43 釣りってそうじゃない!!
さらに数日後――
「師匠、畑の水やりしてきますね」
そういって、ケンちゃんは朝・夕と畑へ向かう。非常に真面目だ。
先日の雨騒動(私のせいじゃない、と思いたい)を経て、ついでにケンちゃんの訓練と実益を兼ねて、これからの畑の水やりはケンちゃん担当として任命させてもらったのだ。
でもぶっちゃけ嬉しい。やはり分業って大事。
もっと色々できるようになってもらって楽になりたい。
......おっと本音が漏れました。
ケンちゃんが夕方の水やりに行っている間、私は食事の準備をはじめた。
ふと、この先のことを考える。
――いずれはひとりで立っていける大人になってくれたらいいな。
でも、大人だってひとりでは生きていくのは大変だから、人との関わりも学んでいってほしい。
私が教えてあげられることなんて限られるから、人との交流の方法を考えないといけない。
そんな事を考えながら食事の用意をしている。
気づけば、ちょっと母親みたいなことを考えている自分に、苦笑してしまった。
戻ってくると、ケンちゃんは相変わらず読書に夢中だ。
真面目か。いや、真面目なのはいいことなのだけどね。
ぐーたらしているところをまだ見たことがないからね。
私だってもう少しぐーたらしたいのに、弟子が勤勉すぎるあまり非常にやりにくいんだよね。
......これもまた、本音が漏れましたね。
ちなみに、今夜のメニューはガパオ風挽き肉炒め。
米はないからパンに挟む。この世界のパンは水分量が少なめでパサッとしてるので、日本で食べてたダブルソフトのあの柔らかさが恋しくなる。
いつか、柔らかパンにチャレンジしてみようかな。
以前は天然酵母を使ってパンをよく焼いていたし、何かできるかもしれない。
ここに来てからは野菜だけはふんだんに摂っているので、お通じは私史上最高に良い。
トイレに篭らない生活って素晴らしい。
......食事の用意しながらお通じの話ってどうなの?とひとりごちて笑ったところで、
「どうかしました?」
とケンちゃんから声がかかった。
お通じが、と言いかけて、
いや、それはないな、と飲み込み、代わりに、
「ちょっと前から思ってたんだけどさ、今度、釣りに行ってみない?」
そう提案してみた。
ガイアスさんに、次回は釣り竿を相談してみようかね~、などと言いながら、出来上がった食事を運んで一緒に食卓についたのだった。
後日、ガイアスさんに相談したら、
釣りに必要な道具一式を揃えてくれた。本当に感謝!
そして用意してくれた釣り竿はシンプルな作りだった。
でも釣り竿なんて、棒と糸と、針さえあれば良いんだから、こんなもんだよね、と納得だ。
自分たちで作ればよかったかなと今更ながら思ってしまう。
エサは、虫。
ミルワームみたいなやつ。イソメよりかはまだマシだけど。
やっぱり虫は虫だ。ちょっと苦手なやつ。
そしてこの辺りの川で釣れる魚に毒のある種類はいないらしい。
それを聞いて私は密かに燃えていた。
新たなタンパク源......!
早朝からせっせとお弁当を作り、先日見かけた小さな淵を目指す。
釣りは朝まずめがいいって言われるけど、それって海釣りの話かな?
川釣りはしたことがないからちょっとわからない。
ケンちゃんはもちろん釣り未経験。
ここは私がカッコいいところを見せなければ、と
密かに鼻息荒くしながら釣場に到着した。
「では、早速魚釣りスタートでーす!」
私は竿から糸を離し、針にエサをつけるところから丁寧に見せる。
「エサが大きいと魚のお口に入らないから、ちょっとちぎって......うん、これくらい」
そして、
「見ててね〜、えいっ」
と軽く竿を振って淵に向かって糸を垂らす。
――直後、魚が食いついた。
「うお、もうかかった!?魚だけに」
くだらないダジャレが勝手に口から出た。
ぬぬぬ、思いの外、引きが強い。
そして、ピンッ。
魚から糸が外れたのがわかる。
逃げられた。
くぅ~~~~、惜しいっ。
でも、いいデモンストレーションになったはずだ。
「とまあ、こんな感じだよ。やってみる?」
ケンちゃんは顎に手を当て、少し考えるふりをしてから頷いた。
慎重にエサをつけ、竿先を淵に向ける。
糸を垂らした瞬間、また食いついた。
――その瞬間、
「”ルズガール(風よふけ)”」
ケンちゃんは風魔法を唱えた。
水面近くで風が起こったかと思うと、魚がブワッと水面から浮き上がり、こちらに向かって飛んできた。
ケンちゃんは難なくキャッチし、満面の笑み。
「師匠、釣れました!」
いや、釣れてる。
釣れてるけども......!
ちっがーう!いや合ってるけど、ちがうの。
釣りとはそういうもんじゃない。
ナチュラルに魔法使ってすごいけども!すごいけど、なんかちがうの!
いい、ケンちゃん、釣りとは戦いだよ。
釣るか釣られるか、人間と魚の真剣勝負!一瞬の駆け引き!
そんな、ウルトラC使っちゃロマンが......ロマンが死ぬ。
......でも、ケンちゃん初めての釣果だ。
心の声は全力で飲み込みましたとも。
飲み込みすぎてゲップが出そうなくらい。
「す、すごいねケンちゃん!さすがだね!」
そう言って魚の口から針を外し、水を汲んだ桶に魚を入れてあげる。
「よし、私も負けないぞー!」
私は必死に竿を握りしめ、ようやく1匹釣った。
その横でケンちゃんはポイポイポイポイと釣って、いや、浮かせて回収していく。
その差、歴然。
「ちょっとまてーい!!」
思わず叫んでしまった。
おとな気ない?
そんなの知るかっつーの!!
「ケンちゃん、それは、もはや釣りとは言わん!
一旦お魚さんに全員川にお帰りいただいて、魔法なしで、改めて私と釣り勝負じゃー!!」
犬モンたちが遠巻きに”あーあ、あいつも大概負けず嫌いだな”という顔で眺めていた。
――ケンちゃん、大人には負けられない戦いがあるんだよ。
それは、今??




