トーシローの睡眠作戦・宇宙大戦争篇 第九幕
第九幕 宇宙艦隊、健康診断
「イユル」
トーシローが、深刻そうな顔で言った。
「僕、軍医に呼び出された」
「宇宙の?」
「そう」
「どこか悪いの?」
「わからない」
……。
トーシローが健康診断。
これは、ちょっと興味がある。
「何を調べたの?」
「身長、体重、視力、聴力」
「普通だね」
「それから、反射神経と宇宙酔いの検査」
「へえ!」
「最後に睡眠時間」
「……」
来た。
「何時間って答えたの?」
「一日十四時間」
「うん」
「軍医が黙った」
「……」
「それから、もう一度聞かれた」
「何て?」
「一週間で、ですか?」
「……」
「だから、一日です、って答えた」
……。
軍医さん、さぞ驚いただろうなあ。
「それで?」
「勤務時間は何時間ですか、って」
「うん」
「十時間です、って答えた」
「……」
「軍医が計算機を取り出した」
「だろうね」
「そして、僕の顔を見た」
「うん」
「一日は二十四時間ですよ、って」
……。
……。
「トーシロー」
「何?」
「十四時間寝て十時間働いたら
食事はいつするの?」
「……」
トーシローは、少し考えた。
「夢の中で」
「……」
「ちゃんと食べてるよ」
「何を?」
「宇宙食」
「……」
「昨日はカレーだった」
……。
軍医さん。
どうか、この人をよろしくお願いします。
*
「それで、結果は?」
僕が尋ねると、トーシローは胸を張った。
「要観察」
「……」
「でも、異常はなかった」
「本当?」
「うん。軍医が言ったんだ」
「何て?」
「あなたの睡眠能力は
普通の人間の想定を超えています、って」
「……」
「すごいだろ?」
「それ、褒められたのかな」
「もちろん!」
……。
トーシローは
そういうことにしておきたいらしい。
「それで、軍医から新しい任務を与えられた」
「何の?」
「宇宙艦隊の睡眠改善」
「……」
「乗組員たちに、正しい睡眠方法を教えるんだ」
「お前が?」
「そう!」
「……どんな方法?」
「まず、寝る」
「うん」
「起きる」
「うん」
「また寝る」
「……」
「これを繰り返す」
……。
……。
「トーシロー」
「何?」
「それ、睡眠改善なの?」
「睡眠の機会を増やしてるんだよ」
「……」
言ってることは、わからなくもない。
でも。
「軍医さん、何て言った?」
「画期的ですね、って」
「本当?」
「うん」
「……」
「ただし、勤務中には実施しないでください、って」
……。
当然だ。
*
翌日。
トーシローが学校で眠そうにしていた。
「どうしたの?」
「睡眠改善計画の報告書を作ってた」
「え?」
「夢の中で」
「……」
「夜中ずっと」
「……」
「だから、寝不足」
……。
……。
とうとう、夢の中の仕事で
現実の睡眠が足りなくなったらしい。
「トーシロー」
「何?」
「たまには夢の中でも休んだら?」
トーシローは目を丸くした。
「……!」
「……?」
「その発想はなかった!」
……。
宇宙艦隊総司令官。
自分の専門分野で、最大の見落としをしていた。




