46 まるでゴレンジャー
思いがけないカミングアウトの後――
議題は再び訓練内容についてだ。
みとがすっかり犬らしさを捨て去って言う。
もともと犬では無かったんだけど。
「まずは属性との相性を知るところからだな。
麻美、お前には五つの加護がある」
「五つ!? そんなに!?多くない?」
あおさが胸を張る。
「オレは“風”。麻美に風の加護を与えたのはオレ!」
とろ豆が元気よく手を挙げる。
「オイラは“火”! 火の加護はオイラ!炎なら任せなさい!」
おかめが微笑みながら、
「わたしは“水”。癒しや浄化が得意よ」
こつぶは控えめに。
「ぼくは“土”の加護をあげたよ。守るのが得意......かな」
「そして俺が“雷”。攻撃と機動力だ」
みとがカッコ良く締めくくった。
私は思わず固まった。
「......え、ちょっと待って。五属性全部揃った!?
そんなゴレンジャーじゃあ、あるまいし!!
待ってよ、私、そんなに背負ってるの、さすがにムリじゃないかな!?」
重いよ、重い重い。荷が重すぎる。
ていうかね、加護とか属性とか、私が漫画読み漁ってなかったら理解できてないからね!
みとが何てことないように、さらっと言う。
「大丈夫じゃないから修行するんだろーが」
おかしい、修行するのはケンちゃんだったはずだ。
いつの間にか私が修行する流れになってる。
どうしてこうなった!?
そして、みとが上から目線なのがちょっと気になるわ〜
黙って見守っていたケンちゃんだったが、動揺している私を見かねたのか、口をはさんだ。
「師匠、五属性の聖獣が揃うなんてまず有り得ない事かと。しかも、水・火・風・土・雷......
五属性の加護を同時に受けられる人間なんて......。何かそこに深い意味があるのかもしれません。師匠は、もしかしたら"器"と呼ばれる存在なのでしょうか......世界の理を超えるような特別な」
うそーん、私はもうすぐ50歳になろうかっていう普通の、ごぐごく普通のお母さんだったっつーの!!
絶対これ、神さまの設定ミスだと思う!
バグだよバグ。そう思いたい。
だって、私、仕事と家事と育児しかしてきてない。
世界を救う大発明も、世界を驚かす大発見も、何にもしてきてないんだよ?
「......そうか器か。なるほどそういう事なら納得か」
みとが勝手に合点って感じになってるけど、こっちは全然"なるほどー!"とはなりませんよ。
「ところで、あなた、ケンちゃんも......気づいているんじゃないかしら?」
おかめが、ケンちゃんに向かって言った。
ケンちゃんはびくっと肩を揺らし、少しだけ目を伏せた。
「......えっと、その」
おかめはケンちゃんに優しく微笑む。
「あなたは、“器の欠片”を持っていると思うわ。
初めて森で会った時、わたしたちがあなたを守ったのは......きっと、その気配を感じたからよ」
みとが”そういうことか”と頷く。
「たしかに、それなら説明がつくな。あの時、お前の魔力は妙に不安定だった。
器が未熟なまま魔力だけが育つと、ああいう状態になる」
ケンちゃんは驚いたように目を見開く。
「ぼ、僕が......器......?本当に?」
こつぶが控えめに言う。
「うん......麻美ほどじゃないけど、同じ“匂い”がしたよ。だから、ぼく守らなきゃって思ったんだ」
おかめが続ける。
「まだ未熟な器だからこそ、麻美と一緒にいると落ち着くのよ。
器同士は、近くにあると“形”が整いやすいの」
みとが締めるように言った。
いつも美味しいところはみとが持っていく。
「だからケン。
お前も麻美と一緒に修行して、器としての素質を磨くのがいい。
魔力量だけあっても制御できなきゃ意味がないからな」
ケンちゃんはしばらく黙っていたが、
やがて静かに、でもはっきりと頷いた。
「......僕、自分の力が“危うい”ってことはずっと分かっていました。
実際、周囲からもそう扱われてきましたし。
でも、それが何なのか、そしてどう向き合えばいいのか、ずっと分からなかったんです。
でも、今、ようやく腑に落ちた気がします。僕の中にあったのは、ただの魔力じゃなくて......
