12話
秋兌国の公主の蓉彩からの求婚に、晴開は気を失って倒れそうになったが、杏琳がそれを防いだ。
そのようなことに目もくれず、蓉彩の隣で笑顔をパッと咲かせた憂仁は歓声を上げる。
「それはいいですね!!確かに公主にはうってつけの相手です!!」
「でしょ!?憂仁もそう思うでしょ!!」
晴開を勝手に婿にしようと意気投合する二人に対して、それを聞いた徒の本人はガバッと身を起こした。
「ちょっと待てよ!?蓉彩が俺を夫にしたいというのは、おかしいじゃねぇか!?何か理由があるってのか?」
「悪いかしら?晴開を私の夫君にしてあげてもいいじゃない?別に、孝然様が私への婿入りが叶わなかったからじゃないわ」
「そうですねぇ。孝然殿もですが、”白龍の龍召士”であれば公主の夫君にふさわしいかと」
憂仁が蓉彩の夫として晴開をお墨付きにしてくれたことで、彼女は更に誇らし気になった。しかし、自分のことを棚に置いた二人の言動に対して晴開は言い返す。
「じゃあ、何でお前は孝然より俺と結婚したがるんだよ!?」
「だって、彼の姿は見たことはあるけど――――結構よかったわよ。見た感じ。でも、面と向かって言葉を交わしたことないし、どんな人か分からないのに。そうなってしまったのは悲しいけど、やっぱり”白龍の龍召士“の晴開との方が……」
「何がだよ!?」
自分に求婚した理由を聞いた晴開に対して、蓉彩は顔を俯けて何故かモジモジしているようだった。どうやら彼女は、それに対して何か含むことがあるようだ。
それを見た憂仁は蓉彩がどのような理由なのか分かったのか、切れ長の眼がにやけるばかりだった。
姉妹三人のうち梅涼は、じれったい態度を取る蓉彩に強引に発言を促す。
「どうしたのよ、早く言いなさいよ!」
「公主、”アレ”ですよね!!”アレ”がしたいから――」
「何だよ!?”アレ”って!?」
「……そ、それは、晴開と私とで”房中術”を試したいからなのッ!!」
「「はァ!?」」
顔を赤らめながら蓉彩が告げた”ボウチュウジュツ”という聞いたことのない用語を晴開は理解できなかった。
すると彼は周囲から冷たい視線を向けられゾッとした。
特に姉妹三人は、その”ボウチュウジュツ”に対して、顔にただならぬ嫌悪の念を表して、その用語を言いだした本人と晴開とを交互に白い眼でねめつける。
一方憂仁は、蓉彩がそれを言ったことをやったとばかりに喜んでいる。かと思いきや、彼は戸惑いを隠せない晴開に視線を変えると、蔑んだような目を向ける。
「どうやら”白龍の龍召士”の貴方は、”房中術”というものが何なのか知らないようですね」
「な……何だよ?その、”ボウチュウジュツ”ってのは!?」
「そ、それは……その……アレを……あなたと……」
赤らめた頬を手で押さえた蓉彩は、その晴開が聞いた”ボウチュウジュツ”というモノを説明するのに難儀して悶絶し、言葉がままならないようだった。
いつまでも、彼女が言いだせないことにしびれを切らし、梅涼が大きく口を開いた。
「バッカじゃないの!?そんなことで、晴開の妻になりたいとか。ふざけるのも大概にしてよね!!」
「なんでさー、そんなくっだらない理由なの!?」
長姉に続いて蓮花も思わず、彼女の言うこと賛同した。
晴開はなかなか言い出せない蓉彩をじれったく思い、彼女に聞くのを諦めて杏琳に同じことをする。
「だから、どういうものだっていうんだよ?それは!?」
「……あのね……ちょっと晴開、耳を貸してくれる?」
自分にお鉢が回ってきたことに杏琳は、更にいやらしい物を見るような表情で、晴開に仕方なさそうに耳打ちした。
「その”房中術”っていうのは……いわゆる……男女の……睦みあいのことよ……」
「――――んんん!?、なアアァァんだってエエェェェ!!??」
杏琳が告げた”ボウチュウジュツ”の内容が発覚した途端、耳打ちした彼女が呆気にとられるぐらい、晴開は驚天動地の声を上げてしまった。
それに気づかない訳のなかった蓉彩はモジモジした状態のまま、晴開の方を見て唖然とする。
「あ、杏琳。晴開に”房中術”のことを教えてくれたのよね?」
「公主様、彼のこの有様を見て、分からないのですか?」
蓉彩は、自分がどうこうしている間に杏琳が例の件を教えていたことにやっと理解を示したようだ。
晴開は彼女が求婚した理由が未だに受け入れられず、頭を抱えてしゃがみ込んでブツブツとした呟きを漏らす。
「嘘だろ……いきなり、何だよ……!急に現れてきて、そんな理由で俺と結婚しろだなんて……」
「晴開、分かったかしら?私は、あなたを見た瞬間胸が抑えられず、私があなたとまぐわえば、”房中術”も上手くいくと……」
「まさに公主の言う通り!!さあ晴開殿、公主との婚姻を受け入れるんだ!!」
晴開は立ち上がって未だ頬を両手でおさえている蓉彩に向き直って言い放った。
更に憂仁は、未だに彼がそれを受け入れないことに痺れを切らして、凄まじい剣幕で訴える。
「確かにお前が言いたいことは解った。でも俺はお前と初対面なのに、結婚したいとか………その、”ボウチュウジュツ”をしてみたいとか言っているけど、どうかしてるんじゃないのか?」
「何だ!?貴様、今何と言った!?ふざけるな!!」
「ひ……ひどい……こっちは本気だったのに……!」
晴開は侮蔑と拒絶を混ぜたような言動で蓉彩からの求婚を断った。それを良しとしなかった憂仁は、彼を目の敵にしたように怒鳴り散らす。
その頃蓉彩は、急激に悲哀に満ちていき、悲しみを堪えきれなくなった貌を浮かべていた。
そんな彼女を見て、その発言が相手を傷つけてしまったことに晴開は後悔した。どうやら彼女への情が自分に生まれていたようだ。




