女王の采配
翌日、二時限目を過ぎた頃から
時々、武者震いのようなものを感じるようになった。
台風は逸れていった。
でも、また別の台風が発生している。
直撃されようと、逸れていこうと
どこかで誰かが『ひずみ』の元を
やらかしているに違いない。
そして、罪もない人たちが
そのとばっちりを受けることもある。
僕たちの二倍体作戦が台風の原因になるなんて
すごく胸が痛む。
だけど、やっちゃったもんは仕方ないよね。
コレーはそれを承知で僕と取引したんだから
大事に至らないように
何か策を練ってくれるだろう。
僕は無力だ。
こんな緩い頭の僕と
付き合ってくれているコレーも大変だと思う。
一歩踏み出すことで何がどうなるのか。
説明されたとしても
僕にはわからなかっただろうし
これから先もわからないことだらけだろう。
そんな僕が
どんな方法を選べばよかったっていうんだ?
何も選べやしないよ。
結局、コレーに任せるしかないんだ。
コレーを受け入れた以上
協力すると約束した以上、彼を信じるしかない。
別に、責任をなすりつけているわけじゃないよ。
コレーは僕の自由を奪っているわけじゃない。
困っていた僕に手を差し伸べてくれたんだし
感謝している。
だから、僕も出来るだけのことをしてあげたい。
役に立ちたいんだ。
だけど。
僕自身の緩さときたら、まったく進歩がない。
隙だらけ。
そして、その緩んだところへ
何かが滑り込んでくるのだ。
暇な脳の隙間が
何かを勝手に受信しているみたいに。
その『何か』は、およそ僕には
似つかわしくないもののように感じる。
僕の中に、一時的に
間借りしようとしているだけのような気もする。
かと思えば、そこから一気に
僕全体へ広がっていくような気配もある。
それが、武者震いを感じさせているんだ。
何かが始まる。
嫌な予感なのか、期待なのかもわからない。
いや。
もう始まってしまったんだ。
抵抗する気はない。
避けようもない。
コレーとふたりで
オトコの約束をしたんだからな。
協力し合うってさ。
だけど、本当にこんな僕でいいのか?
コレーに、僕なんかの協力が必要なのか?
何事につけ、いちいちわかっていない僕に
何が出来るっていうんだろう。
こういうのを『葛藤』っていうんだよね。
人生、初、葛藤。
これからずっと、葛藤だらけの人生になりそうだ。
僕が自力で問題を解決できる日は
やって来るんだろうか。
それに加えて。
シフへの気持ちも、なんだか変わってしまった。
あれは何だったんだろう。
膨らみかけたところで、しぼんだ。
膨らみきらないうちに
他人事になっていくのを黙って見送っている。
しかも、見送ることに抵抗を感じない。
大失恋したわけでもない。
告白してフラれたわけでもない。
ただ、少し近づいただけでわかってしまった。
僕には、荷が重すぎる相手なんだ。
シフにとって、僕では力不足なんだろうな。
簡単に諦めないで頑張るべきじゃないのかって?
そりゃ、シフは僕にとって
憧れの女子ナンバーワンで、妄想の中の女王様だ。
『きっといつかは!』
って願ってたさ。
願ってたはずなんだけどね。
覇気がないって?
そうだろうよ。
コレーとシノンの絆を目の当たりにして
僕は希望を抱くどころか
完全に戦意喪失してしまった。
あんな理想的なカップルを見てしまうと
シフだって僕なんかより
コレーみたいなのが
いいに決まってると思ってしまう。
もちろん、シノンがいるんだから
シフがコレーの彼女になるわけじゃない。
『こっち』と『むこう』では次元が違うんだものね。
そうだよ。
こういうのを本当に
『次元が違う』っていうんだな。
……感心するなよ、僕。
黙ってないで、何か言ってよ、コレー。
聞こえてるだろ?
