【番外編】ピザ窯にまつわるエトセトラ
視点がころころと変わります。
ピザが食べたくなってしまいました。
「ねえみんな、お庭にピザ窯が欲しくない!?
こんなに広くて、素敵なウッドデッキもあるんだからさピザ窯があったらもう完璧だと思わない?」
ある朝そんな事を突然師匠が言い出した。
いつも唐突に何かを閃めく師匠は、「えーっと、こんな感じで〜」と、記憶の引き出しの下から3番目くらいの中から引っ張り出して来たような、おおよそ設計図とは言えないイメージ図を描いて見せてくれた。
(......これが窯?概念図ということ?)
師匠にピザ窯が何たるかを詳しく聞くと、身振り手振りで一生懸命に説明してくれた。
曰く、「石や耐火レンガで作った、高温で食べ物を焼くための窯で、中に薪を入れて火をつけると窯全体が温まって、普通のコンロでは出せない高温で一気に食材を焼き上げることができる」というようなことだった。
うん、成程。
要するに、熱を効率よく蓄積し、食材に均一かつ高温の熱を与えるための構造体ということか......。
それは石材の蓄熱性を最大限に活かした、理にかなった設計だった。
原理と用途が分かれば、あとは設計図に起こすだけだ。
さらさらと描いた設計図を師匠に見せると、
「えっ!なんで!?ケンちゃんピザ窯知ってたの?すごくない!?」
と褒められた。
ちょっと嬉しかった。
でも知らなくても正直これは常識の範疇です、師匠。
そして例に漏れず師匠は、ガイアスさんに材料調達と窯製作のお手伝いをお願いし、今日はその製作の日。
「ああ、窯なら以前も似たような物を作った事がありますのでお任せください」
あっさりそう言ったガイアスさんは、僕の描いた設計図を見ながら、あっという間に作り上げてしまった。
手伝う気満々の師匠が、ガイアスさんの周りをウロウロしては、危ないからと追いやられ、補佐とは名ばかりの掛け声役を貰っていたのが見ていて面白かった。
もちろん、聖獣たちに揶揄われて悔しがっているのもいつも通りの光景だったけど。
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完成した窯を見て少し胸を撫で下ろした。
我ながらなかなか良い感じのドーム型に仕上がったと思う。
作業中は、隙あらば手を出そうとする麻美様に怪我をさせやしないかとヒヤヒヤしたものだ。
何事も積極的に関わろうとするのは彼女の良さだが周りはなかなかに振り回される。
それも併せて彼女の持ち味なのだろう。
「それっいっちにさんっ!いいね!」
適当な掛け声を掛けてくる顔が浮かんできた。
後片付けをしながら、ふっと笑みが溢れた。
そしてふと思い立ち、道具箱から道具を取り出すと窯の背面の1番下の煉瓦にそっと文字を刻んだ。
誰にも気付かれない様な片隅に――
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今日はついにピザ窯初稼働の日だ!
朝から、ううん、なんなら昨夜からウキウキしていてあまり寝つけなかった。
遠足の前夜は興奮して眠れない小学生のまま、大人になってしまったらしい。
早々にベッドから抜け出した私は、畑の野菜を収穫がてらピザ窯の様子を見に行った。
赤茶色の煉瓦で作られたそれは、以前からここにありましたよという顔してそこに鎮座していた。
「今日は初仕事よろしくね!」
そう言ってポンポンと丸いドーム型に積み上げられた頭頂部を撫でる。
窯は至ってシンプルな作りで、下段に薪を、上段に焼きたいものを入れる仕様だった。
「どんなピザにしようかなぁ!チーズたっぷり野菜たっぷりお肉たっぷりの盛りだくさんピザとか良いね!」
独り言にしては大き過ぎる声量で、野菜を収穫すると家の中に戻った。
そして昼になり――
待ちに待ったピザパーティーの開始だ。
生地は捏ねた。
たくさんの具材も用意した。
食器も並べてある。
「あと必要なのは〜」と言っているとこで、ガイアスさんが薪を持って到着した。
「そう!薪!薪が必要だった!さすがガイアスさん!」
薪の存在を忘れるなんてヤバすぎ!
美味しいピザ作って挽回しなきゃ!
「さて、さっそく窯に火を入れようと思いまーす!
