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42 雨乞いと気象学講座

なんていうか、ウチの弟子がすごくないですかね。

センスが良い子ってこういう感じなんだろうか。

しぐさも呪文もなんかカッコいいし、周りに女の子たちいたら絶対モテそう。

なのにおばさんしかいなくて、申し訳ない気持ちになる。

いや、ほんとに。ごめんねケンちゃん。


ともかく火が出せるなら、次は水でも出してみる?

安直だけど、畑の水やりにも使えるし、生活にも使えてとても便利だ。


――でもさ、そもそも全部使えるのだろうか。

普通は、いや、普通なんて知らないけど、読んでいた漫画の世界では水属性だの風属性だの、

それぞれ使える属性が決まってるものだった。

このまま水だの炎だの土だの言ってたら、それこそチートキャラになってしまうような。

......まぁ、いいか。難しいことはよく分かんないしね。

とりあえず試すだけ、色々トライしてみても間違いじゃないよね。


そんなことをひとりで考えながら、

ケンちゃんが魔法でロウソクの火をつけたり消したりしているのをぼんやり眺めていた。

しかし、ほんと、器用だな! 


でもね!


「ケンちゃん、なんか目がチカチカしてきたからそこまで!」


私はストッピングー!と手を出して止める。

ケンちゃんはチカチカ?と不思議そうに瞬きをしながら、素直に手を下ろした。


「じゃあ次はさ、水を出せるかやってみない?

うまくいったら畑の水やりに活かせるし、一石二鳥ってものだよ」

「いっせき......?」

「石を一個投げたら二羽の鳥に当たってラッキーって意味の言葉でね、

”いえーい!今日は当たり日だ!”ってそんな感じの言葉でね、”棚からぼたもち”って言葉と遜色ない魅力ワードなんだよ〜」


完全に適当な自論を言いながら、庭の畑へ向かう。



「よし、ではいっちょ水を出してみますか!」


そんな軽いノリで私は畑に手をかざす。


うぬぬぬぬぬ......

......出ない。


いや、手汗はちょっと出た。

そりゃそうだよね。

手から水が出るなんて、そんなイメージできるわけなくない?

河童じゃあるまいし。

いや、河童が水を出すかなんて知らないけども。

そう自分に言い訳しながら、てへっと舌を出してケンちゃんへと振り返る。


「水っていえばやっぱり雨でしょう?雨を降らすっていえば、

こう、膝を地面につけて、両腕を天に向けてお恵みを〜って首を垂れるアレだよね~」


と言った側から――


ぽつ、ぽつ。


えっ、私こわっ。

なに?偶然?

いや、偶然にしてはタイミングが良すぎない?


犬モンたちの「あーあ、やってるよ」という視線には気づかなかった。

結局、そのまま本降りになり、訓練どころではなくなってしまった。

畑の水やりはしなくて済んだけどね。



翌日、雨があがったので再トライすることになった。

ケンちゃんは畑の前に立ち、

昨日の雨の件を思い出したのか、ちらりと私のほうを見た。

「師匠から始めてまた昨日のように雨が降ったら、その......」

ケンちゃんがやたらと語尾を濁しながら、

「僕からやってみますね」と言った。


......なんか、私、軽く訓練の邪魔した扱いになってない?大丈夫?

そんなはずはない!と気を取り直して、


「コホン、師匠からの!アドバイスは!イメージが大事!以上です!」


もはや定型句。

私、ボット化している。


ケンちゃんは頷き、深呼吸をひとつ。

「水が生まれる瞬間......その理を、魔力で再現する......」

ぶつぶつと呟きながら、

指先で空気をすくうように動かす。

ケンちゃんは空気の流れを読むように手を翳し、

静かに呪文を紡いだ。


「”スユン・ドウウシュ(水の誕生)”」


すると――

ケンちゃんの指先の延長線上に空気中の水分が集まり、

ふわりと形を成し、そのままサーッと畑に降り注いだ。


すごい。

なにそれ。

かっこええ。


ケンちゃんはくるりと振り返り、少し笑みを浮かべた。


「師匠、ありがとうございます。できました」


そして私が何か言う前に、少しかぶせ気味に――


「今回の水魔法は、空気中の水蒸気を凝結させる仕組みを応用しました。

大気中には常に水蒸気が存在していて、温度と圧力の変化によって飽和水蒸気量が変動します。

つまり、魔力で局所的に温度を下げて露点を操作すれば――」


......露点?

露点って、あの理科の授業で昔聞いたやつ?

ケンちゃんは呼吸を置かずに続ける。


「水蒸気分子は、温度が下がると運動エネルギーが低下し、互いに水素結合を形成しやすくなります。

そこで魔力を“凝結核”として作用させると、水分子が集まりやすくなり、微小な水滴が形成されます」


......凝結核?

なんかもう、魔法の訓練じゃなくて学校の授業じゃない?ケンちゃんが白衣の教師に見えてきた。

お構いなしにケンちゃんの説明はさらに熱を帯びていく。


「さらに、魔力で空気の流れを制御し、水滴が均一に落下するように重力方向へ誘導しました。

乱流が発生すると水滴が散ってしまうので、層流を維持するために魔力の分布を――

つまり、魔力を使って、微小スケールの降水現象の再現をしたというところですね。

師匠の“雨ってこう、恵みを〜ってやるやつだよね”という説明が、

非常に本質的なヒントになりました」


「あ、うん」


いや、絶対違う。

私そんな高度なこと言ってない。

ただのジェスチャーだった。

私は目をぐるぐる回しながら、

“雨乞い知らずのケンちゃんなら砂漠で引っ張りだこだろうなぁ”

などと現実逃避していた。


そしてケンちゃんは最後に、いつもの決め台詞を添える。


「そういうわけでして、師匠のおかげです」


でた、実は雑なまとめ方。

イメージの方向性、絶対違うよね。

私の“お恵みを〜”のポーズから、

どうやって露点と凝結核の話に行くのさ?

犬モンたちも、

「うんうん、今日もケンちゃん自力だったね」

という顔で頷いている。


なんだろ......

私、まったく役に立っている気がしないんですけど。

だって、私ってば”レッツイメージ”って言っただけじゃない?

それって、“がんばれ”と同レベルの汎用ワードじゃない?

ケンちゃんがハイスペックで、

私の存在意義がどんどん薄くなっていくんだけど。



......くそう、弟子が優秀すぎると師匠がかすむぜ。


ん?これもボット化してる?




ケンちゃんこそボット化してるね。

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