聞こえてないふりなんかするなよ。
よけいに情けなくなるじゃないか。
*
それでも、これからシフとシノンを通じて
女子たちに頼まなければならないことがある。
そうなんだよ。
これからが正念場ってやつさ。
根性を据えなきゃ。
そっちに力を注がなきゃ。
コレーとのオトコの約束を果たすためには
女子たちの協力が必要なのだ。
生まれながらの諜報員のような
彼女たちの力を借りて
成し遂げなければならないことがある。
僕が手芸や美術を通じて女子たちに一目置かれ
可愛いものを作ってあげたり
貢いだり、尽くしたりしているのは
ただ単にモテたいからじゃない。
大事に思ってもらいたいからだけでもない。
……その一心ばっかりってことも
ある意味、否めないけど。
でも、自分の得意なことで認めてもらえるのは
とてもありがたいことなのだ。
嬉しいことなのだ。
女子たちは
その気持ちを返してくれるだけじゃない。
とてつもないパワーで、僕を癒してくれる。
彼女たちは、可愛いものや楽しいもの
それぞれの好きなことを集めて
エネルギー源にしている。
そして、計り知れないパワーを備蓄している。
常に、全身全霊で戦っても
有り余るほどのパワーだ。
女子って、本当にすごい。
いつにも増して緩んだ頭で
そんなことを考えていた。
『いいぞ、イユル』
頭の中で、コレーの声が聞こえた。
……聞いてたのか。
*
今日、シノンの歓迎会をするという名目で
シフたちが学年主任に掛け合い
旧音楽堂の使用許可を取ったらしい。
「ソレイユのワークショップもあるんだって?
楽しみーっ!」
ミルに声をかけられた。
「え? あ、ほんと? あ、うん。来てね!」
……僕、知らないんだけど。
でも、ミルに言われたら
そう答えるしかなかった。
『コレー、僕、何も聞いてないけど!』
『ワークショップ、やりたかったろ?』
そう言われてみれば、そうだ。
前々から教えてくれって言われてたし
女子たちが喜ぶところも見たかった。
今まで大勢に教えるチャンスがなかっただけで
いつでも対応できるくらいの気持ちの用意はあった。
それくらい、アイデアの引き出しはあるつもりだ。
ミルにも病院でのワークショップを
勧められていたことだし
まずは学校で、女子たちのために頑張ってみようか。
『わかった。やるよ。頑張る』
『ワークショップに参加できる整理券と引き換えに
同意書も取ってある』
『同意書? 何の?』
『諜報員として参加するっていう
誓約書みたいなもんだ』
『そ、そんなの書かせて大丈夫だったの?』
僕はちょっとビビった。
『任意なんだけどね。たいしたもんだ。
シフとシノンの説得力のおかげもあったけど
全員同意したらしいよ』
……全員?
『イユル。キミの日頃からの努力の賜物だ』
『げげっ。ミルも? 同意したの?』
『もちろんだ。イユルのためならって言って
ミルはみんなにも同意を勧めてくれたらしいよ』
ミルが、僕のために?
なんてありがたいんだ。
『でも、コレー。僕と同体化してるのに
いつの間にそんな計画を進めてたの?
