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トーシローの睡眠作戦・宇宙大戦争篇 第十幕 


第十幕 銀河一の目覚まし時計


「イユル。敵が、とうとう秘密兵器を出してきた」


 トーシローが言った。


「また戦争?」


「そう」


「今度は何?」


「目覚まし時計」


 ……。


「時計?」


「うん」


「それ、秘密兵器なの?」


「とんでもない兵器だよ!」


 トーシローは真剣だった。


「銀河中の生き物を

強制的に起こしてしまうんだ!」


「ええっ!」


「眠っている人も、冬眠中の動物も

休眠中の宇宙生物も!」


「それは大変だね」


「大変なんてもんじゃない! 

銀河の生態系が崩壊する!」


 ……。


 いつになく、科学的な話だ。


「それで、どうしたの?」


「僕は艦隊を率いて、敵の時計要塞へ向かった」


「時計要塞?」


「直径百キロの目覚まし時計なんだ」


「でかっ!」


「銀河中に、アラームを送る装置がついてる」


「どうやって止めるの?」


「それが難しい」


 トーシローは腕を組んだ。


「止めるボタンが見つからない」


「……」


「時計の表面を調べたけど、どこにもない」


「電源を切ったら?」


「電源がない」


「電池は?」


「ない」


「じゃあ、何で動いてるの?」


「敵の気合い」


 ……。


「気合い?」


「そう」


「……」


「敵の皇帝が、絶対に全員起こしてやるって

ものすごく気合いを入れてるらしい」


 ……。


 そんな動力源があるのか。


「それで、どうしたの?」


「僕は考えた」


「うん」


「どんな目覚まし時計にも、必ず弱点がある」


「何?」


「止められると困る時に鳴ることだ」


 ……。


 哲学的だなあ。


「だから、僕は時計要塞の中へ入った」


「危ないじゃないか!」


「うん。でも、ほかに方法がなかった」


「それで?」


「要塞の一番奥に

アラームを操作する部屋があったんだ」


「おお!」


「そこで見つけた」


「何を?」


「スヌーズボタン」


 ……。


 ……。


「トーシロー!」


「何?」


「止めるボタン、あったじゃないか!」


「止めるボタンじゃない。

五分だけ延期するボタンだ」


 ……。


 そうか。


 違うのか。


「僕は押した」


「うん」


「銀河中が、五分だけ静かになった」


「よかったね!」


「でも五分後に、また鳴る」


「……」


「だから、もう一度押した」


「うん」


「また五分」


「……」


「また押した」


「……」


「何度も押した」


 ……。


「何回?」


「二百八十八回」


 僕は指を折って考えようとした。


 途中でやめた。


「それで?」


「丸一日、銀河の睡眠を守り抜いた!」


「すごいじゃないか!」


「だろ?」


「でも、ずっとボタンを押してたの?」


「うん」


「寝られなかったんじゃない?」


 ……。


 トーシローの顔が、急に曇った。


「そうなんだよ」


「……」


「僕だけ、一睡もできなかった」


 ……。


 ……。


 ああ。


 それはかわいそうだ。


「でもね、イユル」


「何?」


「その間、何億もの人たちが安心して眠れたんだ」


 ……。


 僕は、ちょっと感心した。


「トーシロー、かっこいいじゃないか」


「……そう?」


「うん。立派な総司令官だよ」


 トーシローは、照れくさそうに笑った。


     *


「それで、アラームはどうなったの?」


「そこが問題なんだ」


「え?」


「二百八十九回目を押そうとしたら

手が動かなくなった」


「どうして?」


「眠くて」


「……」


「限界だった」


「それで?」


「そのまま寝た」


「ええっ!」


「時計要塞の操作室で」


「じゃあ、銀河は?」


「わからない」


「……」


「でも、最後にひとつだけ覚えてる」


「何?」


「僕が寝た瞬間、ものすごい音が鳴ったんだ」


「アラーム?」


「そう!」


「それで?」


「今度は本当に目が覚めた」


「……」


「母さんが、僕の枕元で目覚まし時計を鳴らしてた」


 ……。


 ……。


「トーシロー」


「何?」


「銀河一の目覚まし時計って……」


「うん」


「お前んちの目覚まし時計じゃない?」


 トーシローは、しばらく黙っていた。


「……」


「……?」


「イユル」


「何?」


「もしそうだとしたら」


「うん」


「母さんは、銀河最強の敵ってことになる」


 ……。


 ……。


 お母さんには、絶対に言わない方がいいと思う。

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