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17話

 勒叉ロクシャの攻撃に圧され、不利な状況にあった蓮花れんかだったが、晴開せいかいが懐に持っていた覚龍杖(かくりゅうじょう)に異変が起きた。


 何とそれに付いた金剛石ダイアモンドでできた覚龍珠かくりゅうじゅが光り出したのだった。


 すぐさま晴開は、蓮花の水徳と土徳の流気具である泥掻鈀でいそうはに当てるとその威力が増して、敵の攻撃を退くことが出来た。


 だがしかし、問題もあった。相手の火徳の攻撃は、晴開の覚龍珠の流気が金徳であるため、”火剋金ひはきんをこくす”という五行の相剋の法則となる。


 すなわち晴開、それが弱点となって彼が相手の攻撃を受ければ、危機に瀕するということだった。


「こんな小賢しいことをしたとて、所詮付け焼刃に過ぎん!!”白龍の龍召士りゅうしょうし”、お前はここで俺に殺されるがよい!!」

「そうはさせないんだから!!」


 そう意気込んで敵に言い放った蓮花に対し、勒叉は容赦なく晴開を狙って得物の火焰戟かえんげきから豪炎を間髪入れずに放ってくる。


 それでも晴開のおかげで威力が増した蓮花の泥掻鈀によって、敵の高速で繰り出す攻撃を跳ね返していく。


 相手は蓮花の隙を狙っても、彼女がそれを見逃さなかった。


「クソっ!!このアマ!!さっきまでくたばりかけていた雑魚の分際で!!」

「晴開には、一撃たりともアイツの攻撃を喰らったらいけないからね!!今度こそ、こっちから行くよ!!」


 そう言った蓮花は、瞬く間に勒叉に迫り、彼の得物との間合いに入り込む。敵はそれを見逃してしまったのか、蓮花の姿を上手くとらえることが出来なかった。


 そして彼女は、得物を相手の胴体を袈裟切りに右肩から斬りかかった。相手は、それを受け止めたが、それでも蓮花は何度も攻撃を繰り出し、互いに打ち合った。


 そのたびに勒叉の戟の穂先を纏う炎が、彼女が振るう泥掻鈀から生じる泥に掻き消されて焦燥を覚えた。


 両者とも凄まじい攻防を続けていたが、やがて蓮花の方が優勢となっていき、晴開は彼女の勢いに感激し、思わず笑みがこぼれた。


「いいぞ!!蓮花、この調子なら倒せるぞ!!」

「おのれ……お前さえいなければ……俺は……龍召士を……」

「何を言ってもムダだよ!!私はアンタ達から、この秋だしゅうたいこくを――――”白龍の龍召士”を守らないと!!」


 蓮花は自分の使命を尽くそうと、段々と敵の攻撃が弱まるのを見て、更に相手の身体の方へと踏み込んだ。


 そして彼女は、勒叉の右肩から袈裟斬りにするように己が得物を振り下ろし、その身体を引っ掻いた。


 敵はその猛撃に耐えられず、咆哮を上げて後ろへと倒れてしまった。


「蓮花!!よくやったな!!」

「これでアンタは、私に敵わないことが解ったかしら?」

「おのれ……俺がこんなムシケラに……なんてなッ!!」


 晴開が喜悦したが、蓮花はまだ彼に気を緩まぬよう喚起したのも束の間だった。


 何と勒叉は倒れる寸でのところで、それでも放さずに持っていた火焰戟から晴開に向かって猛火を放ったのだった。


「今度こそ!!消え失せるがよい!!」

「晴開!!危ない!!」

「うわああァァ!?」


 蓮花はそれをやっと目に留めると、晴開の方へと駆けだしたが間に合いそうになかった。

 危機が迫った晴開は――――相性が最悪の敵の攻撃に当たらぬよう、必死に右へと跳んで避けた。


 しかし、彼は体勢を崩して倒れてしまい、強打した頭部の右側から血があふれて流れ出した。


 しかも、その衝撃で彼の手から覚龍杖が落してしまい、覚龍珠の輝きも消えていった。


 思わず晴開のところに駆け寄った蓮花は、そこでしゃがんで彼の様子を心配そうに窺う。


 余りの最悪の事態が起き、彼女はかおに驚嘆と悲哀を浮かべてしまう。やがて眼から、涙をこぼしてしまった。


「そんな……私が……油断していたから……」

「フハハハハ!!これで龍召士がくたばったのなら、お前の流気が弱まるのも仕方ないわな」


 何事も無かったかのようにすっくと起き上がった勒叉は、晴開が再起不能となったことで、自分が巻き返すことが出来ると確信して、卑しい笑みを浮かべた。


 更に彼は、口を閉ざすことなく言い放つ。


「おお、お前は泣いているのか。女だから泣けばいいってわけじゃねェんだぞ!泣いたって、龍召士が蘇るとでも……」

「煩いわね……だから何だっていうの……?私はまだ戦えるわよ!!」


 相手からの皮肉を言われ続けた蓮花は、一気にそれを突っぱねた。


 彼女は自分の怒りで震える拳で得物を強く握りしめ、臍下丹田せいかたんでんに力を籠めた。


 そして勒叉へと瞬速で迫り、泥掻鈀を勒叉に振り下ろした。しかし相手は、それを火焰戟で受け止めた。


「無駄だ!無駄だ!!お前なんか一捻りで殺してやる!!」

「ゴタゴタと御託を並べることが出来ないくらい、私がアンタを引き裂いてあげるわ!!」


 両者がつばぜり合いをし始め再び互角となってしていたが、次第に蓮花が相手に押されてしまう。


「だからムダだと言っているだろうが!!どんなに抗っても、俺に勝てるわけがないってな!!」

「……ッぐぐぐ、キャアアアアァァァァ!!」


 やがて蓮花は、敵の攻防に耐えきれず、その強い勢いで突き飛ばされてしまった。


 そして、未だ倒れている彼のいるところまでに至り、受け身を取れず後頭部から地に打ちつけてしまった。


 それに晴開が気がつくとハッとして、落してしまった覚龍杖に手を伸ばそうとした。


 だが彼は、勒叉からのダメージを避けて転倒したせいで、起き上がるのも困難となってしまっていた。


「れ……蓮花……俺のために……」

「晴開……私……あなたを……守れ……なか……った……この……まま……」


 晴開と蓮花と二人とも負傷してしまい、立ち上がることが出来なくなってしまった。

 彼女は自分のせいで――――せっかく”白龍の龍召士”である晴開が幻世(げんせ)から転移したというのに、このまま死なせてしなうのだと自責の念が募る。


(私が……弱いから……この国は……この世界は……)


 それに対して勒叉はほくそ笑み、彼らにとどめを刺そうと戟を構える。


「フハハハハ!!貴様らの命運も尽きたな!!この最強(・・)である俺に楯突くからだ!!今度こそ、消え失せるがいい!!」


 晴開らを愚弄した勒叉は、地獄の業火のような猛炎を火焰戟の穂先から飛ばした。


 ――――その時だった。

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