シノンとテレパシーでも使ってるの?』
『いるじゃない。ほら、いっぱい。密偵が』
あ。
忘れてた。
奴らのこと。
『彼らがやってくれてるんだよ。
やみくもに姿を見せないよう遠慮しながら
みんな陰では駆け回ってくれてる』
ちゃんと仕事してくれてたんだ。
『シフみたいにバタバタ卒倒されちゃ
作戦に影響するからね。
でも、シフとシノンが
良い方法を考えついたみたいだ』
『そっか。わかった。そっちは任せるから
とにかく僕は
ワークショップをやればいいんだよね?』
『うん。みんなを楽しませてあげて。
あとはシノンたちに任せればいい』
*
放課後の旧音楽堂に
女子たちが次々と集まってきた。
ミルとクラスの女子が数人
受付で整理券を集めてくれている。
同時に、同意書にサイン漏れがないか
チェックしていた。
放課後に学校施設の使用許可をもらうのは
普通なら結構難しい。
ところが、僕の自由研究の提出作品が
校内だけでなく全国コンクールでも賞を取ったので
その僕のワークショップだという鳴り物入りで
旧音楽堂の使用許可もすんなり下りたらしい。
トーシローたち男子も
女子のイベントの噂を聞きつけて覗きに来た。
トーシローの分の水饅頭は
まだ暇がなくて作れていない。
大事な幼馴染みだもんな。
いろいろ解決したら、作ってやらなきゃ。
隣のクラスの手芸男子、夏目セイジも
ワークショップには関心があるらしく
受付でいろいろ質問していたらしい。
でも、今回はシノンの歓迎会。
女子だけのイベントということで
学校側の許可をもらっている。
男子は講師の僕以外、参加できない。
ワークショップの予約も女子でいっぱいだ。
また次回の募集があれば案内するということで
遠慮してもらった。
しかし、女子に頼むと
ことがスムーズに運ぶんだよな。
本当に助かる。
僕はワークショップの準備のため
長机のレイアウトをあれこれ考えながら
時々受付の方をチラ見していた。
ミルは、まるで自分のことのように
テキパキ働いている。
しかも、楽しそうだ。
『ありがたいな。楽しませてあげなきゃ』
そう思った時、ミルが僕の視線に気づいて
ニッコリ笑ってくれた。
ああ。
やっぱり、ミルっていいなあ。
*
ワークショップ用に数人ずつの席を作り
今日のレクチャーに使うパーツを配っておいた。
作るのは、女子の好きなバッグチャーム。
ストラップやネックレスとしても
手軽に付け替えられるようにしておけば
いつだって身につけてもらえる。
要は、それが大事なのだ。
メインのパーツは、見たこともない綺麗な天然石。
ふんわりキラキラ。
時々、オーラみたいな光を放っている。
コレーが提供してくれたものだ。
そういえば、昨日から僕の意思でもないのに
カバンの底に何かジャラジャラ入れてたっけ。
こんなこととは知らなかったよ。
コレーは、わざと僕に教えないことがある。
深刻すぎて教えてくれないこともあれば
今日みたいに
鼻歌交じりで、教えてくれないこともある。
コレーの判断だ。
僕が困らない程度にしておいてもらえれば
それでいいよ。
『ところで、この石って
当然、単なる飾りじゃないんだよね?
キミが用意してくれたんだから』
『よくわかったね。通信機なんだ』
やっぱり。
『精霊たちが密偵として動く時
見聞きしたことをこっちの本部とやりとりする。
彼らが命を落とす前に
情報を通達してもらえるようにね』
……命を落とす前に。
『今後は彼らに
捨て身の覚悟で仕事をしてもらうことになる』
『この石をどうやって使うの?』
『彼らが使えればいいのさ。
彼らの被り物であるスーツとリンクして
使えるようになってる』
昆虫類の体って
見るからにメカニカルに出来てるし
変わってるよなあって、常々思ってた。
そんな話を聞くと、ああ、なるほどって感じだ。
植物とリンクしてるのは知ってるけど
鉱物ともリンクしてるんだな。
僕とコレーの脳内でのヒソヒソ話は
そこで中断した。
*
準備が整うと
各クラスの委員たちが女子をグループ分けし
あらかじめ決められた席へ案内した。
シフが開式の言葉を述べ
シノンが歓迎会開催へのお礼を言った。
そして、僕のワークショップが始まった。
僕のワークショップとはいえ
