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9話

 晴開せいかいへの歓迎の意を込めて酒宴を催した姉妹三人は、子の刻(午前0時)を過ぎてもどんちゃん騒ぎを起こし続けた挙句、酒宴はお開きになった。


 この酒宴で当の主役である晴開は、自分はまだ未成年だから酒を飲むつもりはなかった。

しかし、皆17歳で彼と同年齢(タメ)であるにも関わらず、姉妹三人ともうわばみだった。


 とりわけ彼女らのうち酒癖の悪い末妹の蓮花れんかが酔いが回ってくると、晴開の盃になみなみと酒を注いで彼に押し付け、何杯も飲ませたのであった。


 そのため、酒を呑みなれていない晴開はへべれけに酔っぱらい倒れてしまった。


 姉妹三人は酒に弱い彼のことを情けなく思いながら、彼女ら自身の屋敷に運び、不在の桃瑚とうこの部屋のベッドの上に乗せた。


 それからまだ夜も明ける前、晴開は酔いが冷めたのか目を開けると、ベッドの上に横になっていることが分かった。


 どうやら自分は、昨晩の宴会で酒を呑まされ過ぎたせいで、眩暈がする上ひどい頭痛が起きているようだった。


 彼は辺りを見回したその刹那、なんと薄衣の羅襦したぎ姿の梅涼めいりょうが枕元に座っていることに気づいてハッとして、酔いが醒めてしまった。


「わああァァッッ!!何でここにいるんだよ!!」

「ふふふ。今夜は貴方と一緒に過ごしたい気分だったから。私がそばにいて何がいけないの?」


 梅涼がそばにいることに気づいた晴開は、上体をのけぞった。


だが未だに梅涼は、昨日に引き続き晴開を私物化することを諦めていなかったので、彼は余計に嫌気が差した。


 それを見た彼女はニヤけながら、ベッドの上で彼の身体に近づいてくると、酒の匂いが残る息がかる。


 酔いがさめていないのか、その動きはぎこちなかった。そして彼女は晴開の両の手の指を絡めるようにして握り出したのだった。


 その瞬間、晴開は異性の方から自分の身体を触れられたことで「ヒッ!」と声を上げてしまい、更に胸の鼓動が収まらなくなる。


「な……何だよ!!一体どういう魂胆なんだよ!?まだ酔っているのか!?」

「こっちこそ何でなの?私じゃダメなの?まだ、酔っているからなの?」

「いや、そうじゃなくて……梅涼だからって、酔っているっていうわけじゃ……」

「それって、どういうこと?――――ふふふ、もしかしてあなた女が苦手なのね」


 梅涼に両手の指を絡められたせいで、脳内で悶々としていた晴開は彼女に図星を突かれて心臓が爆発しそうになった。


 対する梅涼は、そのような彼に挑発的な態度で挑んだ。


しかし晴開の方と言えば、なぜこの龍鳳界りゅうほうかいに転移してそれが覆される事態が起こるのか解らず、もどかしい思いをした。


 それを感じ取った梅涼は、握った手で指を絡めたまま更に晴開に近づき、虚しさと悲しみをかおに浮かべて晴開に問い詰める。


「昨日会ったばかりだけど、私たちを執拗に避けようとしていたじゃない?何でなの?」

「それは……俺もお前達と初対面で、あんなに喰いついてくるから」

「私達のことを”ウザい”とでも思っているの!?何で私の気持ちがわからないのよ?」


 思わずヒステリックを起こした梅涼は、晴開から指を離さないまま目を滲ませ、やがて涙が込み上がってくる。


 それを見た晴開は自分か彼女を泣かせたのだと罪悪感を覚えたが、それでも彼女らのことを受け入れたく無かった。


 それまで晴開は幻世げんせにて二人の彼女と付き合った経験はあるが、それも実を結ばなかった。


 おかげで晴開は自分が恋愛に不向きだと自覚したことで、この際けじめを付けて異性との関わりを捨てたかった矢先だった。


 自分に執拗に迫る梅涼に対して晴開は、おぞましさをすら感じていた。


 しかし彼は脳内で悶え苦しんでいるようで、自分が求めざるべき”欲”が芽生えていった。


 一方梅涼も晴開とはじめてあった時の胸騒ぎを端緒とし、それが彼女の“欲”というかたちで今起こしている行動に表れていた。


 梅涼の潤んだ瞳を相手のそれから離れぬよう視線をそらさず、身体を晴開との隙間をぎこちなく動いてそれを埋めようとじりじりと晴開に近づいてくる。


 やがて梅涼は晴開の両腕に挟ませるように、たわわに実った二つの桃のような巨乳を寄せてきたのだった。


彼女の薄く透けた羅襦からはみ出た殻を剥いたゆで卵のような艶やかな肌をした身体からは、その名の通り梅の香が漂っていた。


更に梅涼は相手との顔同士の空間を埋めるようにして、その憂いを込めた梅涼の涙で輝く紺碧の瞳、紅を差した唇が近づこうとしていた。


