52 出来心ですみません
『フ、ファハハハハハ!
こやつ堂々と我の弱点を聞いてきおったわ!』
フレアホークが豪快に笑っている。
そりゃそうだよね、私もそう思ったからね。
でも分からないことは聞いちゃうのが手っ取り早いからね。
良いぞ、ケンちゃん。
教えてくれたら儲けものだ。
『悪いが、簡単には教えられんな。
だがな、そうだな。ヒントはやろう。
中途半端な炎や水は我には逆効果だろうな。
あとのことは、コイツから聞くなり、実戦で学ぶなりするんだな。
相手ならしてやってもいいぞ」
そう言って、とろ豆を指した。
確かに!とろちゃんたら火属性の聖獣じゃん。なんでも知ってるんじゃん。
なんたる放任主義。もっとアドバイスをくださいよ!
思わず恨みがましい目を向けたが当の本人は知らんぷりだ。
『それから、そこの。おぬしの攻撃は我には強すぎるので控えて貰いたい』
え、マジか。
そんなにあのコンロ火力強いのか?
今ひとつピンとこないけど、ハッキリと断られてしまっては仕方ないか。
私も稽古付けてもらう気満々だっただけに残念だ。
それから、しばらくの時間、ケンちゃんはフレアホークの特訓を受けることになった。そして、私から見てもケンちゃんには火属性の魔法にあまり適性がないように思えた。多分だけど、不規則要素が絡む火属性はケンちゃんの性格に合わないのかもしれない。
私みたいなイメージ最優先のゴリ押しタイプじゃないからね。
フレアホークは風と炎を巧みに操りながらケンちゃんの攻撃をかわしている。
炎では火力不足と思ったのか、水属性の魔法に切り替えたものの、そう簡単には上手くいかなかった。
それでも、えっ?いつの間にそんな事できるようになったの!?って感じの細長い水の矢のような物を幾つも作り出して飛ばしたり、超局所的ゲリラ豪雨みたいな水柱を降らせたり、普通の魔物なら倒せるんでは?という攻撃を繰り出している。
私より、ケンちゃんのがよほど強そうだけどなぁ。
そして、相変わらず呪文がカッコいい。
水柱の時は、"ヤームル・コローヌ(豪雨の円柱)!"って言った瞬間にドカーンと水柱が降ってきた。
フレアホークのが上手だったから、かわされちゃったけど、かなり良い線いってたと思う。
そんな考察をするほど、正直、ちょっと暇を持て余していた。
そう、だからほんの出来心だった。
ケンちゃんが必死に食らいついている横で、私は完全に“観客モード”に入っていた。その油断が、後で背筋を凍らせることになるなんて、この時は思いもしなかった。
あれ?そういえば、ケンちゃんまだ雷試してないけど、火と水が通用しないなら残りは雷じゃない?
そんな安直な考えで、アメリカ映画のテーザー銃を想像しながら、フレアホークに指を向けて。
「ウルトラサンダー!」
って言ってみた。
そう、軽い気持ちで言ってしまったのだった。
直後。
バリバリバリバリ!!!
空気を切り裂いて、強烈な稲光のような雷撃がフレアホークめがけて飛び出して行った。
ヤバい!と思った時には、既に遅く、ハッとこちらを驚愕の表情で見るフレアホークに命中した......はずだった。
「麻美!このっバカ者!!!」
みとの声が聞こえた。
寸前のところでみとから発せられた一撃で、軌道を急角度に変えた雷撃は、フレアホークの目と鼻の先にある巨木へと突き刺さった。
ピシャァァンッ!!
鼓膜が張り裂けんばかりの爆音。直撃を受けた幹が「バリバリバリッ!」と悲鳴を上げて真っ二つに裂け、次の瞬間には「ドゴォォン!」と激しい地響きを立てて地面へ倒れ伏した。
倒れた木から舞い上がる土煙の向こうで、みとがこちらを睨みつけていた。
怒っているというより、心底ヒヤッとした顔だった。
その表情を見た瞬間、背中に冷たい汗が伝った。
煙を上げる切り株を見て、へなへなと座り込む私を見て、みとは呆れたように息を吐いた。
「お前には俺の加護があると言っただろうが。
あんな攻撃を受けたらフレアホークだってひとたまりもないぞ。
麻美の魔法は常識の外側をいくと何度言えば分かるんだ」
はい、すみませんでした。
自分でも驚き過ぎて腰が抜けてしまった。
ほんの出来心が大惨事を引き起こすんだよね




