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トーシローの睡眠作戦・宇宙大戦争篇 第八幕 


第八幕 ドーナッツ枕のワープゲート


「イユル!」


 トーシローが、大きな袋を抱えてやってきた。


「どうしたの?」


「これ、見て!」


 袋から取り出したのは

真ん中に穴の開いた丸い枕だった。


「ドーナッツ枕?」


「そう!」


「買ったの?」


「もらったんだ!」


 トーシローは嬉しそうに枕を持ち上げた。


「これで、今夜は新しい作戦に挑戦する」


「何の?」


「ワープ」


 ……。


「枕で?」


「うん」


「……どうやって?」


 トーシローは、真ん中の穴を指さした。


「ここ」


「……穴だね」


「そう。宇宙船のワープゲートと同じ形だろ?」


「同じかなあ」


「僕はそう思う」


 ……。


 本人がそう思うなら、仕方ない。


「それで、どうするの?」


「ここに頭を乗せて寝る」


「うん」


「すると、夢がこの穴を通る」


「……うん?」


「その先が、別の宇宙につながる」


 ……。


 トーシロー。


 お前の夢は、どこまで自由なんだ。


     *


 翌朝。


『成功した』


 トーシローから、いつもの報告が届いた。


『ワープ?』


『そう!』


『どこへ行ったの?』


『ドーナッツの穴の向こう側』


『だから、そこはどこ?』


『それが、まだよくわからない』


 ……。


 僕は電話をかけた。


「どういうこと?」


「水饅頭号のコクピットに座ってたらね

目の前に巨大な輪っかが現れたんだ」


「うん」


「ドーナッツ型のワープゲート」


「おお!」


「僕が突入命令を出すと

艦隊が全部その穴に吸い込まれた」


「大丈夫だった?」


「うん。でも、出た先が変だった」


「どんなふうに?」


「宇宙が、全部丸かった」


「……宇宙はもともと丸いものも多いんじゃない?」


「いや、そういう意味じゃない」


「じゃあ?」


「星も、惑星も、宇宙ステーションも

全部ドーナッツ型なんだ」


「ええっ!」


「しかも、みんな真ん中に穴が開いてる」


「へえ!」


「水饅頭号も、いつの間にか真ん中に穴が開いてた」


「……それ、水饅頭じゃなくなってない?」


「僕もそう思った」


 ……。


 そこは気にするんだ。


「それで、どうしたの?」


「現地の宇宙管制官に通信した」


「何て?」


「ここはどこですか、って」


「うん」


「そしたら、返事が来た」


「何て?」


「ここはドーナッツ銀河です、って」


「……」


「さらに言われた」


「何を?」


「入った穴から出てください」


 ……。


「それだけ?」


「うん」


「じゃあ、戻ればいいじゃないか」


「それが大変だったんだよ!」


「どうして?」


「穴が多すぎて、どれから入ったかわからない!」


 ……。


 ……。


 僕は笑いをこらえた。


「それで?」


「片っ端から入ってみた」


「何個?」


「百三十二個」


「……」


「全部、違うところに出た」


「すごい冒険じゃないか!」


「そうなんだよ!」


「それで、最後は?」


「元の場所に戻れた」


「よかったね!」


「うん。でも、ひとつ問題が」


「今度は何?」


「目が覚めたら、枕が顔に貼りついてた」


 ……。


「穴に顔をはめて寝てたの?」


「そう」


「……」


「僕、危うく現実世界でも

ドーナッツになるところだった」


 ……。


 ……。


 トーシロー。


 次は普通に枕を使いなさい。


     *


 その日の放課後。


 トーシローが、また枕を抱えていた。


「今日もワープするの?」


「うん」


「今度はどこへ?」


 トーシローは真剣な顔で答えた。


「ドーナッツ銀河の、真ん中の穴の調査」


「……」


「まだ誰も、あの穴の底を見てないんだ」


 ……。


 穴に底があるのかどうかは、知らない。


 でも。


 この男の夢には、底がないらしい。

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