23 オホホの町長
静かに声をかけてきたのは、身なりの整った壮年の男性だった。
「私の主がお話をさせていただきたいと申しておりまして、
よろしければ、少しご同行いただきたいのですが。」
丁寧なのに、有無を言わせない空気に押されてしまう。
「え、ええ。みんな一緒でよろしいのでしたら......」
(......師匠......いかのおすしは?......)
麻美が返事をした瞬間、
ケンちゃんは心の中で速攻ツッコミを入れ、犬モンたちはそっと警戒の色をにじませていた。
が、当の本人はまったく気づいていなかった。
案内されたのは、シンプルながらもどこか風格のあるお屋敷だった。
そして、その主らしく、
通された部屋には、柔らかな笑顔の奥に隙のない気配をまとった妙齢の男性がいた。
「突然、お呼び立てしまして申し訳ございません。
広場が少々ざわついておりましたので、念のためと思いまして。
少々強引ではございましたが、こちらにお越しいただきました。」
どうやら、私たちがちょっとした騒ぎになっていたので助けてくれたようだ。
「申し遅れましたが、私はこの町の町長を任されております、
ファルホガード=ホサインホルド=ホロメオホホホルト、
と申します。」
「......ファ......オホホホホさん......
あ、私は山根麻美と申します。」
永遠の──と続けそうになって、慌てて飲み込む。
すかさず、ケンちゃんが、すっと眉をひそめて言う。
「師匠、違いますよ。ホロメオホホホルト様です。」
その時、六つの心の声が重なっていた。
(”オホホホ”じゃないですよ師匠!)
((”オホホホ”じゃない!))
町長は微笑みを崩さず、静かに会釈した。
「......いえ、お気になさらず。気にしておりませんので。」
些かバツが悪くなって、私は、コホン、とわざとらしい咳払いをしてから、いただきます、と目の前のお茶を一口飲んだ。
「あの、私ですが、実はこの国に来たばかりでして、
色々と分からないことも多いので、少しお伺いしてもよろしいでしょうか。
まず、先ほど、なぜあんなにも大勢の人が変わる変わる押し寄せてきたのでしょうか......」
一番気になっていた事を率直に聞いてみた。
「ああ、それはですな、この国の言い伝えで、
聖獣が訪れた地域には”何か良いことが起こる”と言われております。そして絵本にも描かれている聖獣とそっくりの姿で現れたので、皆驚いたんでしょうな。
私の家系は代々この町の町長を務めておりますが、
少なくとも記録に残る限りでは初めてのことでして。」
「......”何か良いことが起こる”......」
復唱してみたものの。
いや、ざっくりすぎない!?そんな曖昧な言い伝えよく伝承されたね!?
伝承される内容が大雑把過ぎて笑いそうになった。
「そして、その聖獣を従えることができるのは”特別な存在”なのだそうです。
貴方様、アサミ様とおっしゃいましたかな、は聖獣を五体も従えておられた。
正直、報告を受けた時、私も耳を疑いました......。
そんな非常識......いえ、神々の采配としか思えぬ事態が起こるものなのかと。」
今、非常識って言いかけた。絶対。
そういうの、聞き逃さないから!
「そういうわけで皆少しでもあやかりたいと思ったのでしょうな。
......実のところ、私も......ん"ん"、いや、失礼。」
――ん?
いま何か飲み込んだ?
非常識だって、麻美。




