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8話

 杏琳きょうりんが自身の姉と妹に晴開せいかいを紹介する前に、彼女らから晴開を恋人だともてはやされ、その本人はうんざりとしていた。


 やがて彼女らのうち『めい姉ちゃん』と呼ばれた青髪の少女は、気を引き締めて晴開の方に向き直り口を開く。


「あら、いけない。私は杏琳と蓮花れんかの二人の姉、”后土四姉妹こうどよんしまい”の長女、岩梅涼がんめいりょうです」

「私は"こうどよんしまい"の末っ娘の岩蓮花がんれんかだよ!!」

「俺はりんせいかい。さっき、杏琳が行った通り”白龍の龍召士りゅうしょうし”だ」


 杏琳の姉と妹が自己紹介したので、晴開も同じようにした。すると梅涼が興味津々な顔をして杏琳に近寄り彼女に耳打ちした。その様子を見た晴開はその会話に耳をそばだてた。


「ちょっと杏琳、こんないいひとと一緒に来たんでしょ。もしかして、もう既に……」

「だああアアァァァァッッ!!」

「もうッ!!そんなんじゃないんだからね!!梅姉めいねえのバカ!!」


 梅涼がこっそり発した爆弾発言に、杏琳とそれを立ち聞きしていた晴開の二人は同時に頭の中が真っ白になり、否定の意味を込めて必死に騒ぎ出した。


 彼女は二人がここに来るまでナニをしていたか気になっていたようだ。杏琳は羞恥の念に駆られて顔をゆで蛸このように真っ赤になり、晴開の方はしゃがみ込んで頭を抱え震えていた。


 このような混沌カオスな状況を見た蓮花でも、自然と羨望の笑みが溢れるばかりだった。


「いや、絶対そうでしょ!!違うの?あんたも奥手なものよね。こんな美男子だから、初対面でも見惚れちゃったじゃない」

「今の晴開に聞こえたのわかるでしょ!!そんなわけないって!!」

「私はね、彼とどういう関係なのか聞いてるだけよ?それに、あんたにはもったいないわよ」

「だから、別にそんなんじゃ……なくて」


 姉に誤解を招かないように、杏琳は頭を横にぶんぶん振って必死に自白した。


 晴開は梅涼から”美男子”と言われたことより、彼女が杏琳に二人の関係を確かめていたのを耳にすべきではなかったことに後悔した。


 それに梅涼は、晴開が杏琳とともに過ごしたことにひどく嫉妬してしまったようだ。


晴開の所有権を主張する梅涼とそれを否定している杏琳に対して、蓮花はニヤニヤとしたかおをして晴開に近づく。


 それに気づかずにうずくまっている晴開の前に彼女は屈みこんで、自らの顔とともに持ち前のふくよかな胸部を寄せささやく。


「姉ちゃん達は置いといて、晴開には私がそばにいてあ・げ・る」

「――――んなッ!?何なんだよ!?お前ら姉妹は!!」


 晴開はたらしこむような蓮花の声がした上の方を見ると、彼女の懐からはち切れそうに揺れる二つの膨らんだ柔らかな物体が彼の額に当たった。


 そのまま晴開はその感触に驚いて、素っ頓狂な声を上げて尻餅を着いた状態で後ずさりしてしまう。

 そんな彼に対して蓮花は自分の者にしようと、上から目を光らせていた。


 彼はこの龍鳳界への転移前に二度も失恋を経験してしまいこの際けじめを付けて異性との関わりを拒んでいた。


 そんな晴開は転移直後に異性が一人、それから更に二人加わってしまう。

 

 しかも遭ってすぐに、その二人から自分と初対面にあるのにも関わらず、梅涼と蓮花に取り合いにされてしまい、晴開はおぞましい思いをした。


 未だに杏琳と論争を続けていた梅涼は、晴開の哀れな姿を見てその原因を作った末妹に告げる。


「蓮花!!私の《・・》晴開になにしているの!!」

梅姉めいねえやめてよ!!蓮花も!!晴開が拒絶しているじゃない!!彼は、”げん”から転移したばかりなのよ」

「そうだ!杏琳の言う通りだ!!お前らいい加減、俺を弄ぶようなことはやめろ!!俺は“幻世”から”せんくうかい”のぎょくていによってこの龍鳳りゅうほうかいに転移したんだ」


