トーシローの睡眠作戦・宇宙大戦争篇 第五幕
第五幕 あと一秒の攻防
「イユル!」
登校するなり、トーシローが僕の肩をつかんだ。
「どうしたの?」
「間に合った!」
「何が?」
「宇宙だよ!」
……。
また始まった。
「昨日の続き?」
「そう! あと一秒のところから!」
「おお! ちゃんと続きが見られたんだ!」
「うん!」
トーシローは胸を張った。
「敵の主砲が発射される寸前
僕は水饅頭号のコクピットに戻った」
「それで?」
「全艦、緊急回避!」
「かっこいい!」
「だけど、燃料がない」
「そうだったね」
「動けない」
「……うん」
「もう駄目だと思った」
……。
これは本当に危ないんじゃないか。
夢だけど。
「そこで僕は気づいたんだ」
「何に?」
「宇宙空間では、物を投げれば反動で動く」
「……」
「前に枕投げしただろ?」
「したねえ」
「だから、船に残っていた枕を全部
後ろに放り出した」
「全部?」
「うん。乗組員にも協力してもらった」
「枕、そんなにあったの?」
「五万個」
……。
「トーシロー」
「何?」
「軍艦に五万個も枕があるの?」
「戦争中だから、睡眠は大事なんだ」
……。
それはそうかもしれないけど。
「それで?」
「五万個の枕を一斉に射出した!」
「おお!」
「水饅頭号が、ゆっくり前へ進み始めた」
「やった!」
「敵の主砲が発射された!」
「うわっ!」
「僕の船は、ほんの少しだけ横へずれた!」
「避けられた?」
「ぎりぎり!」
「すごいじゃないか!」
「しかもね」
「うん?」
「後ろへ飛ばした枕が、敵の小型艦隊に命中した」
……。
「枕で?」
「うん」
「敵は?」
「全員、気絶した」
……。
……。
「トーシロー」
「何?」
「お前の夢の宇宙では、枕が最強兵器なの?」
「そうみたいなんだよね」
……。
本人も不思議に思っていたらしい。
「で、今はどうなってるの?」
「全艦隊、無事に脱出した」
「よかったね!」
「うん。今は補給基地に向かってる」
「じゃあ、ひと安心だ」
「いや、問題がある」
「何?」
トーシローは、深刻な顔になった。
「枕が一個も残ってない」
「……」
「これじゃ、乗組員が眠れない!」
……。
……。
宇宙大戦争。
どうやら、次の戦いは寝具の補給らしい。
*
その夜。
トーシローから短いメッセージが届いた。
『今日は早く寝る』
『補給基地に行くの?』
『うん』
『がんばって』
『ありがとう』
少しして、もう一通。
『でも、ひとつ心配がある』
『何?』
『枕のない夢って、見られるのかな』
……。
知らんがな。




