161~170
161 一人苦笑い
惜しみなく注ぎ込む、流行に敏感な人や推し活に懸命な人は経済を回していると率直に思う。
それに比べて私は流行は追わず何かを推すこともない、経済的にはマイナスな人間だろう。
なのに手元にお金は残らず貯金もないから、気付かずに経済を回しているのかな。
回らないのは首だけかと、一人苦笑いした。
162 正体見たり
バスの運転士に噛みつく男性。
三分遅れて来たことが気に喰わないのか、指摘することが正義だと思っているのか。
噛みつき始めて五分が経過した頃一人の乗客が近付き、
「文句を言ってさらに遅延させやがって!」
強面の乗客の言葉に、正義マンは黙ってバスを降りていく。
結局は卑怯な弱い者いじめだった。
163 その正体は
あなた、おかえり。
パパ、おかえり。
ただいま、今日はハンバーグなんだ。
ええ、今夜はあなたの大好物にしたのよ。
笑顔と楽しい会話が弾む食卓。
夫婦は美男美女で娘は有名私学に通う、近隣の住民も羨む家族。
日付が変わる頃、主人は奥さんに見送られ仕事に出掛ける。
昼間に下見したお宅を訪れるために。
164 蝉
扇風機だけでは汗でシーツがまとわりつく夜明け前。
外だけでなく、耳元でもジーと蝉が鳴く。
追い払いたかったが、体がいうことを利かない。
金縛りだ。
違う、巨大な蝉だ。
それも違う、蝉と同じ口吻を持つ化け物が体に覆いかぶさり、首元に突き刺している。
ジーという音とともに全てを吸い出されていた。
165 記憶の蓋
スマホの警報音は遠くで起きる地震を知らせる。
最大震度は七を観測し。
テレビの声に心は落ち着きをなくして、背筋を悪寒が襲い掛かる。
正常な思考が働かなくなり、ソワソワが止まらなくなる。
あの記憶には蓋をしているのに、再びこじ開けられる。
遠い昔の忘れたい記憶が、脳裏に次々に湧き出し始めた。
166 夏、始めよう
夏、始まる
放課後、大好きな同級生が自転車の後ろに乗せてと言ってきた。
思わずガッツポーズを作った僕。
しかし、ここは坂の街。
足がパンパンになり二人乗りでは上りきれない。
彼女はクスクス笑いながら降り、後ろから押してくれる。
恥ずかしい、もう終わりだ。
でも彼女からは、
明日も乗せてね。
夏、始まった。
夏、始めた
放課後、思い切って言った。
自転車で送ってって。
でも、ここは坂の街。
立ち漕ぎで必死だった彼を見て思ったの。
私重いから、昨日ケーキ食べたしな。
汗だくの彼を見てつい笑ったけど、でもやっぱり格好いいって思った。
だから、
明日も乗せてねって言ったの。
彼、ニコッと笑ってくれた。
私、夏、始めた。
167 よく見る論争
ゴキブリはとにかく嫌い。
存在自体が許せずこの世から絶滅してほしい。
大半は森林に住み、枯れ葉や動物の死骸を食べ自然に返すし、動物の貴重な食料である。
全体の一%未満の街のゴキブリだけを見て論ずるな。
街のゴキブリを認めろと言うのか。
こんな論争よく見ませんか?
国会中継っていう番組ですが。
168 憂鬱のち、君
炎天下を歩き、憂鬱な塾の夏期講習。
この塾に通ってんの?
ううん、夏の間だけなんだ。
じゃあ俺と同じだね。
そうなんだ。
学校では意識して話掛けられない君がいる!
話したいのに言葉が続かない。
どうしよう、勉強どころじゃなくなった。
でも毎日君と話ができるかも。
憂鬱のち、君が私に夏を運んでくる。
169 あの子のことは何とも思ってない
あの子のことが気になる僕。
同じクラスになってからは、授業中も休み時間もずっとあの子を目で追っていた。
あなたのこと何とも思ってないから。
僕もあの子のことは何とも思ってない。
でも変わらずずっと目で追う僕。
あの子には毎日いろいろなものが憑りつくから、ホラー好きな僕にはたまらないんだよ。
170 循環型社会
部下が理不尽なクレームを受けると、真っ先に駆け付け間に入る上司。
俺が処理するから安心して働けと日頃から口にし、部下からの信望は厚い。
その上司、実はクレーム魔で日常生活ではあちこちでクレームを入れまくる。
吐かれて心に溜まったクレームをよそで吐き出す、現代の循環型社会を形成していた。




