15話
閏商の城内で大火を起こした元凶を、蓮花杏琳と《きょうりん》が討伐しに行った。
そのさなか晴開は、自分では何も太刀打ちできないくせに、曾淑らの引き止めも聞かず、杏琳らを追って魄受殿を出ていった。
彼はその正面の光明門脇の階段から、阻止しようとする衛兵の手をすり抜けて城壁の上へと登っていた。
そこへ上がると、ただでさえ気温の高い真夏の昼間である上、更に大火による猛烈な熱波が襲ってくる。
すると、目の前には白義宮外の城壁に囲まれた市街地が、まるで火の海に飲まれているようだった。そこから見ても焼け崩れた建物や、数多の焼死体が転がっているのを窺えた。
凄惨な光景を目の当たりにした晴開は、煙を吸ったことによる呼吸困難とともに、嘔吐を催してしまった。そのため彼は身体がふらつきつつ、燃え盛る炎の出所を探った。
辺りを見回すと、閏商の城壁の北の一辺の楼門のうち、晴開が杏琳とともにここに来た時にくぐった星紀門の楼閣の辺りに、何やらいくつもの紅い光が城内を包むように放たれていることが分かった。
彼がそこを注視すると、夜叉五大将のうちの一人博叉のように――――幻世で見た金剛力士像に似た容姿の輩が何体もいることが、遠くから見ても分かるぐらい捕らえることが出来た。
「また、アイツか……おのれ……よくも……」
蔣于ではなく夜叉五大将の一人だと解り、それが目に入った途端、晴開のはらわたが煮えくり返るように憎悪が沸き上がった。
星紀門の門楼へと近づくにつれ、晴開は異形の軍団を窺う。何体もいるそれは、皺だらけで尖った爪の生えた手で火の玉を出して、街中に放っていた。
更に、その更に先の東の方には、それよりも図体の大きな奇怪な姿をした者がいる。
しかし、城壁に並んでいる手下は、よく見ると手前の方から順番に何者かによって薙ぎ倒されていた。
更にそこへと近づくと、ようやくその正体が特定できた。
「やだぁ!もう、こいつら何体いるのよ!?倒しても倒しても、キリがないよぉ~」
「ほら!!蓮花、私が防いであげるから、しっかりしなさい!!」
その喚声が耳に入った晴開は、先に敵のもとへ行った蓮花と杏琳だと分かった。蓮花は自分の得物と思われる泥にまみれた九本爪の鈀を振り回して、敵を城壁から落としている。
杏琳は彼女を護るように溶岩のついた突火槌で相手が繰り出す炎を振り払っている。
彼女らを見つけた晴開はその方へと、周りに目もくれずに追いかけていった。
――――その時だった。
蓮花らを相手にしていたはずの敵のより、奥の方から別のそれが火炎放射のように猛炎を晴開に放ったのだった。
「うわああああァァァァ!!」
「ダメええええぇぇぇぇ!!」
刹那、杏琳が晴開の前に出てきて、自分の突火槌で彼を襲ってきた猛烈な炎から防いで彼を護った。
「晴開!!ダメじゃない!!あなたは主上に魄受殿に残るように主上に言われていたでしょ!?」
「――――ったく、お前らのことが心配でつい、来てしまったじゃないか」
自分が戦力外にあるにも拘らず、彼女らがどんな目に遭っているか晴開は気にかけていることを告げる。
しかし杏琳は真剣な眼差しで、敵を訝しむ様子で見ていた。
彼は既視感のある相手のことを晴開は杏琳に確かめる。
「あの親玉は炎蔣于じゃないな。奴は、夜叉五大将の一人だな!!」
「そうね。だから、さっきの敵と比べて火徳の流気の量が比べ物にならないわ!!」
相手が蔣于ではなく、夜叉五大将の一人で、既に征伐した博叉より更に手強い敵であることに、戦慄が走った。
数多の敵を倒し続けていた蓮花が、晴開はがいる所に駆けつけた。彼女の貌には、悲哀の念が浮かんでいた。
「晴開!何で来たのよ!?あと少し杏姉ちゃんが遅かったら、死んでたかも知れないじゃない!!嫌だああァァ!!」
「そうよ、蓮花の言う通りよ!」
杏琳が告げたように、今まで倒していた敵の攻撃とは威力が断然と違っていた。その刹那、また晴開めがけて猛火が迫っていた。
「うわああァァ!!またかよ!!」
「ここは私が……キャアッ!!」
「フハハハハ!!よくも我が僕をかわいがってくれたな」
「今の攻撃は、あなただったのね!!」
その凄まじい火炎を放ったのは、もっと東にある角楼にいたのはずだったこの軍団の親玉だった。
それは、何とか蓮花が防いだことで大事には至らなかった。
しかし、その攻撃の勢いに圧されて後ろにいる晴開と杏琳に当たってしまう。あと少しというところで、火の海に飲まれた城内に城壁から落ちるところだった。
それを仕掛けた者というのが、今まで蓮花らが倒していた手下と違って仁王のように立ちはだかる約1丈(2.3m)程の身長で高く、どす黒い上半身裸の身体に紅い披帛を身体に纏っている。
「さては、夜叉五大将の一人だな!!」
「貴様、今何といった!?何故俺がそうだと分かったのだ!?」
相手が夜叉五大将の一人だと晴開は分かったので、それを聞かれた本人はその理由を問いただした。
「当り前だ!!10日前にお前の仲間をこの娘が仕留めてくれたんだ!!」
「ああ、博叉のことだろ。奴は夜叉五大将の中ではあいつは……」
「最弱だってことでしょ!あなたと比べて!!」
杏琳の挑発的な返答に、敵も晴開と蓮花までもが驚愕した。しかし、その相手は博叉よりも自分が強いことを褒められ、満足そうに卑しい笑みを浮かべた。
「そうか!そうか!この娘の言う通りだ!確かに奴は、博叉は夜叉五大将一最弱だからな――と言ってはなんだが、この俺は最強だと自分では思うんだがな」
「だとしたら、私があなたを倒したら、博叉と一緒で仲良く最弱ってことね!!」
「何をぬかす!!この勒叉様が最強に決まってるだろォが!!子分ども、かかれ!!」
「来るわ!!晴開は下がって!!」
勒叉と名乗った敵の親玉は激昂すると、先程とより大勢の彼の子分達が穂先に炎を纏った戟を振り回して炎を飛ばしてきた。
杏琳はその攻撃を防いでいくが、一人で多人数の相手をしなければならず、彼女は圧されてしまった。




