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10話

 未明、散々な目に遭った晴開せいかいだった。梅涼と蓮花達が撤退した後、眠りにつくことが出来たが、夜が明け辰の刻(午前8時)には杏琳きょうりんに起こされた。


この日は彼女ら后土四姉妹こうどよんしまいは、秋兌国王しゅうたいこくおうこうそうしゅくと会って、”白龍の龍召士りゅうしょうし“としてこの龍鳳界りゅうほうかいに転移した晴開を連れて行くことになっていた。


 晴開が着ていた服は、この国の王と面会するにはみすぼらしい格好だと杏琳に指摘され、曾淑に会う前に仕立屋に寄った。


 そこで、今着ているものより、裾が足元まである上衣を着せられた。その後、王都のじゅんしょうの西の端に位置する白義宮へ向かった。


 秋兌国王は外廷の玉座のある魄受殿はくじゅでんで謁見するのであった。


 白義宮の建物自体すべてが屋根に白銀の甍が葺かれ、それをそれと同じ色の柱が支えている。


そのような建物が何重にも連なっており、見れば見るほど陽光を照り返し、目がくらみそうになった。


 晴開らはいくつもの楼門をくぐり、馬上から魄受殿と正面から相対する。


そこへと向かう正面を、白銀の鎧を付けた護衛の兵達が両側に立ち並び、その背後にそれと同じ色の袍を着た百官の長が続いていた。


「わあ、すげぇな!」

「ちょっと、黙りなさいよ」


 花道のように続く兵が作った列の間を進んでいると晴開は思わず言葉を漏らしてしまったので、杏琳はそれを咎める。


 魄受殿へ続くらんが彫られたきざはしの手前で晴開らは下馬し、その馬は護衛の兵によって連れていかれる。


 そして階を上るとその重厚な入口の扉が開いてその中へ入る。


 その中にも高い天井に何本もの白銀の太い柱が立っており、その奥の壇上に同じ色の玉座が置かれ、背後にはそこには白い鸞が大きく壁に描かれていた。


 その下に一人の白銀の煌びやかな衣を着たやんごとなき女性が玉座に膝を組んで頬杖をついて座っている。


彼女こそ秋兌国王、鉱曾淑なのだと気付いた。


 どうやらこの広間が、彼女への謁見をする場であることを晴開は理解した。


 姉妹三人は晴開に何か目配すると、彼はそれに疑問に思った。


すると、彼女らが跪いたことで晴開はそれを理解し、自分も続いて同じようにした。両脇にいる大勢の百官の長も同じようにして拱手した。


 遂にこの瞬間、曾淑は立ち上がり玉座の前から見下ろした。晴開らはその様子を目にすることなく叩頭し続ける。そして彼女の口から厳かな声が低く響いた。


「うぬら、つらを上げよ」


 女王らしく堂々とした口調で発した一言で、そこの広間にいる者全員が頭を上げた。

 壇上の玉座の前に立つ曾淑を見て晴開はハッとして、玉座に座っていた時と違う彼女の容貌にの荘厳さに魅せられた。


 華奢な体格でも頭身が高い身体は、この秋兌国の象徴である五行の金徳を表す白銀の分厚い生地に、錦糸の鸞が刺繍された絢爛豪華な長袍で包まれていた。


 そしてそのかおは、その白磁のように透き通った肌をしていて、それに紅を差した唇は美しく、切れ長の白銀の光彩を持つ瞳に、女王と風格を感じさせる鼻筋の通った凛々しい面構えをしていた。


