもそも、僕、師匠が雷属性の魔法を使うところを初めて見ました。
もしかして僕の知らないところで密かに?
僕は火と水であれだけ苦戦していたのに。
師匠は実のところフレアホークには雷属性だと気が付いていたのではないのですか?
僕は、なんというか......悔しいというか......情けないというか」
そっち!?あ、そっちだったか!
矢継ぎ早に質問が飛んでくるのを慌てて遮る。
「ちょ、ちょっと待って待って。
一個一個。覚えられないから一問一答スタイルでお願い!
ていうかね、まずは、ごめんなさいだよね。
ケンちゃんがせっかく訓練させて貰ってたのに横から邪魔しちゃって。
それから、私のあれは完全にあの場の思いつきです!
ちょっと手持ち無沙汰だなぁって思ってしまいまして。
それで、炎も水も難しそうだったから雷とかどーかなって。
そんで昔見た映画のシーンがふと浮かんで来たから、試しにちょこっと真似してみたというか。
ケンちゃんに隠れてコソ練なんて断じてしておりません!」
犬モンたちは、"やれやれ......"って顔をしているが口は出してこない。
ありがたい。あっちからもこっちからもクレーム言われたら凹んでしまう。
自分でも危ないことをしたと、実はかなり反省していた。
いたずらに命を奪ってしまったかもしれないのだから。
あの時のフレアホークの顔を思い返すだけで指先が震えてくる。
遮ってくれた、みとには感謝しかない。
自分の能力が実感として掴みきれていなかったのが原因だと思うんだけど。
「なるほど......そうですか」
そう言ったきりケンちゃんは今度は黙ってしまった。
なにかを考えているのは分かるんだけど、それが何なのかを想像しようとするにも、疲れ過ぎてて集中力が続かず考えがまとまらなかった。
犬モンたちは体を投げ出すように寝そべって居眠りをはじめていた。
私もソファで横になったまま、気がついたら眠っていた......
目を開けると、部屋の空気がほんのり温かい気がする。
そしていい匂いも。
私はむくりと起き上がった。
キッチンから、カチャカチャと控えめな音が聞こえる。
「......あ、目が覚めましたか。師匠」
ケンちゃんが、トーストしたパンに野菜とベーコンを挟んだサンドイッチを皿に並べていた。
湯気の立つスープまで添えてある。
「軽いものですが、師匠の真似をしてみました。
スープも温めましたので、よかったらどうですか」
「ありがと......ケンちゃん、なんて優しいの!」
まだ頭がぼんやりしているまま、カウンターテーブルにセットされたサンドイッチを齧る。
とってもおいしい。
疲れた体に染みる。ごはん作るの面倒だって思ってたのバレてたのかな。
ケンちゃんは、私が一口食べるのを確認してから、自分も一口齧って、咀嚼し、飲み込むと静かに口を開いた。
「師匠。
さっきは、質問が多すぎてすみませんでした。
でも、どうしても、もう一つだけ確認したいことがあります」
その声は、さっきよりずっと落ち着いていた。
「僕......今日、ずっと考えていたんです。
火と水であれだけ苦戦していたのに、師匠は雷を“思いつき”で出したと言いましたよね」
私はコクリとうなずく。
ケンちゃんは、少しだけ視線を落とし、言葉を選ぶように続けた。
「......正直、驚きました。
驚いたし......実のところちょっと、悔しかったです。
僕は属性の相性や理論に縛られて、火と水の範囲でしか考えられなかったのに......
師匠は、まるで属性なんて関係ないみたいに、雷撃を出してしまったから。
師匠は魔法に対して自由だなぁと。
それで、前からずっと違和感を感じていたことの正体がわかったんです」
ケンちゃんは、まっすぐ私を見た。
「師匠の魔法は、五属性の理論に、当てはまっていない気がします」
私は思わずサンドイッチを齧るのを止めた。
「風も、火も、水も、土も、そして今日の雷の時も......
師匠の魔法はどの属性にも属しているようで属していないような、そんな風に見えるんです。
五属性の型に沿っていないと。
むしろ、属性の方が師匠に合わせて形を変えているような、そんな感じというか」
ケンちゃんは、言葉を続けるほどに確信を深めていくようだった。
「師匠の魔法は......なんというか、僕の知っている魔法の理論と、少し違う気がするんです。まだ、うまく言葉にできないんですが」
手に持っていたサンドイッチから、野菜がぽとりと服に落ちたのにも気がつかないほど、ポカンとしてしまった。
ケンちゃんがサッと拾ってから、布巾で拭いてくれた。
さすが私の王子様だ。気が利く!
いやいや、これはヤングケアラー化してる証左かもしれない。気をつけねば。
ちがうちがう、そんな事は今はどうでもよくて。
「な、なんて言っていいのか分からないんだけど。
もしそうだとして、何か問題があったりするのかな?
そんなに私の魔法って変?魔法界の常識から逸脱してるの?
あ!ねぇ、みとたちは何か心当たりがあったりしない?
私の魔法ってどこが変なの?」
思わず犬モンたちに助けを求める。
なんせ泣く子も黙る聖獣さまだ。
ところが全員で顔を見合わせていて、どうだろうなぁ、とはっきりとしない。
なんか変だと言われても。
1+1の答えが3の世界線で、どうして4は違うの?って聞かれてるくらい意味がわからない。
ちょっとこの例え秀逸過ぎない?
いかんいかん、話が逸れた。
天下の聖獣様が分からない事を私がわかるわけなくない?
神様がいるのなら神様は分かるのかもしれないけど。
とりあえず、”やったね!便利♩”って軽く考えてはダメなのだろうか。
その甘さが、今回みたいな危うさを引き起こすかもしれないのか......
うーん、うーんと唸りながら、この日は特に解決することもなく終わった。
麻美、絶対途中から考えるのやめたよね




