不満か、不安か
重苦しい沈黙が漂った。シーナは一瞬、目の前が真っ白に染まる錯覚すら感じた。
この私が、ネロ王子の妻になる・・・
口を閉じたままの娘の心を読むかのように、ロナルドが畳み掛けた。
「不満か」
「いえ」
シーナは即答した。刹那、意識の奥底で何かがさっと通り抜けた気がしたが、シーナは何も無かったように振舞った。
不満など、ない。
ロナルドは、愛国エリアルの活路を見抜いてきた鋭い瞳でシーナを見据えた。
「・・・では、不安か」
シーナは目を伏せた。
そう。この気持ちは、不満よりも不安の方が適切だ。
「・・・・・・はい」
シーナは顔を上げ、ロナルドの突き刺すような眼孔と向かい合った。
「お父様がおっしゃる通り、私は女でありながら男のように育てられた身。剣士としての私は確かに戦場でお役に立てるかもしれませんが、淑女として振舞うことは、とても一流とはいえません」
戦の最中に行われる剣士の余興のための舞踏会ですら、簡素な男装で出席して壁の花となるシーナが、目が痛くなるような華々しいドレスを着て男性とワルツに興じることなど出来るはずが無い。
しかしロナルドは同意せず、口の端を緩めた。
「そうか?私には、お前にそのドレスはとても似合っていると思うが。先ほどの礼も、付け焼刃にしては上出来だった・・・。長らく好まずとも女性を見てきたことが功を奏したんだろう。・・・それに」
ロナルドは先ほどまでの笑みを消し、真顔に戻った。
部屋の空気が一変し、張り詰める。
「お前にネロ王子の妻として望むのは、我が国エリアルを導く王家の一員として、女性らしく振舞うことではない。むしろお前はそのままで良いのだ。淑女として覚えることはたしなみ程度。後は剣士としてのお前で構わない」
「どういう、意味でしょうか」
シーナの目が細められた。ロナルドは内心再び口の端を上げた。難しいことを真剣に考える時、娘は決まってこのような目をする。それは自分を見ているようだった。
だがそんなことはおくびにも出さず、ロナルドは口を開いた。
「お前は、王子の真実を知っているか」