 白銀の長髪は均整に結い上げられ、目が眩むほど輝く白銀の冠と何本ものそれと同じ色の簪が刺されていた。


「よく来たな――――と言いたいところだが、桃瑚とうこはまだおらぬのか?」

「主上、まだ桃瑚はまだ帰ってはおりません」

「そうか。それと引き換えこの御仁が前日に伝文で書いておった”白龍の龍召士”となるのか?」

「左様でございます。名を輪晴開りんせいかいと申します」


 王に向かって梅涼めいりょうが、自分のことを事前に曾淑に伝文で告げていた。

 それで晴開は彼女らがこの国の王に信頼されていることに感心した。


すると曾淑は、晴開に向かって口を開く。


「うぬが“白龍の龍召士”か。うぬがそれを召喚出来るようになれば、夜叉やしゃ大将たいしょうの残りの四人全員を葬ることが出来るのだな」

「たぶん、そうだと思うけ……います……」


 高貴なる人物から言われた言葉に対して、晴開は緊張して自身無さ気に答えてしまった。

 それを聞いた杏琳は、頬をかいてその場をごまかそうとしている彼に呆れてジト目で睨みつけてしまう。


 他の姉妹二人も思わず拍子抜けしてしまった。


「まあ、よい。ここで五龍王のうち一つ、“白龍の龍召士”がげんから転移されたのだから、それを召喚出来るようになれば、奴らを討伐するのも苦も無いはず――――だが、泉孝然せんこうぜんが弑されたのは非常に遺憾だと思う」

「主上、全てわたくし岩杏琳がんきょうりんの不覚にございます!!」

「杏琳、何だよ急に!?」


 曾淑が孝然の件について言及したことに、晴開に冷ややかな視線を向けていた杏琳はハッとして、再び跪いて広間全体に響き渡るような声で詫びた。


 俯いた彼女は、必死に号泣をこらえていたが、それでもすすり泣いてしまう。


「杏琳、余がうぬに孝然の様子を探るように命じたのがもっと早ければよかったのだが……」

「そ、そんな!?全て私の責任であります。遅れたのは私が油断していたからでございます!蓉彩ようさい様を悲しめるようなことをしてしまい……」

「うぬよ、そんなに自分を責めるでない。まあ、孝然を亡き者にした夜叉五大将のうち一人を仇を討ったのであれば、それで充分であるぞ。よくやった!」

「は……はい……グスッ」


 杏琳は曾淑の言葉に顔を上げたが、嗚咽を漏らしてしまう。彼女自身がその時起こした行動は曾淑に褒められるとは、微塵も思わなかったのだ。


 それでも彼女はこの国の公主、こう蓉彩ようさいを悲しませてしまったことに自責の念が消えないままでいた。


「それに”白龍の龍召士”を奴から救って連れてきたではないか。いつまでもくよくよするな。杏琳」

「それでも、公主様は私のことを怨んでいるのではないのですか?」

「蓉彩は自分が婿を迎えることが叶わぬものにたったことは、ひどく悲しんではおった。しかし、うぬのことなど少しも恨んでおらぬぞ。それよりも、残りの夜叉五大将を龍召士に討ってもらいたいとのことだ」


 蓉彩の様子を曾淑が詳しく説明した。彼女が告げた夜叉五大将の討伐よりも、優先すべきことがあると杏琳は訴える。


「その前に、そいつらと裏でつながっている炎蔣于えんしょううの突き止めなければはなりません」

「そやつなら、ここからおよそ約300里(175.5km)ほど南西にあるしゅう藭荊山きゅうけいざんの古城におるぞ」


 ここ王都閏商があるのは茅州ぼうしゅうだった。藭荊山がある嗣州との間にはひつしゅうがあるので、二つの州の境を超えることとなる。


 蔣于の居場所を曾淑は最初から分かっていたようだ。それが分かれば、今すぐにも藭荊山に向かうこととなるだろう。


 すると曾淑は、顔を俯けこぶしを握り締めて声をふり絞った。


「蔣于は、孝然が婿入りに来るのを分かっていたのであろう。実の娘にもかかわらず、蓉彩の婿入りを邪魔をしおって……」

「そうだ!!炎蔣于を討つべしッ!!」

「奴は、不届きものだ!!」


 王の怨みのこもった言に対し、広間にいる周囲の百官の長から蔣于を非難する声が次々と上がった。


 その人数も増え続け、声高々に響くの音量ボリュームに晴開らは気圧されるばかりであった。その喚声も熱気とともにだんだん炎蔣于に対する怨嗟がこもっていく。すると、今まで罪悪感を抱いていた杏琳が声を上げた。


「そうよ!!全て炎蔣于がいけないんだわ。あいつがこの白義宮を出ていった時点で五大将と繋がっていたのよ!!」

「「炎蔣于を討つべしッ!!炎蔣于を討つべしッ!!」」

「ちょっと!!あなた達、私の意見も聞きなさい!!」


 その時、どことなく幼いが張りのある少女の声がこだました。

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