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16話

 夜叉五大将やしゃごたいしょうの二人目の勒叉ロクシャが、大勢の己の手下を使ってきたので、杏琳きょうりんは応戦した。


 彼女は得物の火突槌かとつづい攻撃を防いでいたが、それらの数にが多く、苦戦してしまった。


「杏琳!!」

きょう姉ちゃん!!」

蓮花れんかッ!!私のことはいいから、早く勒叉に……キャアアッ!!」

「フハハハハ!!どうだ、お前が夜叉五大将最弱(・・)博叉バクシャは倒せたとしても、この最強・・である俺の子分ですら勝てるわけなどない!」


 そして杏琳は、敵の一団の猛攻によって城壁から落ちていった。幸い大火に呑まれている閏商じゅんしょう城内ではなく、外の方だった。


「よくも、きょう姉ちゃんを!!アンタなんか、絶対許さないんだからね!!」

「何とでもほざけ!!このくそアマどもが!!」

「蓮花……!?やめろ!!」


 敵に罵倒されても蓮花は先ほどまでと違って怯まず、泥にまみれた九本爪のまぐわをぶん回して、敵の軍勢に向かって行く。


 それでも彼らは、猛炎を戟から容赦なく放ってくる。


「無駄だよ!!私の泥掻鈀でいそうはは土徳と水徳の流気具りゅうきぐだから、あなたにとって私との相性は最悪だよね!!」

「さあ?それはどうかな?」


 蓮花は相手の挑発に乗せられたのか、意気揚々に応える。


 彼女は自らの臍下丹田せいかたんでんに力を込め、そこから四肢の周りを螺旋状に流れる勁路けいろの端から端まで流気を巡らせた。


 そうして生み出した力で発勁はっけいを起こした。


 更に彼女はまぐわの泥を纏った九本の鉤爪状の歯を地に突き刺して前方引っ掻くと、泥がそこから溢れ出た。


 それが壁のようになって、勒叉の手下どもが持つ戟から放った数多の猛火を防いだ。


「おのれ……小癪な!!この夜叉五大将最強(・・)たるこの俺の子分達攻撃が効かぬなどあり得ん!!」

「でしょ!!あんたは私には敵わないのよ!!さあ、こっちから行くわよ!!」

「おお!!やるな、蓮花」


 調子づいた蓮花は更に大勢の敵へと向かい、次々に彼女の姿を目で捕らえきれない程の神速で、歯先から大量の泥を纏った鈀をふるって、を薙ぎ倒していく。


 やがて、敵の一団は蓮花の得物による斬撃を喰らい、それら全てを一掃した。


「このクソアマが!!よくも俺の可愛い子分たちを……!!」

「ふふん、だから、アンタには私に勝てないのよ!!」


 敵の親玉が自分一人になり悔しがる様子を見て、蓮花は得意気になる。


 今度は勒叉自身が戟を構えると、その穂先の炎を更に燃やして、それをぶん回して蓮花にかかってきた。


「今度は俺の番だ!!火焔戟かえんげきの恐ろしさを思い知らせてやる!!テヤアアァァ」

「蓮花!!ヤバいぞ!!」


 先程よりも火焔戟からの猛火の勢いが増し、多くもの火球を勒叉は至近距離にいる蓮花に間髪入れずに放った。


「これくらい、へーきへーき…………って?キャアアァァァァ!?」


 蓮花は勒叉の攻撃を己が武器で受け止めたが、勒叉の手下どもよりも勢いによって、彼女は遥か後方の晴開がいるところまで圧されてしまった。


「そんな!?……私が相手に有利な水徳の流気具を持っているのに……!?」

「フハハハハ!!夜叉五大将最強(・・)である俺のこのハンパない流気の量に、お前は俺に勝てる訳無い!!」


 勒叉は不利な相手を受けることなく、得意気になったあまり自画自賛した。


 それに対して思わぬ敵の叛逆を受けた蓮花が落胆し俯くと、目から光るものが零れ落ちる。

 それを見た晴開は、自分が敵に何も歯向かうことが出来ないことを自責する。


「今気づいたが、そこにいる野郎は”白龍の龍召士”だったのか!!しかしお前は、未だそれを召喚できていない。俺に指一本ふれることなど出来ぬのだ!!二人ともここで死に果てるがよい!!」

「ちくしょうッ……!!」

「どおしよおおぉぉ……このままじゃ……あッ!!」


 晴開と蓮花は何もなす術もなかったが、蓮花が不意に晴開の方を見ると、彼の胸元が白く光っていることに気づいた。


 蓮花が自分に向ける驚嘆の眼差しを見て、晴開はそれが解った。


「晴開!!これは一体、どういうことなの!!」

覚龍珠(かくりゅうじゅ)が光っているだと!?」


 咄嗟に晴開は、懐に入れていた覚龍杖かくりゅうじょうを取り出した。


 それに付いた金剛石ダイアモンドでできた覚龍珠を目にいれた彼は、目が眩みそうになった。


 それを見た蓮花は、この状況を見てどのようにすればいいか思いついたようだ。


「――――晴開!!それを私の泥掻鈀に当てて!!金徳の流気を私に……」

「ああ!そういうことか!!この覚龍珠はお前が言う通り、金徳の流気を持っているのか!!つまり、”金生水(きんはみずをうむ)”。それをお前の流気具に当てれば……」


 勒叉はその途端に驚愕したが、次第に余裕がかおに表し、再び豪炎を戟から飛ばしていく。


「莫迦めが!!金徳の流気は火徳のそれが弱点なんだぞ!!」

「晴開早く!!」

「分かった!!」


 勒叉が放った炎が迫る中、咄嗟に五行の相生の関係を理解した晴開は、覚龍珠を蓮花の泥掻鈀に当てた。


 するとその穂先の爪が紫黒の光に覆われ、そこから大量の泥があふれ出た。すぐさま蓮花は炎に向かって振り上げた。


 すると、先ほどまで歯が立たなかった勒叉自身の流気を増した猛火がかき消えていった。


「なんだと!!白龍の覚龍杖の金徳を吸収したのだと!?」

「そういうことだよ!!でも、晴開気を付けて!!奴の攻撃は言っていたように、あなたの弱点だから私が守らないと」

「分かった!!」


 晴開にとって諸刃の剣とはいえ、蓮花に有利な立場となったことに得意気になることが出来た。

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