“器の欠片”だったのですね。それならば、自分がこれからどう生きるべきなのか。
師匠のそばで、ちゃんと知りたいです。それが、僕の第一歩だと思うから」
ケンちゃんの言葉が終わった瞬間、
私は、胸の奥がきゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。
そんな重大な責任、私に負えるかな。私なんて、本当に普通の人なのに......。
「あのね、ケンちゃん......」
思わず名前を呼ぶ声が、少しだけ震えていた。
「そんな、大層なものじゃないよ、私は。器とか、素質とか......
そんな立派なもの、持ってないと思うんだよ......」
否定の言葉を口にしながら、自分でも気づいてしまう。
ケンちゃんの真剣さを、否定しきれない。
「......でも」
気づけば、言葉が続いていた。
「そんなふうに言ってくれるなら......
私も、ちゃんと向き合わなきゃいけないのかもね」
自分でも驚くほど、落ち着いた声だった。
「一緒に......探していこうか。あなたのことも、私のことも。
どうせ分からないことだらけなんだからさ、ふたりで協力してさ、めっちゃ頑張ってみようか!伸び代しかない可能性無限大のふたりだしね!」
ケンちゃんの目が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
みとが鼻で笑った。
「ほらな。そういうところが“器”なんだよ、麻美」
「ちがうってば!!
器とかじゃなくて、ただの......ただの......!」
言い返そうとして、言葉が詰まる。
ただの一般人、なんだけどなぁ......私。
なんでこんな特別な人間みたいな扱いになってるのか。
なかなかストンと受け入れられないでいる。
いつかわかる日が来るのだろうか。
そして、またひとつひっかかることが――。
「あのさ、ずっと思ってたんだけどさ、あなたたちの言葉遣いとかさ、
その見た目とのギャップがありすぎて、全然しっくりこないんですけどー!?」
だって、パッと見――
ちょっと......まあ、だいぶ大きいかな?って感じのポメラニアンだよ?
耳はやたら長いけど。
とにかくふわふわでかわいいんだよ。
なのに、みとのあの威圧感。
圧倒的存在感。
“古の賢者”みたいな語り口調。
もうね、全然しっくりこないんですよ!!
みとが当然のように言った。
「これは仮の姿だ。真の姿は人には見せないようにしている。
なにより、この部屋には合わないからな」
「は?」
とろ豆が尻尾をぶんぶん振りながら前に出てくる。
「じゃあ、オイラの姿を見せてあげるよ、麻美!」
「ちょ、ちょっと待っ――」
言い終わる前に、とろ豆の体がぐぐぐっと膨らみ始めた。
もふもふが波打ち、光が走り、
次の瞬間――
ど――――ん!!
目の前に現れたのは、
ポニーほどの大きさの、
かわいさをどこかに忘れてきた、
完全に“神秘的な圧倒的聖獣”だった。
長い耳の間にある一角は光り、フサフサの毛並みはキラキラと輝き揺れている。
存在そのものが“神話”。
ソファがみしっ......と悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと!?とろ豆さん!!!
ソファ!!ソファが!!壊れる壊れる壊れる!!」
みとが冷静に言う。
「だから言っただろう。真の姿は部屋に合わんと」
「言ってたけど!!確かに言ってましたけども!
こんなレベルだとは思わないでしょうがー!!」
とろ豆が巨大な顔をこちらに向けて、
どやっとした表情を浮かべる。
「どう?すごいでしょ、麻美!」
「うんすごい!!でもストップ!!いったん戻って!!
お家では仮の姿でいてお願い!!今すぐに!!」
とろ豆は「えへへ〜」と笑いながら、
ぼふん、と元のもふもふサイズに戻った。
ソファは......ギリギリ生きていた。
私はへたり込みながら叫んだ。
「心臓に悪いから!!寿命10日は縮んだよ。
次から変身するときはTPOを考えてやって!!」
聖獣はTPOわっかんないと思うなあ




