↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
100/101

【番外編】この気持ちに名前をつけるなら byガイアス

ガイアスさん目線の番外編です。

しっとりとどうぞ。

――あの日は


隣町での任務を終えて町に戻ってきた時から違和感があった。

どことなく町の様子がおかしい。

人々が浮き足だっているというか。


何か起きたか?

ここ何年も、自分が記憶する限りこんな事は無かったように思う。


とはいえ、先ずは任務報告をするため、町長の屋敷へと足早に向かった。



「......以上となります。

ところで町長、何やら町が騒がしいような気がするのですが何かございましたか?」


町の情報は全て町長に集まる。

この人が知らない事はないと言っても過言ではない。

温厚篤実でありながら、町長としての優れた采配も見事で、国の機密事項に関する管理も任されている。

自分にとって一番信頼できる人物であり、また尊敬する上司でもある。


そんな上司が......


「最大級の非常識、我々が積み上げてきた倫理、道徳、文明のすべてを、たった一瞬で塵へと帰すほどの事が起きた」


と言ったのだ。

正直さっぱり意味が分からなかったが、やはり何かとんでもない事が起きたらしい。

自分なりに調べてみるか。


と、そう思っていた矢先、新たな任務を任された。

内容は、「存在自体が最高国家機密とされる、超極秘最重要存在の後方支援と警護」だった。


――――は?


全く意味が分からなかったが、ひとまず「承知致しました」そう、返事をした。



そして任務初日。

決まった時刻に馬車で町外れの道をずいぶん行ったところにある大木の下で待機。

そしてそこに現れた人物の要望に応えるというものだった。


「――早過ぎたか」

しばらく待っていると、向こうの丘の上に人影が見えた。こちらに向かって来ていることからして、おそらく該当人物だろうと思われた。


「すみません!大変お待たせしてしまいましたか?」


現れたのは、1人の女性と少年だった。

一見すると普通の女性に見えた。

彼女が"存在自体が最高国家機密とされる、超極秘最重要存在"?


――本当に??


訝しんでいる事などおくびにも出さずに、その日の任務を完了させた。



それ以降、定期的にあの大木の下で待ち合わせをし、彼女の求める品物を用意しては渡すようになった。

疑問は解消されていないが、与えられた任務を粛々とこなしていた。

そして何度目かのある日、唐突に理解する事になった。


その日は、突然彼女に名前を聞かれた。

少し躊躇いがちに聞かれ、まだ名乗っていなかった事に思い至った。

正確に言うと、立場が不確定でこちらからは控えていたのだが。

目をしっかりと見て会話したのはあの時が最初だったように思う。

そして、自分の名前を聞き取れていないようだったので、思わず愛称を伝えてしまった。

彼女はほっとしたような柔らかな笑顔で、


「ガイアスさん、わたしのことはサンコンと呼んでください」


とにこやかに言った。


そして、その後直ぐ、遂に"存在自体が最高国家機密とされる、超極秘最重要存在"の理由が分かったのであった。


彼女は聖獣を従える人物ということなのか。

町長は敢えて聖獣の存在に触れなかった。

確かに自分の目で見るまでは信じられなかっただろう。

しかし、彼女が?

どう考えても、朗らかで親しみやすい柔らかな雰囲気のごくごく普通の女性に見えた。

まあ、呼び名?は少し変わっていたか――。



それから回を重ねるごとに、彼女とは色々な話をするようになった。

釣りの話、庭の畑の話、ある時は町に行きたいからお金が欲しいので野菜を買って欲しいと言われたこともあった。聖獣使いの育てた野菜など値段がつかないほどの価値があるため正直いくら渡せば良いのか戸惑ったものだ。

更に月日を重ね、彼女の事が随分と分かってきたように思う。

実はかなり天然なところや、少年(実は王子だったが)への愛情深さ。

そういえばとんでもない魔法を披露された事もあった。

あれは.......言葉が出なかった。

言葉を失うとはああいう瞬間だと身をもって知った。

彼女の最重要存在たる姿を見せつけられた。

しっかりオチまでついてくるところが、いかにも彼女らしかったが。


そうそう、ピザ窯でピザを食べた日の事は決して忘れる事はないだろう。

それこそ一生分笑ったような気がした。

少し思い出しただけでも笑みが込み上げてきた。


――ただ、時折見せるどこか寂しげな表情が気になった。

ここではない何処かへと心が行っているような、そんな瞳をしていた。



はぁ、しかし自分は何故こんなにも彼女の事が気になるのだろう。

年甲斐もなく心が定まらずにいる事に自分でも戸惑っていた。

ただ、気になるのだ。彼女が。

別の任務をしていても、ふと、今はどうしているか、楽しそうにしている笑顔が浮かんだり、何か困っていないか、心配になったりもした。

そして、あの横顔が頭からこびりついて離れなかった。



先日は『帰ってきたら話したいことがある』なんて、曖昧な言葉で濁してしまったが。

帰って来るその時までに、明確にしておこう。

この、今はまだあまりにもあやふやでいびつな形をしたものを。

"恋心"と呼ぶにはまだ早過ぎるから――



さあ、そろそろいつもの場所にお迎えの時間だ。

もうすぐ王子達と旅立つ彼女に、自分は何と言葉をかけようか――




切なくてちょっと震える。

またいつか会えるかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。