僕は今さっき初めて聞かされた話だから
コレーが準備してくれたキットだけで
やることになった。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう」
僕は、みんなの顔を見渡した。
「みんながいつも僕のことを応援してくれて
すごく励みになってる。
今日はシノンの歓迎会だけど
僕のワークショップを企画してくれたシフとシノン
そして動員や受付や準備をしてくれたミルたちにも
感謝します」
ちょっと照れくさいけど。
「ありがとう。今日はみんな楽しんでね!」
これは、僕自身の言葉だ。
コレーは黙って、脳内から見ている。
誰にでも作れる簡単なキットとはいえ
こういうことには得手不得手がある。
全員が女子だからといって
全員が手作りに向いているとは限らない。
反対に、男子だって
僕や夏目セイジみたいなのがいる。
レスリング選手やトラック乗りの女性もいるし
華道家だって料理研究家だって
男性がいるじゃないか。
諜報員だって、女子も男子もいる。
数人ずつのグループには
手先が器用で、こんな時にリーダーになる子が
必ずひとりはいた。
クラス委員や部活の部長
キャプテンなんかもそうだけど
幼稚園から始まる集団生活歴十数年ともなれば
リーダーシップの取れる子を見分けることが出来る。
お互いの良いところをよく知ってるって
大事なことだよな。
ただ、今日のグループ分けは
クラスの班や仲良しグループとは違うみたいだ。
それぞれの得意なことや性格を
あらかじめ調べたんじゃないかと思うほど
適材適所に分けられている。
僕は一応、講師として各グループを回りながら
みんなの様子を見守った。
シフとシノンの段取りがよくて、流れもスムーズ。
とてもいい雰囲気だ。
初回からこんなにまとまりがいいなら
続けられそうだな。
今後も許可をもらって
毎回違う小物作りのワークショップをやれたら
きっと楽しんでもらえるだろう。
夢が膨らむじゃないか。
みんなの席をぐるっとひと回りしたところで
シフとシノンが何か話しているのが見えた。
ふたりは顔を見合わせ
何かを決めたように頷き合った。
そして、シフが僕のところへ来た。
「みんなに、諜報員としての心構えを
軽く話そうと思うんだけど」
シノンも近づいてきて、そう言った。
僕じゃなく、コレーに言ったんだとわかった。
女子が『ながら』を得意とするのは知ってるけど。
軽く話して大丈夫なことなのか?
この状態で?
『最初にボクから話す』
コレーが頭の中で呟いた。
そして、すぐに僕たちの口を使って話し始めた。
「ボクの名前は、比喩コレーだ」
女子たちの手が、少し止まった。
「別次元から来た。今、イユルと体を共有してる」
ざわっ。
当然だよね。
「周りの大人たちには知られたくなかったから
広範囲催眠にかかってもらってるんだが
キミたちには
ぜひとも協力してほしいことがあるので
真実を話させてもらうよ」
女子たちが少しざわついた。
でも、続いてシノンが話し始めると
みんな静かに耳を傾けた。
「実は、コレーは私の恋人なんです」
……ああ。
そう言っちゃうんだ。
「イユルが作ってくれて
みんなの手に渡ったそのブローチは
コレーと私が別次元から乗ってきた乗り物の
ミニチュアなの」
シノンは、女子たちの胸元を見渡した。
「それを広めてくれたら
行方不明の私のパパを探す手がかりが
見つかるかもしれない。
みんながそれをつけて歩き回ってくれたら
声をかけてきた人たちの身辺を調査できるの」
すると、次々に質問が飛んだ。
「どうやって探すの?」
「シノンのパパの特徴は?」
「どんな方法で調査するの?」
「歩き回るだけでいいの?」
みんな、真剣だ。
「熱心に聞いてくれてありがとう」
シノンは、にっこり笑った。
「調査のためには、ブローチに密偵たちが潜んで
一緒に出かけてもらう必要があるの。
ブローチはそのための探査機で
密偵たちは小さな調査隊よ」
小さな調査隊。
聞こえはいいよね。
「盗聴も盗撮もやってのけるわ。
いざという時は、ドローンとして
飛んでいくことも出来るし」
「すごーい! スパイみたい!」
「カッコイイ!」
……え。
そこ、喜ぶところ?