「あなたって本当に、ひどい人なんだから――――男というのは、この葛藤を超えて一人前の大人となっていくのよ」

「……はッ!?」


 しかし、その口から吐かれる吐息からは、まだ酒の匂いが相変わらずまだ残っていた。

 彼の視界には欲情を覚醒させる物以外、視界に入らなかった。


 有耶無耶に思考回路がまとまらずにいた晴開は、それに抗えずに身体が勝手に相手の方に動き出し、男女二人同士顔と顔を寄せ合い、互いの唇に近づいた。


――――そしてそれらが触れようとしたその時、バタンという爆音が部屋に響いた。


「ちょっと~(めい)姉ちゃん……お酒ぇぇ、もう無いのぉぉ?」

「「ギャアアアアァァァァッッ!!」」


 仲睦まじく唇を重ねようとしていた二人は気が動転して悲鳴を上げ、音がした方に顔を向けた。


 その先には、泥酔した蓮花れんかがふらついた足でこの部屋に入っていたのだった。


「ああァァッ!?ズルい~~!!めい姉ちゃん。晴開を独り占めするなんてぇぇ!!」

「ち……違うんだ!蓮花。梅涼が勝手に俺のところに……なあ、そうだよな?」


 二人の情事を目撃したことを蓮花は、姉に晴開を横取りされたかのような言いぐさを吐いた。


 彼らがこの状況にあることを、梅涼に自白するように促す。


「ちょっと、蓮花!!いいところだったのに。何が『お酒ぇぇ、無いのぉぉ』って、まだ呑み足りないわけなの!?」

めい姉ちゃんだってぇ、私が酔っぱらって寝てた時に何やってんのぉ!!目が覚めたから、まだ呑みたかったのぉ」


 これも最悪の事態というべきか、蓮花が起きなければ――――このままうまくいくはずだったのに――――と悔しい思いをする梅涼だった。


 晴開も晴開でこのまま自分は、可笑しくなってしまうのではないかと気が動転するばかりだった。


めい姉ちゃん、そこ私と変わってよおおぉぉ」

「あッ、こら!!蓮花。放しなさいよ!!私の邪魔しないで!!」


 蓮花は晴開に淫らな行動を取った梅涼が許せないのか、彼女を羽交い絞めにして晴開から引き離そうとした。


 だがそれに対して、相手は何としてでも晴開から離れまいと必死に抵抗した。


 このような修羅場と化した状況にショックを受け、晴開は茫然として顔が青ざめていった。


 そして、入口の方からドスドスと鳴らす足音が耳に入った。彼ら三人はその方角を見ると、今度は仁王立ちしている者が目に入り、一気に場の空気が張りつめた。


梅姉めいねえ!!蓮花!!いい加減にしてよ!!晴開は酔っぱらって起きれないのに!!」

杏琳きょうりんまで、晴開を狙うってわけ?」


 杏琳が怒鳴り散らすと、晴開と梅涼に加え乱入した蓮花までもが心身ともにビクつかせてしまった。


 彼女は酒浸りになっていたはずなのに、それに強いのか全く酔っていなかった。


 更に杏琳が乱入したことで、梅涼は蓮花に加えて彼女まで自分の邪魔をすることに憤りを感じ、晴開の所有権を主張した。


 杏琳の叱咤に恐怖を覚えた蓮花は、今にも泣きそうになって梅涼を放した。


「ひどいよおおお!!きょう姉ちゃん。晴開は私のぉぉ」

「杏琳。あなた晴開のことを気遣って――――てことは?」


 梅涼はもしやと杏琳に疑念を抱いた。それも、彼女はここ閏商に来るまでの十日間ずっと晴開と過ごしていたのであれば――――と何か彼に対する思いがあるのかが解ったようだ。


「あんた、もしかして晴開のこと本気で好きじゃないでしょうね?晴開と一緒にいたいのよね?」

「ちょ……梅涼、お前!?」

「べ……別に、そうじゃないわよ!!ただ、晴開が寝れないから、その邪魔をしているあなたたちを排除しようとって……」

「ひ……ひどいぃ!!私達を排除だなんてぇ!!」


 梅涼はいきなり鋭いところを突いた時の反応で杏琳がツンデレだったと分かり、晴開と梅涼は、呆れつつ怪訝な表情になった。


 蓮花は彼女が続けて発した言葉に怯えてしまった。


 更に杏琳は、彼女らにけじめを付けさせようと口を開く。


「ほら!さっさと寝てよ。夜が明けたら主上に会うんだから」

「もう、分かったわよ。それでも、一番迷惑なのは晴開の方よね。だって彼に嫌われたくないもの」

「しょうがないなぁ」

(よかった!これで、ぐっすり眠れるぞ!!)


  さすがに梅涼も蓮花も、その主張に対して何も言い返せずに口をとがらせることしかできなかった。


 彼女らは、杏琳に咎められれたお陰で晴開が寝ている桃瑚の部屋から去って行き、彼はやっと安眠することが出来たのだった。

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