25 それは特別なこと
あー、疲れた......。
久しぶりにたくさん歩いた。
人混みってやっぱり疲れる。
ログハウスに戻り、ケンちゃんとカウンターの椅子でお茶を飲みながら、
私は手のひらの石を見つめて呟いた。
「綺麗な石だね~」
ケンちゃんがそっと覗き込む。
「師匠。その魔石......とても希少なものです。
町長さんは、”できる限り失礼のない形で敬意を示したい”というお気持ちがあったのではないかと。
それで、代々家に伝わる品の中でも
最も価値の高いものを差し出されたのだと思います」
「え、これ......そんなに価値あるの......?」
「はい。それに......その、
以前から、師匠の首元あたりから、なんといいますか......
“祝福”と云われる香りがしているような気がしていました。
僕も本で読んだ程度の知識しかなくて、
実際に嗅ぎ分けられるほど詳しいわけではないのですが......
どうやら、この世のものとは少し違う、
特別な香りがあるらしいんです。
それが、聖獣に選ばれた者にだけ宿る、と。
聖獣と共にいることで十分特別な存在なのですが、それだけではなく。とは言え僕も、これだと断言できるほどの自信はないんですけど......
でも出会った時から師匠からは、とても不思議で、どこか説明しづらい香りがしています。
だから、その......
師匠は聖獣と同じくらい、特別な存在なのではないかと......ずっと、そう思っていました」
「......え、ちょっと待って。
私そんなファンタジーな設定あったの?
実は加齢臭でした~とかってオチは本当に嫌なんだけど」
「加齢臭とは......?」
キョトンとした顔のケンちゃんは、年相応でちょっとかわいい。
「まあ、加齢臭についてはまた機会があれば教えてあげるね。(多分)
それにしても、この国って魔法が使えるのが当たり前じゃなかったんだね~。
この家が魔法仕様だから、みんな使えるんだと思っていたよ」
電気やガス、水道が当たり前の生活をしていたので、
蛇口をひねれば水が出て、手をかざせば火がつくことに
さほど違和感を覚えていなかった。
町では上下水道こそ整備されているものの、
一般の家庭では今も火を起こしたり、
共同の水場から水を汲んだりして暮らしているらしい。
一方、この国の都市部では“魔石”という特別な石を使って
火や灯り、水の供給までまかなっているそうで、
いずれはこの町でも少しずつ“魔石”を使った生活へ
移行していく予定だという。
ちなみに、町長さんの家ではすでに魔石が導入されていて、
都市部と同じような暮らしができているらしい。
そうか......これは特別なことだったのか。
自分の手をひらひらとかざしてみる。
そこにあるのは、いつもと同じ、ちょっと皺のよった自分の手。
そのとき、突然みとがジャンプしてカウンターに飛び乗り、
置いてあった魔石を咥えて飛び降りた。
それを合図にしたかのように、犬モンたちはそろって扉の外へ走り出していく。
「え!ちょっと、それ特別な石なんだって!
町長さんが大事にしていたお宝なんだって!
大切に扱って! オモチャじゃないんだよー!」
叫んだけど、聞こえたのかどうか。
犬モンたちも光るものが好きなのか、
ナッツも”お気に入り”を集めて自分の秘密基地に置いてたな......。
なんて、そんなことを思い出した。
「よし!今日はよく動いたし、念願のお肉も手に入ったし、
お肉をふんだんに使った豪華な夕食にしよう!!」
そして、食事の用意が整った頃、
犬モンたちは揃って戻ってきた。
「おかえり、ご飯たべよっか?」
声をかけると、みんな一斉に
「わふっ!」
その返事は、なぜか全員、妙に揃っていた。
加齢臭について説明する機会。......くるのか?




