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11話

 『炎蔣于えんしょううを討つべし!』との掛け声が広間中に響く中、突如として少女の声がこだました。

 

 その場にいた者達の掛け声が止み、彼女一人の発言に対してざわめき出した。


 その方を見ると、玉座の前のきざはしの真下に一人の少女と道士のような服装をした美丈夫が立っている。


 少女の方と言えば、身体は曾淑そうしゅくのそれよりももっと華奢で頭身もまだ低く、胸の発育も姉妹三人よりは途上にある。


 服は白を基調とした、肩や胸元の露出した上衣と丈の短いスカートを履いている。


 その端正で幼さが残る顔に付いた眼は大きく桃色の虹彩を持ち、その右目に泣きボクロがついており、雪のように白い肌、紅珊瑚のように美しい唇をしている。


 髪も眼と同じく桃色で、二つのお団子(シニヨン)を作ってそれに桃色の芙蓉の花を飾り、そこから伸びたそれはゆるくカールしているツインテールになっていた。


 晴開せいかいは彼女のそのなりを見て、姉妹三人と違って何か心が動いていくのを感じたようだ。


 それを見た曾淑の眉間に青筋が剥き出しになった。


憂仁ゆうじん!!何故ここに蓉彩ようさい連れて来たのか!?」

「主上すみません、公主がどうしても”白龍の龍召士りゅうしょうし”をお目にかかりたいと……」

「確かに、憂仁の言う通りよ。そんなことより、母上いいかしら?さっきから聞いていたけど、確かに孝然様を弑したのは、杏琳が討った夜叉五大将のうち一人だけど、それは父上が仕向けたとは限らないでしょ?」


 この秋兌国王しゅうたいこくおうの実娘、要するに公主である蓉彩がまさかの発言をした。


 それを聞いた曾淑は顔を歪めたが、更に彼女は言葉を続ける。


「確かに私は父上のことは憎いし、孝然こうぜん様が殺されたことに憤りは感じているわ。でも父上が夜叉五大将やしゃごたいしょうと繋がっている証拠はあるっていうの?」

「だが、そやつがねぐらとしている藭荊山へ行かねば分からぬではないか?」

「…………」


 さっきから出しゃばっている少女とその従者に付いて、晴開せいかい杏琳きょうりんに耳打ちする。


「あのさ、”蓉彩”ってのは曾淑の娘だよな?その隣にいる奴は誰だよ?」

「あの人は、この国の祭祀を司る”奉常ほうじょう”の職に就いている研憂仁けんゆうじん様よ。昔から蓉彩様は彼になついているの」


 それを聞いて理解した晴開は納得したが、なんとなく憂仁のかおが過度の焦りによって、眉目秀麗なそれが台無しになっているのを見て哀れに思った。


 母から自分の主張を曲げられ、蓉彩は唇を噛んだ。自分に発言権は無いのかと苛立つ気持ちを彼女は押さえたつもりでも、それが顔に現れてくるのだった。


「もし蔣于の差し金だろうと無かろうと、未だ夜叉五大将と奴が繋がっているやも知れぬ、それなら其奴ら討伐するためにも、ここに来ておる”白龍の龍召士りゅうしょうし”の力も必要だ」

「えッ!?その人はどこにいるの母上……あッ!!」


 蓉彩は母に対して泰然とした態度を取っていたが、母の告げた“白龍の龍召士”を彼女が発見したのか、心が躍りときめいた様子が貌に表れていた。


 すぐさまその方へ駆け抜けてしまう程蓉彩の彼への興味がそそられ、それに比例して足の早さが増していき、いにその居場所にたどり着く。


「こらッ!蓉彩。どこへ行く!?」

「貴方が、“白龍の龍召士りゅうしょうし”ね!!一目見たわけで、すぐ分かったわ!」

「やはり、あの方だと解ったのですね!!公主」

「何だ、急に!?」


 曾淑は自分から離れていく娘を止まらせようと声を上げたが、もう遅かった。憂仁を伴って晴開の元へ着くと、蓉彩はすぐさまその両の手を掴んでしまった。

 

 その相手と言うのも驚愕のあまり身体がのけ反ってしまう。その様子を目にした憂仁は、蓉彩が”白龍の龍召士”が晴開だと判別したことの嬉しさのあまり、目を細めて笑みを隠せずにいた。


 だが、蓉彩のこの行動をよしとしない人間がいることに彼女は気づいていなかった。


「ちょっと、公主様!何でここに来たのよ!?」

「――ってゆーか、さっき現れたばっかなのに、何で晴開が”白龍の龍召士”だって分かったのさ!?」

「何よ?梅涼めいりょうれんも、彼から尋常ないほどの流気りゅうきを感じたからに決まっているじゃない。それに蓮花、彼はあなたの妹じゃないでしょ」

「そんなの分かんなかったわよ。私達には」

「…………」


 姉妹三人は面識があるとはいえ、やって来たこの国の公主が晴開に迫ってきたので、砕けた態度で咎めてしまう。


 彼女らのうち杏琳きょうりんが言った通り、姉妹三人とも晴開の流気の多さに気づいていなかった。


 それよりも、このような何とも言えない修羅場と化した状況に、晴開は言葉を失ってしまう。


「私はただ、みんなと違ってすぐ分かったからだけど」

「そうか、蓉彩。もちろん余も分かっておったぞ。さすが我が娘だ」

「だから、何だっていうのよ!あなた、晴開に馴れ馴れしく接しないでくれる!?」

「そーだよ!めい姉ちゃんのいう通りだよ。さっきから晴開にしつこいんだから!!」

「さっきから取り合いにされる俺って一体……」


 蓉彩だけでなく、その母の曾淑も晴開の隠された素質に気づいていた。だが、姉妹三人のうち、杏琳はともかく他の二人はそれに納得いかないようだった。


「公主様、私の姉と妹にかまっている暇はありません」

「何よ?杏琳。あなたちが嫉妬しても仕方ないじゃない?それに、孝然様が殺されたのをあなたのせいだと思っていないわ」

「そんな、公主様まで……でも、まだそれも不確かでございます。主上、やはり私達は藭荊山に向かわねばなりません」


 自分の不覚を非難しない蓉彩に、杏琳は謙遜してしまう。曾淑は彼女の言に納得して口を開く。


「そうだ。晴開は”白龍の龍召士”だ。彼奴も協力してもらわねばならぬのだ」

「えッ!?待って!?晴開も行くのよね!?母上、私も行ってもいい?」

「何を言うのです!!公主。貴女はこの国の大切な跡継ぎなのですよ!?」


 蓉彩は自分がどのような立場にあるかわきまえずに、藭荊山に行きだすというので、周囲の者達にどよめきをもたらした。


 更に眉間に加えて、こめかみにも青筋を立てた曾淑が口を開く。


「ダメだ!!お前は白義宮はくぎきゅうに残ってろ!お前は行ってはならぬのだぞ!!」

「どうしてよ!?晴開に私の夫になってほしいと思っていたのに!!」

「「何だって!!!」」


 突拍子もない蓉彩の発言に一同は天地がひっくり返る程驚愕した。

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