 杏琳が晴開を気遣ったことで、彼は自分が龍鳳界の人間でないことを、いつまでも彼の所有権を主張する気を取り直して立ち上がって姉妹二人に言い聞かせる。


 まだ彼女ら姉妹二人は晴開の龍召士としての素性を知らなかった。落胆していた彼女らはそれに気づき、晴開がなぜ”幻世”から転移したのか疑問を顔に出す。


「そうだったの……”幻世”ねぇ、何か聞いたことあるような気がするわ。この世界のどこかに眠る五龍王の封印を解き、召喚することの出来る”龍召士りゅうしょうし“がいる幻の世界(・・・・)ってことでしょ?」

「――――まぁ、そうだな。玉帝からはそんなこと聞いていないが。俺はこの秋兌国にある五龍王のうち白龍が封印された白龍祠はくりゅうしへ行かないとならないんだ」

「その場所を桃瑚とうこが知っていると思うんだけど、ここにあの子はここにはいないの?」


 晴開が龍鳳界へと転移された理由を説明を聞いた梅涼らは、彼にもう一人の姉妹の居場所を聞かれ、さらに深刻な面持ちとなってしまう。


「そうね……ここ一ヶ月以上は帰ってきていないわねぇ」

「桃瑚だったらそれ知っているかと思ってたのに……」


 白龍祠の在処を唯一知っている桃瑚の不在を知り、晴開と杏琳はがっかりした。


 梅涼は彼らのその様子を見て自分も同じような表情となる。それに対して蓮花は空気を読まず、純粋な疑問を晴開にぶつける。


「ねーねー、その"はくりゅうし"がどうかしたの?」

「俺はそこに行かないと白龍を召喚出来ないんだ。そうしなければ、夜叉五大将やしゃごたいしょうを全員倒せないんだ」

「でも、そのうちの一人の博叉バクシャを私が仕留めたのだけど……彼のことを”白龍の龍召士”だとわかっていて、またいつ奴らが襲ってきてもおかしくないわ」


 落胆してため息混ざりで言い終えた杏琳は、それでも自分が冬坎国の王太子の命を護ることが出来なかったことに自責の念を顔に浮かべる。


 そして遂に先ほどまで無邪気にはしゃいでいた蓮花も浮かない表情となってしまう。張りつめた空気が漂う中、再び口火を切ったように杏琳は声を上げた。


「それも全てえんしょうのせいよ!!きっとあいつがこうぜん殿を敵に弑逆させたのよ!!何としてもそいつを征伐するよう、主上に進言しないと!!」

「そんなこと出来るのか?」


 突飛な発言をした杏琳に、晴開は呆気に取られる。すると姉妹三人は彼に笑みを浮かべる。


「何言っているの。私が孝然殿の様子を探るように言ったのは主上からの命だって言ったじゃない。主上との面識はちゃんとあるのよ。私たち后土四姉妹は主上、ましてやこの秋兌国しゅうたいこくでは無くてはならない存在なの」

「私達は龍鳳界唯一の土徳のりゅうを持っているの。この国の”りゅうげん”の”太白たいはくこう"は金徳、つまり土生金つちはきんをうむだから私達とは相生の関係になるのよ」

「そーだよ!!だから主上は私達と仲良しなんだよ!!」

「だから、秋兌国王もお前らを重宝しているのか!!」


 この国において彼女ら四姉妹の重要性を晴開は理解した。するとここで梅涼がこう告げる。


「じゃあ”白龍の龍召士”をお迎えして、今夜は酒楼で歓迎会をしないとね!!」

「やったぁ!!お酒呑みまくるよー!!」

「おい、おい……お前らいくつだよ?俺は17歳だが」

「じゃあ、みんなあなたと同年齢(タメ)になるわね。四つ子だから」


 姉妹三人がまさか自分と同年齢(タメ)なのに、飲酒を嗜むことに晴開は驚きを隠せなかった。

 こうして日が暮れた後、晴開を歓迎するために閏商の繁華街の酒楼で姉妹三人は酒宴を開いた。

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