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32 強くなりたい

次はどうしようかな。

落とす......ってのは、絶対まだ早いし。

うーん、と迷って、今度は角度を変えた質問をしてみることにした。

自分自身と向き合うことの怖さは、大人になった私でもいまだにある。うん、これだ。

ふぅ......とひと息吐き出して、


「ケンちゃんはさ、自分の中の魔力のこと......本当のところどう思ってるの?」


ケンちゃんは、思いがけない問いに息を呑んだ。

周囲に漂っていた灰色の気配がしん......と沈んで、空気まで重くなる気がした。


「......僕......自身の、魔力のことですか......」


言葉が喉でつかえて、しばらく続きが出てこない。

犬モンたちが気配を殺して見守っている。


「本当は......怖いと感じています。魔力そのものが、じゃなくて......」


ケンちゃんは胸元を押さえた。

沈んだ灰色の気配の奥で、かすかな熱がふっと脈を打つ。


「......僕が僕自身を、怖いんです。

ずっと、魔力が暴れるのも僕が悪いんだと思ってて......僕が未熟だから。できそこないだからなのだと。

隔離されるのも、誰かに迷惑ばかりかけるのも、全部僕のせいで。

だから、自分の中にあるもの全部が空っぽで。

いいえ、空っぽというより、なんの形も作れないまま、ただそこにあるだけというか......何もない自分が怖くて......僕の中には“理”と呼べるものが、何ひとつ整っていない気がしています」


ちょっと声が震えている。

沈んでいた灰色の気配がさらに静かに沈む。


「師匠、すみません......」



けれど、その底から、ふっと温かい光のようなものが立ち上がった気がした。

ケンちゃんは小さく息を吸い、顔を上げて真っ直ぐこっちを見た。


「......でも、変わりたいんです。

魔力の扱いを教えてもらったから、というだけじゃなくて」


一度、息が震える。

視線が揺れ、犬モンたちがそっと耳を動かす。


「師匠は僕を、怖がらずにいてくださいました。

僕がうまくできなくても“ひとりじゃないよ”って、普通に、当たり前みたいにそばにいてくれて、

僕を“形あるひとりの人間”として扱ってくれて、それが初めてで嬉しくて。

だから僕も、師匠と一緒にいても恥ずかしくない自分になりたいって、そう思ったんです。

師匠みたいに誰かにそっと手を差し伸べられる人に、なりたいと思いました」


ケンちゃんの瞳に、小さな光が確かに宿った。

たった十歳で森に置き去りにされたというのに、この少年はどうしてこんなに強くあれるのだろう。


「前に進んでみたいんです。

師匠と出会って......“僕でも形を成せる"って、"変われるかもしれない”って、初めて思えたから」




ケンちゃんの言葉が途切れた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなる。私も負けていられないなと強く思う。


そして、ふと、ぼんやりとした気づきが浮かんだ。


そういえばケンちゃん、ついこのあいだまで丁寧すぎる敬語で話してたのに、最近は時々だけど、少し砕けた言い方をするようになったな。これは、自然と心を開いてくれてるってこと、なんだろうな。


その小さな変化が、胸にじんと沁みる。

なんか......すごくうれしいな。

私はそっと息を吸い、ケンちゃんの肩に優しく手をかけてさすった。


「ケンちゃんは、そんなふうに思ってたんだね。

空っぽなんかじゃないよ。むしろ、たくさん抱えてきたんだよ。ケンちゃんの中身はギュウギュウミッチミチです」


一度、言葉を切って、いたずらっぽく笑みを浮かべる。


「それにね、ケンちゃんの魔力より、反抗期の娘のほうがよっぽどタチ悪かったからね?

だから大丈夫。ケンちゃんのこと、私はちっとも怖くありません。そして、前に進みたいって思ってくれたの、すごく嬉しいし、すごいことだと思う!こちらこそ、よろしくお願いします!」


ケンちゃんの瞳は穏やかで、少しだけ嬉しそうに笑った。

漂っていた灰色の気配も色を薄め、そっと消えていく。




その後直ぐに、何かを思い出したように、視線がふっと揺れ、横を向き肩を小さく震わせた。


「......あの、師匠って。

師匠の変顔って、ほんと理を覆すんだな......って思って。フフッ」


言い終えた瞬間、ケンちゃん自身が「あっ」と小さく息を呑む。


私は、一瞬きょとんとして――


「ちょ、ちょっと!!ケンちゃ〜ん!変顔で理を覆すってどういうことよ!?」



と思わずつられて吹き出しながら、それならばと、変顔第二形態を披露してやりました。






麻美の変顔最終形態は......世界滅亡レベルか

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