「みんなも参加することに同意してくれたんだから
立派な諜報員よ」
シノンは続けた。
「今日作ってもらってるバッグチャームに付いた
あなた方の指紋が、それぞれのIDとして
ブローチや搭乗員ともリンクする仕組みなの」
なるほど。
僕の指紋が研究所のIDになったのと
同じようなことか。
「ブローチのことで何か話しかけてくる人がいたら
うまく対応して、誘導尋問してね。
どうかよろしくお願いします」
すると、ひとりが手を挙げた。
「ひとりじゃ怖いから
グループ行動してもいいの?」
「もちろんよ」
シノンは、会場を見渡した。
「今日、固まって座ってもらってる
そのグループ分けは
それぞれみんなの特質を調査して
その持ち味を最大限に生かして
問題解決が出来るように編成したの」
……あ。
やっぱり。
適当に分けたんじゃなかったんだ。
「行動先でどんな問題が起きても
協力し合って解決しやすいと思うわ。
これは私の次元では
女子諜報員が必ず応用する方法なの。
みんなにも理解してもらえたら助かります」
シノンは、シフと顔を見合わせた。
シフが静かに頷いた。
「それでは」
シノンが言った。
「密偵を務めてくれる精霊のみんなを紹介するわね」
……来た。
とうとう来た。
「みんな、出てらっしゃい」
*
『精霊』
そう聞くと、なんだか響きがいい。
女子たちの目には
星やハートが浮かんでいるように見える。
でもね。
これから姿を見せる奴らは、俗にいう
『害虫』なんだよ。
二学期初日に学校で目撃され
害虫駆除騒動を逃れ
僕の部屋の洋服ダンス研究所の奥で
保護されていた連中だ。
どんな『なり』で出てこようと
女子たちの多くは卒倒するか、逃げ惑うか
叩き潰しにかかるに違いない。
実は僕、この瞬間を何よりも恐れていた。
覚悟もしていた。
だが。
僕の予想は、見事に外れた。
なんと。
彼らは、女子たちに嫌われまいと、
思い思いのカワイイファッションで現れたのだ!
金ピカ。
水玉模様。
ギンガムチェック。
ハート模様。
見慣れた
いや、出来れば見慣れたくない姿の上に
思い思いの装飾をまとっている。
害虫。
いや。
精霊たち。
彼らは女子たちへの敬意を払い
密偵としてのミッションを果たすために
最大限の努力をしてここに集結したのだ。
「彼らも、必要に駆られて歩み寄ってくれたのよ」
シノンが言った。
「私もシフも、そして実はミルも
みんなのボディペインティングを手伝ってくれたの」
……ミルも?
ミルが?
あの脂ぎった茶羽根と、毛深い長足多足にも
ボディペインティングしてやったんだと?
信じられない。
なんという深い愛ではないか!
シノンとシフは
いつの間にミルにそんな相談をしたんだろう。
「どうかみんな、よろしくお願いします」
シノンが頭を下げた。
女子たちは、もちろん驚いていた。
でも、逃げ出す子はいない。
それどころか、何か
すでに士気が高まっているように見える。
みんな、自分の殻を破ろうとしているんだ。
僕は泣きそうになった。
女子は、なんで。
なんでそんなに、覚悟が早いのだ?
改めて、女子の肝っ玉を見せつけられた気がした。
僕も自分に負けちゃいけない。
頑張らなくては!
*
「さっきも言ったように
今日みんなで作ったバッグチャームの石は
密偵専用の送受信装置になってるから
忘れずに身につけていてね」
シノンは、もう一度説明した。
「ブローチは、万が一壊れても
増産してるから大丈夫。
イユルの研究所のIDも付いてるから
密偵ごと盗まれても平気よ」
イユルの研究所。
……僕の研究所。
「密偵たちは、たとえ叩き潰されても
精霊となって必ず帰ってくる。心配しないで」
僕は、シノンの言葉を聞きながら
胸がじんと熱くなった。
イユルの研究所。
そう言ってくれたんだ。
僕のID。
僕のIDは、コレーのIDでもある。
そうだ。
何もかも、すべてはこの僕が引き寄せたことだ。
夢の中で、自由研究のネタが欲しいと願った。
コレーが来た。
洋服ダンスが研究所になった。
精霊たちが集まった。
そして今、女子たちが
僕らのために力を貸してくれようとしている。
僕はもう、ただ巻き込まれているだけじゃない。
覚悟を決めなければ。
シフとシノンが、会場を見渡した。
女子たちも
それぞれのバッグチャームを手にしている。
僕は、彼女たちの顔を見た。
ミルも笑っている。
精霊たちも
思い思いのカワイイ格好で並んでいる。
なんだか、すごい光景だ。
こうして、僕たちは結束した。
シフとシノン。
コレーと僕。
そして、女子たちと精霊たち。
みんなで一緒に、闘うことを誓った。