では点火式と参りますよ!僭越ながら私、チャッカマンこと山根麻美が点火させていただきます!」
「チャッカマンってなんだよ」とツッコミを入れてくるあおさを無視して、薪を窯に入れ、「燃えよドラゴン!」とテンション高く唱えた。
完全に雰囲気重視。
その瞬間!!
ドラゴンの形をした炎が窯の中の薪に向かって襲いかかり、一瞬で薪を灰にしてしまった。
「「......え?」」
振り向くと、ガイアスさんが、「あ!麻美様、前髪が――」と、慌てて少し焦げた私の前髪をはらってくれた。
思いがけず、ガイアスさんの顔が近くてびっくりした。
ドラゴンにも驚いた。完全に自分のせいだけど。
「今日の師匠はいつもより強火なのでここは僕にお任せください」
そう笑って言うと、ケンちゃんは新しい薪と一緒に小枝も入れて、サクッと火をつけてくれた。
パチパチと燃えた小枝から火が弾け、やがて薪に移ると全体に燃え広がっていった。
さすがだ。
「あ〜〜っと、じ、じゃあ今のうちに生地を伸ばしていこっかな!」
良いとこ見せなきゃと密かに焦る私は、めん棒でピザ生地を伸ばしたあと、腕を持ち上げピザ職人さながらの手つきで空中で生地を回して更に伸ばし始めた。
「おお!!すごいですね!」
「やるじゃん麻美!」
そんな声が聞こえてきて、調子に乗った。
「いつもより大きく余計に回っております!」そんなことを言って更にクルクルと生地を回した。
そう、すごく調子に乗ってしまったのだ。
自分の言葉に魔力がのることも忘れて。
そのときだった!!
ぐんぐん伸びてパラソル程の大きさに広がった生地がバランスを崩し空から降ってきた。
生地は私を頭からすっぽりと包むと、回転の勢いのままクルクルと巻き付いた。
私は為す術なく視界が真っ暗な生地の中で「出して〜」と情けない声を出した。
「師匠!大丈夫ですか!?」
ケンちゃんとガイアスさんが私の体を逆回転に回すと、両側から生地を持ち上げ、急いで中から救出してくれた。
「麻美、食べもので遊ぶんじゃない」
みとに呆れ顔で言われた。
あ、遊んでなんかないのに!!
今日はとことん空回りの日だ......としょんぼりしている私を見て、額を抑え俯いていたガイアスさんが堪え切れずに、ふっと息を漏らす。
そして堰を切ったように笑い出した。
つられてケンちゃんも犬モンたちもみんなお腹を抱えて笑い出した。
なんか、意図せずすごい笑われている。
けど、みんな楽しそうだからまぁいいか。
うん、良しとしよう。
そうだこれは笑われてるんじゃない、笑わせてるんだ!
そう考えたら全然悪くないよね。
「笑ってられるのも今のうち!めっちゃ美味しいピザでギャフンと言わせてやるんだから!」
「そのギャフンってどんな感情だよ!」
またあおさにつっこまれた。
ーーそれから色々な種類のピザを焼いた。
彩り鮮やかな野菜たっぷりのピザ。
ガッツリ肉・肉・肉のピザ。
犬モンたちの目の色が危険なレベルに輝いていてヤバかった。
包み焼きピザの中からはチーズがとろけて出て、
「あちっ!!でも美味しい!!」
みんなハフハフしながら食べた。
ちなみに私はちょっと舌を火傷した。
日が傾きかけた頃、「さすがにもうムリ......お腹がはち切れそうで食べれない」と私がウッドデッキにひっくり返ったのをきっかけにお開きとなった。
賑やかで楽しくて、お腹も心も満たされて、その日はあっという間に眠りに落ちたのだった。
寝不足だったのもあるけどね!
**
聖獣たちの日課になっている夜の見回りの時。
月明かりに照らされた窯に一瞬キラッと浮かんだ文字を見つけたのはただの偶然か、
はたまた神様の悪戯か――
「ねえこっち来て。これ見てよ!」
「あら!ふふふ」
「へえ、麻美もやるな!」
「そういえば今日もさ......」
「ふっ、麻美のくせに」
その日、月明かりの下、夜に溶け込む小さな笑い声がいつまでも庭に響いていた。
人生でまだ一度も「ギャフン」って言ったことない。
窯にはなんて彫ってあったんだろう。




