151~160
151 悲しい理由
長靴を履いて水たまりに入り、勢いよく踏み付けて泥混じりの水を頭から被る。
友達も同じようにズボンも服も泥で汚れ、顔や髪には乾いた土がべっとりと付く。
子供の頃そうやって遊んだけど、あれ何が楽しかったのかな。
そうじゃない、逆だ。
水たまりで遊ぶ楽しさを忘れるほど歳を取った、それが悲しい。
152 まちぶせ
いつもの電車に乗車しドアにもたれていると、背中をポンと叩かれた。
振り返ると笑顔の同級生が息を切らしながら、「おはよう」と話し掛けてきた。
学校から家の方向は真逆なのに、毎日彼女は駅でまちぶせしていた。
明日からは僕がまちぶせしに行くよ。
そう伝えると、あの日の朝と同じ笑顔が返ってきた。
153 期限
天候が悪く通れなかったので、今日使えるようになりませんか?
昨日だけ有効の通行証を見せてきた女性。
こちらの落ち度ではないので延長はできないが。
今日一日でいいので……。
真剣な眼差しに係員は特例で延長を認めた。
次は一年後だから仕方がないか。
期限延長申請書を差し出すと名前を書いた。
織姫。
154 影
肩を落として夜道を歩く。
今の心情にはとてもお似合いな人気のない道だ。
街灯が背後から俺を照らす。
足元に小人のように映し出したかと思えば、歩くたびに巨人になっていく。
やがてその巨人は薄くなって消え去り、また足元に小人が出現する。
いい時もあれば悪い時もある。
影のように常に映り変わる。
155 数十年の恨み
最近やたらとプリンの夢を見る。
しかも、食べようとしたらプリンが遠ざかって行く夢だ。
目覚めてからあの夢は何だろうと考えるが、思い当たる節はない。
「あいつ、一カ月ほど前に亡くなったらしいぞ」
小学生の頃仲良かった人の訃報が届きハッとして、心の中で謝罪した。
お前の給食のプリンを盗ってごめん。
156 AIに指示される
人の創造を吸収し、命令に応じてデータを繋いで答えを吐き出すAIは、蓄積されたデータを元に人間以上に高度化する。
反面人はAI頼みとなり、創造する能力を失う。
一方のAIも人の新たな創造がないので何も吸収できない。
やがてAIは人に対して、もう少しまともなことを考えろと命令を出し始めた。
157 お気に入りのカフェへ行くと
久々にお気に入りのカフェに立ち寄った。
いつも座る席が空いていたので迷わず腰を落ち着け、いつもと同じメニューを頼んだ。
お昼前のこの時間はゆったりと時間が流れ、このところのモヤモヤが消し飛ぶように思える。
たまには顔を出せ。
そんな言葉も聞こえてきた気がした。
その声は親父の声だね、多分。
158 余白
まるで冬のようなグレーな写真。
海岸から写したもので、空も海も同じ色で境界もあやふやだ。
別れた後、心のグレーと重ね合わせて撮った一枚で、未練があるから捨てられなかった。
グレーの空は心のよう、ありがとうとペンで書いてごみ箱に入れた。
心の余白が埋まり、これで一歩踏み出せるはず、きっと。
159 実は夏バテ
宿題は朝の涼しいうちにと、夏休み中口酸っぱく言われた。
私が小学一年の八月の平均気温は二六度台で、昨年は二九度台後半。
最高気温が三〇度に届かない日が一二日もあったのに、昨年は二日。
朝晩は涼しく過ごしやすかった夏はどこへ。
気温を抑えることができないくらいに、夏が夏バテしているんだよ。
160 予言と嫉妬
俺の明日だけど、どんな感じ?
信号が青でも必ず左右を見てから渡れ、車に轢かれるぞ。
俺はどう?
お前は足元に気を付けろ、足を怪我するかもしれんから。
僕も見てくれる?
お前は特に何もないよ。
どうしていつも僕だけ何もないと言って、見てくれないんだ?
幸せな明日しか見えないやつは嫌いなだけだよ。




