19 クセになる食レポ
「よしっ!それじゃあ、お腹も空いたし......
みんなでご飯にしよっか。
ケンちゃんは何が好き?
苦手なものとかあるの?
って言っても今は作れるもの少ないんだけどね〜」
キッチンに向かいながらそう声をかけたけど、
「......。」
あれ?反応がない。
聞こえなかったのかと、もう一度言いかけようとした時。
「すみません、そういった類の事を質問されることがなかったもので......
その、何とお答えしてよいものなのか......
食事とは......最初から定められたものなのではないのですか?」
完全に戸惑い顔だ。
「定められているって......
そんな法律じゃないんだから。
この国ではどうかわからないんだけど、
おうちのご飯に決まりなんてないんだよ。
少なくとも私はそう思ってる。
今日はこれ食べたいな〜とか、あれ食べたいな〜とか、
そう思ったものをリクエストするの。
まあ、材料が無かったら作れないし、
私の気分じゃなかったり、
栄養的に不足してたら全然採用しないんだけどね!
ようは、ダメ元でちょっと言ってみるかって感じ!」
犬モンたちは、
採用しないなら聞かなくてよくない?
とでも言いたげな目をしている。
ケンちゃんは、
「......そういう、もの、なのですか」
と呟いたきり黙り込んでしまった。
「じゃあ、あるもので適当に作ってみるからさ、
これからケンちゃんの好きなもの、一緒に見つけていこう!」
ケンちゃんの育ってきた環境を少し想像して、
胸の奥がじんわりざわついた。
私が普通と思っている事は、ここでは普通じゃない事が多いのかもしれない......。
気を取り直して、今ある食材を見渡す。
さてと、どうしよう......
子どもは生野菜よりも、香ばしく焼いて味がついてる方が食べやすいか。
卵は茹でて、自分で殻を剥いてもらって、
お肉......は、無い。
お肉、やっぱりお肉欲しいなぁ。
圧倒的にカルシウムとタンパク質が足りてない。
育ち盛りの子どもの食事を預かる身としては、
これでは心許なさすぎる。
今ある材料で何とか捻り出して調理する。
何気にそういうのは昔から結構得意だった。
「今回のご飯のメニューは、
野菜ソテーと、野菜スープと、ゆで卵、
そしてジャガイモ餅です!
ジャガイモを潰して焼いただけだけど、けっこう美味しいよ」
うん、見事に野菜づくしだが致し方ない。
犬モンたちのご飯もそれぞれ用意して、
ケンちゃんと私はカウンターテーブルに椅子を並べて食べ始めた。
「どう?お口に合いそう?
って言っても、焼くか煮るかしかしてないけどね」
ケンちゃんは、フォークを置いてこちらに顔を向ける。
「......この。
おそらくこちらのお庭で育ったのでしょうか。
新鮮な野菜を美味しさそのままに、緻密に計算された焼き加減で閉じ込めているのに......
どこか瑞々しい焼き野菜。
優しく振り掛けられた不思議な粉が食欲を誘います。
それから、個々の野菜の旨味が最大限に溢れ出て、
それでいて互いを尊重し合っているような......
お豆と野菜の具沢山スープ。
心まで満たされる気がします。
そして、探究心がどこまでもくすぐられ、
いつまでも剥きたくなるような......
ゆで卵というのですか。非常に素晴らしいです。
しかもこの......外側はかりっとしているのに、
中はやわらかく弾力があってほんのり甘くて。
ジャガイモ餅は素朴な見た目を裏切る感じが素晴らしいですね」
ちょっとなに、その、クセの強い食レポみたいなやつ。一部にめっちゃ人気出そうなやつ。
気に入ってくれたようではあるけど、分かりづらいぞ。
「あーーっと、好きか嫌いかで言ったら?」
「とても好ましいです」
そうそう、それくらいシンプルなやつが聞きたかった。
「それなら良かった!
その野菜ソテーにかかっている不思議な粉はねぇ〜、
私も何なのかよくわかってないんだけど、
見た感じ旨味調味料的なやつかなって――」
当たり前に繰り返してきた日常が、久しぶりに戻った様なそんなひと時だった。
虫の親子なら100点満点!




